第四話〜記憶〜
「あなたがアキラ?私はアカネ!よろしくね」
んー、なんだ?アカネ……?随分小さくなったな。
「ねえ、アキラはどこから来たの?」
どこから?そんなの戦闘用人型アンドロイド研究所で作られて……ってこれはなんだ?
「へぇー、アキラって人間じゃないのね」
そんなこと子供の頃……ってアカネがランドセル背負ってる、かわ……じゃなくて!今見ているこれはなんだ?!
「ねえアキラ!アキラは私のことを守ってくれるんだよね?」
当たり前だ、俺は護衛するためにアカネのところへ来たんだ。
「約束だからね!一生私と一緒だからね!」
一生はやだなぁ、俺死なないし。
んー、なんだ、なんかぼやけて……
「アキラぁ……テストで40点だったぁ、お小遣い減らされちゃう……ねえ、私のこと守ってくれるんでしょ?これアキラのテストと交換してよ!」
あ、このアカネは中学生かな?
この時名前だけ書き換えて出したら結局筆跡でバレたんだっけか、お小遣い2ヶ月貰えなくなって俺がアイス奢ったっけ。
所々アホだよなあ……
って、ほんとろくな思い出が、思い出?
ああ、そうか俺は今ーー。
「あ…ら…」
ん?
「き…ら」
ん?アカネの声だ。でももう、何も見えないし浮かんでも……あれ?アンドロイドって死なないのでは?
「あ……きら……アキラ!アキラ!」
ぐわんぐわんと体が揺さぶられているのが分かる、き、気持ち悪い……。
「アキラ!起きて!アキラーーー!!!」
「っがわぁ!っっっるせえ!!!」
耳がキーンとする、鼓膜破れてねえだろうな?
「ってぇ……耳元で叫ばなくてもいいじゃねえか」
「だって!アキラ全然起きないし、体がベッドの上ですっごい跳ねて大変だったんだから!死んじゃうかと思ったんだよ!」
いやだから死なねえって、と言おうとして顔を上げると俺の顔をジッと見つめるアカネの目が少し腫れちゃっていた、可哀想に。
ぱっちりとした目がまるで海のようにうるうるとしている。
って、ベッドで跳ねるってなんだ?そういう仕様なのか?
「ああ、うん、ごめんな、アカネ。心配かけたな、ありがとう……で、ここどこ?」
「もう!本当に二度と目が覚めないかと思ったんだから!……保健室!アキラがずっと寝てるから夜になっちゃったよ」
そう言われて辺りを見回すとなるほど、保健室だ。
「ん?……保健室?夜?さっき帰ったじゃん、アカネがなんで学校にいるんだ?」
「だからぁ!」
頬を紅潮させて眉間に皺を寄せるアカネ。
何かを言いたそうだが、急に恥ずかしくなったのか口をぎゅっとして言葉を押さえ込んでしまった。
そうか、戦闘が起きた後で不安だっただろうに、俺のために学校まで来てくれたんだもんな。
「ダメじゃんか、アカネになにかあったらどうすんだよ」
ベッド脇に座るアカネに腕を伸ばしてそっと引き寄せる。
「ちょ、ちょっと!」
驚かせてしまったかな?でも、俺はこうしたかった。
嬉しかったし、安心したし、なんだか気持ちも温かい。
「あー、青春しているところ悪いんだが……」
へぁっ?!
2人で声にならない声を上げてしまい、扉の方へ視線を向けると
「た、隊長!」
「すまんなあ、戦闘直後に罰走させたのは間違いだったよ。まさか倒れてしまうとは……申し訳ない、とにかく無事でよかった」
「いえ……死にはしませんから」
隊長は俺の言葉を聞くとバツが悪そうに俯いて頭を掻く、あ……嫌味になってしまったか。
「そうだ、アカネを呼んだのは隊長ですか?」
「ああ、いや、確かにゲンドウさん家に電話した時はお母様が……ってそういやお前ら名字一緒じゃねえか」
クスッとアカネが笑う、やっと笑ってくれた。
もう落ち着いたようだ。
「俺、アカネの護衛用アンドロイドなんで名字一緒なんすよ、ややこしいっすよね」
「そんなことはねえけどよ、なんだか結婚してるみてえだな!そんなわきゃないか!まあ俺は独身だけど!」
ガハハ!と笑い声を隊長があげた時だった。
「け、け、け、結婚なんて!な、なに言ってんですか!大体アキラは……」
アカネがパニックになっている。
まったく……泣いたり叫んだり落ち着いたり慌てたり、こいつはせわしないな。
「おっとすまんすまん、セクハラになっちまうな、お母さん呼んでおいたから一緒に帰れよ」
じゃ、あとは若いのお二人でと言いながら隊長はこちらに親指を立てて去っていった。
余計なお世話だっ!セクハラオヤジ!
「てか!アカネ!1人で来ちゃダメじゃないか!」
「だってお母さんがアキラが倒れたって言うから私……」
「危ないだろ!もし警報が鳴ったらどうするんだ!あと、ほら、女の子が1人で出歩くのは危ないだろ、夜になっちゃってるし」
「ん?んん?んー?なにー?心配してくれてるのー?」
ニマァっとぱちくりお目目をくしゃっと垂れさせて口元をニィッとあげるアカネ。
つんつんするな!そのつんつんやめろ!
ったく。
「別に」
一言だけ呟いた後で窓へ目を見やる。
暗闇の中で揺れる草木が、ふっと心を騒がせた。
「それにしてもさ、遅くないか?」
なにが?ときょとんとするアカネ。
「いや、お母さんだよ、アカネの。アカネん家から学校まで遠くないのに」
「そういえば……」
いそいそとデバイスを取り出すアカネ、どうやらお母さんの位置情報を確認しているらしい。
うーん?あれ?
アカネが不思議そうに手に握ったデバイスを見て首を傾げる。
「お母さんの位置情報が見られないんだけど……」
はあ?そんなわけないだろ。
どれ、見せてみとアカネからデバイスを受け取る。
画面には接続エラーと表示されていた。
「いやこれ……お母さんの位置情報が見られないんじゃなくてアカネのデバイスに衛星電波が入ってないんじゃ」
ん?電波が入らない……?そんなことはあり得ない、衛星電波通信が途絶えるということは宇宙の皇国通信用衛星が破壊されたということになるが、それはつまり戦争を意味する。
故障の場合は同盟国のデータリンクを利用するので位置情報の確認は可能だ。
何が起きているんだ。
「おい!保健室のゲンドウアキラ!まだいるよな?すまんが非常事態だ!至急職員室まで!ゲンドウアカネさんは今すぐシェルターへ避難!いいな!すぐだ!」
校内に流れる切羽詰まったような隊長の声。
「アカネ!シェルターまで送るから!行こう!」
「え?あ、うん、何が起きたの?大丈夫だよね?」
突然のことで不安の表情を浮かべている、無理もない。
俺だってまだ何が起きているのか、どういう状況なのか分からず頭の整理ができていないのだ。
でも、今はやるべきことをやるしかない。
「大丈夫、大丈夫だから、先生達もシェルターにいるはずだから落ち着いて、ね」
アカネの肩に手をそっと乗せて諭すと、小刻みに震えているのがわかった。
だがこちらに心配をかけたくないのか、はっきりとうん、わかったと頷いた。
「アカネさん!アキラ君!大丈夫?!」
息をあげながら姿を現したのは保健室の先生だった。
いつも艶かしい声色とキリッとした顔立ちで男子生徒を夢中にさせている先生が、焦りがそのまま出たような声を発し、表情を険しくさせている。
「アキラ君は急いで職員室へ行って!まだ大丈夫……だと思うから!アカネさんは私と一緒にシェルターへ!」
頼みます、と俺が一言先生へ向けると、
「アキラ……あとで!また会おうね!気をつけてね!」
精一杯の笑顔で、力強いアカネの声。
恐怖の中状況を飲み込めていないだろうが、何をすべきかを理解してすぐにパッと切り替えられるのはアカネの強みだ。
うん、と頷いた俺を見るや否や、病み上がりが無理しちゃダメだぞー!と言って先生と共に走り去る、本当に心配してんのかね。
ハハッと乾いた笑いを置いた後で一呼吸。
ベッドから起き上がり、靴を履く。
腰に手をやり、武器携行の確認。
手に触れた携行銃がひんやりと冷たく、芯まで凍てつかせるようだった。
「さて、行きますか」
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