第2話 【気学】死を招く3番テーブルと、小さな手のひら
「占いで犯人をって、まさか店内に……!」
店員が困惑し、野次馬がざわめく。
だが、私は止まらない。モンブランのクリームが劣化する前に、事件を片付ける。私の情熱は、犯人への怒りではなく、限定スイーツが食べられない現状に燃えていた。
どさくさに紛れて帰ろうとする客に、私は怒鳴った。
「そこ、動かないッ!! いい、よく聞きなさい。救急車が来るまでの数分間で、私が事件を解決するのが、この店にとっても、この紳士の救出にとっても最短ルートなの! それとね、ケーキ屋の店内であっても、この世には『座っていい場所』と『死を招く場所』があるんだから」
死を招くと聞いて、店内の全員が背筋を伸ばした。
私はバッグから、使い古された方位磁石(羅盤)を取り出した。店内のアール・ヌーヴォーな内装に、
「今日は、
「……え、あ、3番テーブルです」
「3番……。南西の『
私は扇子で、店内の人間を順番に指し示した。
真っ青な顔で震えるパティシエ。
早く帰りたいのか、苛立っているスーツの中年男。
私の威圧感にビビるホール担当の女性店員。
「この三人のうち、この『死の座席』に近づいても影響を受けない、特殊な宿命を持っている者が一人だけいるわ」
私の言葉に、ホール担当がビクりと肩を震わせた。
「私はただ、仕事としてお水を運んだだけで……」
「あなたは違うわ。あなたの『
私は次に、苛立っているスーツの男を真っ向から見据えた。男は高級そうな腕時計を何度も叩き、私を睨みつけている。
「なんなんだ、あんたは! オカルトを振りかざして客を止める権利があるのか? さっさと、警察を呼べ! 俺は大事な商談があるんだ!」
「オカルト? これは、精密な人間統計学だから。あなた、名前は?」
「……桐島だ。統計だろうとオカルトだろうと、どうでもいい」
「適当な偽名ね。あなたのその厚い唇と、横に張り出した頬骨……これは『
私が一歩踏み出すと、男は目に見えて動揺し、後退りした。
「な、何を根拠に……!」
男は顔を引き
私は周囲を見渡しながら、独り言のように続けた。
「右耳の『赤み』は、今の3番テーブルが放つ【数霊(かずたま)】の乱れを、あなたが最も近くで吸い込んだ証拠。……店員さん、この男が紳士の側に近付いた監視カメラの記録はあるかしら?」
「映像はありませんが、この方が紳士のお隣を通られたのを覚えています」
外堀が埋まっていく。
男は額に脂汗を浮かべ、必死に声を絞り出した。
「だ、だからなんだ! 隣を通っただけで犯人扱いか! 証拠を出せ、証拠を!」
「証拠なら、警察が来ればあなたの持ち物から出てくるでしょうね。……さあ、認めて、さっさと自首しなさい。そうすれば、私のモンブランが食べ頃なんだから」
私は扇子で、男の胸元を冷ややかに指した。
これで、完璧。
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