第2話 出てきませんから

 深夜、トイレを借りるためにコンビニに入った。

 何も買わないのもな、と思ってガムを買い、店員に声を掛けた。

 「すみません、トイレお借りしていいですか」

 「今の時間はお貸しできません」

  若いアルバイトの男は、めんどくさそうに答えた。

 さっき店に入ったときに女性がトイレに向かったのを俺は見ている。

 (なんだよ。俺も勝手に入っちゃえばよかったかな)

 「どうしても駄目ですかね」

 「はい。駄目です」

 死んだような目つきでぼそぼそと答える。

 するとトイレから水を流す音が聞こえた。

 「ほら、使ってる人もいるじゃないですか」

 店員がジトっとした視線をトイレに向けた。そのとき。

 「アーーーーーーーーーーッ。アーーーーーーーーーーッ」

 女性の甲高い声が店内に響き渡った。声の直後、トイレのドアがガタンガタンと揺れる音がした。

 店員は何も気にする素振りも見せず、無気力に突っ立っている。女性がトイレで暴れているのに、アルバイトとはいえよくもまあそんなに無関心でいられるものだ。

 「大丈夫ですか?何かあったんじゃないですか」

 「大丈夫です」

 トイレのドアは「ドンッ・・・どンッ・・・・ドン・・ドんッ・・・」と不規則に音をたてている。ドアに何かがぶつかっている音だ。

 「どう見ても大丈夫じゃないでしょ」

 トイレを気にする俺にうんざりしたのだろう。めんどくさそうに店員が言った。

 「あと10分くらいすれば終わるんで。音が止まったら勝手に入っていいですよ。女は出てきませんから」

 店員は俺を見ずにブツブツと、今までに何度も同じことを話してきたかのように、まるでマニュアルのように無機質に事務的に言った。

 「出てこないっていうのは、女はトイレから出てこないって意味です。出てくるの待たなくていいです。音が止んだら入っていいです。トイレに入ったお客さんの前に出てくることも無いです。今の時間だけなんで。音だけなんで。」

 店員は毎日毎日言わされて飽き飽きしているといった表情で、バックヤードに入って行った。

 バックヤードのドアが閉まる前、室内の壁に大量のお札が貼ってあるのが見えた。

 女の声が聞こえる前、トイレの水が流れる音がしたのを俺は思い出した。

(・・・首吊りすると小便たれ流しっていうもんな。やっぱりそんな姿をさらすのは嫌だったんだな・・・)

 ドアに何かがぶつかる音はまだ止んでいない。

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