第二話〜戦闘〜
俺の持ち場は正門を出てまっすぐ坂道を下った先にある大きな道路の交差点だ。
教室から走って向かっておよそ6〜8分。
距離にして約1.5km。
っべえ、隊長に叱られる。
学校で非常呼集がかかった場合は持ち場まで5分以内の集合が規定されており、そのため戦闘生徒は原則チャリ通となっている。
ただし、学校外の場合は要請に応じて現場へ向かう体制になっており、その際地区防衛要員になっていなければ集合の時間は問われない。
現在地からおよそ5km圏内の場所での防衛戦闘要請を受けることになる上、護衛対象がいる場合は護衛が最重要とされ防衛任務は免除、代替要員が派遣されることになっている。
ーーと、そんな規定が頭の中でぐるぐる回る、なぜか?
なんで今日に限って学校なんだ!なんで自転車がパンクしてんだよ!今日なら地区防衛要員になっていなかったのに!地区防衛なら現着した時に戦闘終わっていたかもしれないしサボれたかもしれねえ!
という現状への恨み節が浮かんだからだ。
もはや、はあはあ、という息遣いではなく、っぐへ、っぐへ、という今にも死にそうな呼吸音になり肺が熱く痛み出す。
横腹も痛い、しかし走らなければ、なんで体はこんな痛みと苦しみを感じるようになってんだよチクショウ!
しかし疲れはない、足は動く、苦しさと痛みに耐え必死で走る。
正門を抜け避難する非戦闘員達を横目に坂道を駆け下りていく。
時間はーーあと2分でリミット。
なんとか間に合え、間に合え!罰走は御免だ!
コンクリートを蹴り返す足音の中に
「点呼!いち!」
と、響く声が混じる。
うわっ、間に合わ……。
「敵襲来!直上!予知指令通りのポイントでゲートが開く予兆を確認!点呼省略!各員戦闘準備!射撃態勢!」
隊長の野太く通った声がはっきり聞こえた時には息を切らしてなんとか隊列に合流、助かった…のかな?
息つく暇もなく、周囲と同様慌てて腰に巻きつけたホルダーから携行銃を取り出し片膝を地面につき射撃態勢へ。
ふぅ、とようやく一息着いた時、青く澄み渡っていた空が割れ、大きな魔法陣のような丸く金色の光が現れた刹那、俺達がいる位置から右方向、四車線はある大きな道路の真ん中に光の柱、と形容しようか、ともかくその光の柱が静かに、まるでその場にあったかのようにスゥッと出現しそれは空の大きな魔法陣型の光の円と繋がっていた。
「皇国軍前衛部隊は我が部隊位置から向かって左後方距離千!攻撃開始まで5分!敵後方防御部隊を我々で叩く!構え!」
隊長の指示が再度飛ぶ、何度も聞いた同じような命令。
しかし、聞くたびに構える銃の手が震えて中々止まらない。
部隊は10名、敵が出現後すぐに自動攻撃システムにより対象をロックオン、一斉射撃で敵後方防御部隊を殲滅する。
制服姿の生徒が、銃を構える異質な光景。
だが、そんな意識に囚われる暇もなく俺の視界は戦闘システム画面で覆われた。
敵戦闘員の配置状況やロックオン状況、被弾状況や部隊の被害状況等、必要な情報を脳に浮かべると同時に表示される優れ物だ。
これがチートスキルってやつか?
いや、科学文明の賜物という他ない。
'''網膜表示システム異常なし、攻撃命令を確認、自動攻撃システム発動、携行武器判定、武器リンク完了、味方識別信号を発していない掃討対象を確認次第ロックオンします、攻撃指示後射撃を始めてください'''
脳内に直接響く自動音声、そして。
'''掃討対象を確認しました、ロックオン完了、弾丸自動追尾システム正常、攻撃を開始してください'''
ためらわず引き金を引くと、
ドンッ、ドンッ、ドンッ、という携行銃の衝撃が全身を貫く。
冷たいこの衝撃で心が凍てつきそうになるがしかし、ただ無心でひたすらゲームのように。
脳をクリアにして無駄な意識を排除し射撃を続ける、そうしなければならない、いや、そうするしかない。
'''3体排除、新たに掃討対象確認、ロックオンしました、攻撃を続けてください'''
今回は数が多い、まだ終わらないのか、聞こえてくる敵の悲鳴の中に撃て!と鼓舞する隊長の声が混ざり、さらに皇国軍による攻撃開始までの残り時間を知らせるため声を張り上げている。
周りの仲間もひたすらに引き金を引いているのであろう、余計な言葉は聞こえてこない。
'''掃討対象の殲滅を確認しました、自動攻撃システムダウン'''
待ってました!この声が響けば任務完了だ。
「射撃やめ!皇国軍部隊による攻撃開始まで1分!直ちに校舎へ退避!自転車回収は警報解除後するように!敵戦闘員からの攻撃があった場合は各自応戦のため射撃許可!以上!」
隊長の号令と共に走り出し、坂道を駆け上がる。
'''射撃許可確認、マニュアルモードへ移行、射撃許可解除確認後、システムを自動的にダウンします'''
脳内に自動音声が響くがこちらへ向かってくる敵は1人もいないようだ、少し安堵する。
……射撃には自信がないからマニュアルモードは大の苦手で、今来てもらっては困るんだけど。
そんなことを考えているとヒュゥゥゥゥゥと空を裂く音が聞こえ、直後、ドォン!と地響き。
これを皮切りに次々に炸裂音と地響きが俺達を包み込む、皇国軍による敵への攻撃……殲滅戦が始まったのだ。
これなら大丈夫だ、問題ない。
そうしてしばらく、先頭を走る隊長の足が緩やかになり、止まった。
「よぉし、ここまで来れば巻き込まれはしないだろ。敵もこちらへは来られまい、この坂を上がったら正門前で点呼するぞ……ってまあ、みんな無事か」
と言って、こちらを笑顔を浮かべて見渡す。
安堵の空気、戦闘後によくある束の間の緩んだ雰囲気。
しかし、悪くはない。
今日も1人も死なずに済んだ。
「しかしなあ、俺は人間だしお前らが守ってくれるからほぼ死ぬことはねえし定年もあるけどよ、お前らは敵さんが来なくなるまでずぅっと戦うんだろ?なんだか可哀想だな」
前を向いて歩きながら呟く隊長。
言葉を返す者はおらず、黙々と坂を歩き続ける。
隊長、とはいえ学校での非常呼集時に戦闘生徒をまとめるだけの皇国軍から天下ってきた男性教師だ。
日々俺達と触れ合う時間も長い、こういった情が出てしまう人は少なからずいる。
その相手が、戦闘用人型アンドロイドだとしても。
「さて、もう大丈夫だろ、射撃許可解除な」
「ーーあ、そうだゲンドウ」
隊長が何かを思い出したかのように歩みを止めて、こちらをニヤァッとしながら見やる。
「お前、遅れてきたろ?罰走な」
はあ…隊長殿の目は俺達の戦闘システムより優れていますね、そうバツが悪そうに返すと炸裂音をバックに隊長と10名の笑い声が空気を揺らした。
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