第2話 遭遇

博士は激しい憤りを感じた。それは未知の物体への恐怖ではなく、自らの脳内に、一瞬でも「超自然的」「神秘的」といった言葉が掠めたことに対する、理性的存在としての屈辱であった。考えてもみるがいい、あと数年もすれば、輝かしい20世紀の幕が開く。蒸気機関が世界を繋ぎ、電気が夜を駆逐し、論理が宇宙の深淵を暴こうとしているこの時代において、幽霊や妖怪の類など、もはや喜劇にしか過ぎないのだ。しかもここは中欧の心臓、プラハである。かつては錬金術師たちが跋扈した狂騒の街かもしれないが、今現在、この街の住人である彼は、少なくとも自身では厳格な論理の番人を自負していた。そんな自らの書斎に、記述不可能なオカルトが紛れ込む余地など一分たりともあってはならない。

「これは…」彼は自分自身を叱咤するように論理を組み立てた。「建物の腐朽によって生じた特殊な菌類の集積か、あるいは地下から漏れ出た可燃性ガスによる化学反応の一種だろう。そうだ、そうに決まっている」

窓の外を見ると、冬の冷たい夜霧が立ち込めていた。空が薄紫に染まり始めていたが、その時点で彼は、まるで何日もさ迷い歩いていたような、果てしない疲労感に襲われていた。不思議なことに、その後書斎からの異音は聞こえなくなった。そうなると、まるで自分が見たものが、現実ではなく、質の悪い白日夢のように思えてしまうところが不思議なところだった。やがて力尽きると、椅子に腰掛け、すぐに強い眠気が彼を襲い、そのままテーブルに突っ伏して意識を失ってしまった。

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2026年1月21日 02:00

博士の最期の秘密 八月光 @L_IN_A

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