誘拐という名の犯罪

@koruzirine

第1話 何気ない昼、非凡な夜

 毎日が苦しい。もう、耐えきれない。逃げたい。でも、逃げるには死以外の選択肢はない。誰か、助けてよ。誰でもいいから。お願いだから。



 暗闇の中を私、仲川紫織なかがわしおりは一人でとぼとぼとと歩く。制服のブレザーのポケットからスマホを取り出すと時間を確認し、またポケットに直す。ちょうど二十時であった。

 部活がある日はいつもこうだ。花道部なので、あまり遅くまで活動しないが、家から学校までの距離が遠いため、部活がある日は家に着くのがどうしても遅くなる。だが、今日は特段遅い。


 普通なら駅までは自転車で行くが、今日は朝雨が降っていたため、バスで行くことにした。もちろん、帰りもバスに乗ろうと思っていたが、電車が遅れており、バスの時刻と合わなかった。この辺りでは、バスは一時に一、二本しかない。そのため、歩いて帰った方がよい。親に車で迎えにきてもらいたいが、お父さんは仕事だし、お母さんは車を運転できない。自転車で迎えにきてもらい、一緒に帰ることもあるが、今日はなんだか一人でいたい気分だ。


 お母さんに『歩いて一人で帰る』と、連絡を入れたら、『了解だよー。暗いから気をつけてね』と返信があった。『高校生なんだから、それくらいわかってる』と送った。いつも通りである。



 日が落ちるのが早くなってきたことで、冬の訪れを感じる。二十時だと、辺りはもう真っ暗だ。住宅街のせいか、まったく車通りはなく、人もいない。ほのかに街灯のオレンジ色が道を照らしている。


 なんだか今日は疲れた。特に何かがあった訳ではない。強いて言うなら、体育で走ったことぐらいだろう。ただ、何の変化もない今日というこの日に、嫌気を感じているだけだろう。そんなことを感じるのも日常である。


「はあーーーー」

 と無意識のうちに長いため息が出た。それでも、止まることなく歩き続ける。その時、後ろから低い声がした。


「あの、仲川紫織さんですよね」


 あまりにも突然のことだったので驚いた。後ろに人がいることすら気づいていなかった。恐る恐る声がした方を見る。そこにはフードを深く被った人が立っていた。そのせいで、顔が全く見えないが、声の低さからして男性であることは間違いないだろう。ただ、聞き覚えのない声だった。それに、こんなにも背が高い知り合いはいただろうか。


「そうですが。どちら様ですか」


 私がそう尋ねるとその人は何も言わずに私に近づき、私の腕をグッと掴んだ。その時、わずかに見えた口は笑っていた。


「少し、俺に付き合ってもらえますか」


 この人は危ない。逃げるべきだ。そう思い、体を動かそうとしたが、恐怖のあまり体が動かない。そして、腕を急に引かれたせいで、その人にぶつかった。助けを呼ばなければと思い、必死に声を出した。


「助けて…………誰か」


 何とか出た声はかすれて聞き取れない程だった。その時、口を手で覆われた。何とか手を離そうと試みたが、力が強く動かない。そして、次第に視界が狭くなっていき、意識を失ってしまった。



「やっと貴方に会えた」

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