四:無双

「ドラゴン討伐! 無敵チート! 今度こそ最強!」

「ダンジョン! 階層! 周回! 報酬!」


 亡者たちは目を血走らせ、紙束を奪い合う。ある女が「次こそ神になる!」と呟きながら、また別の束を掴む。終わらない冒険の渇望が空気を熱く焦がしていた。


 閻魔は気づいた。彼らの手から、紙束が滑り落ちていることに。滑り落ちても気づかない。気づいても拾わない。次があるから。次があれば、落としたものは「なかったこと」になるから。


『えんま様、見ました? あの人、もう百回は転生してます!』


「……百回?」


『でも、まだ神になれてないんです! 神になる前に、次が出ちゃうから!』

 塊は楽しそうに言った。その楽しさが、淡々としていて、閻魔は戦慄した。


 次に「恋の区画」。

 甘い匂いが漂い、屋台から甘い声が漏れる。


「運命の出会い! 禁断の愛! ハッピーエンド保証!」

「破滅回避! 溺愛! 追放からの逆転!」


 女性の亡者たちが群がり、涙目で「もっとドキドキを……」とつぶやく。


 一人の女が、紙束を胸に抱きしめながら震えていた。震えは喜びではない。渇きだ。


「……足りない」

 女は囁いた。囁きは誰にも向けられていない。自分自身に言い聞かせるような、祈りに近い声だ。

「もっと、もっと甘く……」


 だが目の前には、すでに山のような紙束がある。読み終えたものだ。読み終えたのに、満たされていない。


 屋台の主が、優しく言った。

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