五:溺愛

「続編、出ましたよ」


 女の顔が、ぱっと明るくなった。明るくなった瞬間、閻魔は悟った。


 ハッピーエンドは終点にならない。ハッピーエンドは次の渇望になる。幸福が餌になっている。


『えんま様、この区画、リピート率が一番高いんです! 幸せって、クセになるんですよ!』


「……癖に?」


『はい! 満たされたって思った瞬間、もう次が欲しくなる。だから終わらない! 素敵ですよね!ハハ』


 素敵、という言葉に、閻魔は反吐をもよおした。


 さらに奥へ進むと「謎の区画」。

 暗い影が落ち、題名が囁く。


「犯人はお前だ! どんでん返し! 真相は次で!」

「真実に辿り着いたと思った? それは第一幕!」


 亡者たちは考察ノートを握りしめ、興奮で震えながら読み進む。

 一人の男が、屋台の前で立ち尽くしていた。ノートには、びっしりと文字が書き込まれている。犯人の名前が、何度も何度も、消されては書き直されている。


「……分かった。今度こそ分かった」

 男は震える手でノートを閉じ、次の紙束を手に取った。


 だが屋台の主が、にこやかに言った。

「その真相、覆りますよ」


 男の顔が――歓喜に染まった。

「本当か!」


 解決を喜ばない。覆ることを喜ぶ。真相は到着ではなく通過点になる。


『えんま様、この区画の人たち、ずっと考えてるんです! 寝ても覚めても! すごくないですか?』


「……すごい?!」


『だって、執着してくれるんですよ! 執着は、一番強い“推し”なんです!』


 塊は歓喜する男を見た。

 その瞬間だけ、半透明の体が濁り、すぐに元の明るさへ戻ろうとした。


 

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