夜夜一夜(よながよっぴて) ~奇の断片~

夏の月 すいか

第1話 田内君の話①(仮題)

 小・中学校の頃の友人の田内たうち君(仮名)と15年ぶりに電話で話す機会があった。

 彼は現在、宿泊サービスのある老人向け介護施設の事務員として働いているらしい。

 利用者の送迎もあるし、宿直もあるし大変だよ。と言う。

 夜中に宿泊利用者の具合が悪くなり、亡くなってしまうということも一度や二度でなく体験したことがあるという話を聞き、不謹慎ながら興味本位で尋ねた。

 「何か怖い話とか無いの?心霊体験みたいな」

 「あるよ」と、田内君はさらりと言った。


 田内君とパートの女性職員の二人きりで宿直の夜のこと。

 主な仕事は定時の見回り。それ以外は待機室で二人でいるそうだ。夜中の業務自体は少ないとはいえ、二人きりで宿泊利用者の老人複数名を気に掛けるのだから、やはり相当大変な仕事である。

 何か不測の事態が起こったときには警部会社に通報する手筈てはずになっている。通報のためのボタンを押すと、確認の電話が会社の携帯電話に掛かってくる手筈になっている。

 突然、携帯電話が鳴った。相手は警備会社だった。

 「何かありましたか?」と田内君が出ると

 「何かありましたか?」と相手も言う。

 話がかみ合わず尋ねると、どうやら直前に警備会社に通報があったらしい。

 「いえ、通報していませんが」

 「そうですか。そちらからの通報のランプが点いたのでお電話差し上げたのですが」

 「分かりました。他の職員に確認してみます。お手数おかけしました」

 電話を切り、別室に居たパートの女性職員Aさんを呼んだ。通報ボタンは田内君がいる宿直室にしかないためAさんが通報した可能性は低かったが念のため訊いてみた。しかし、やはりAさんも通報していないという。

 2人で不思議がっているとまた電話が鳴った。警備会社だった。

 「もしもしお世話になっております。先ほどの件ですが、こちら通報していませんでした」

 田内君が報告すると警備会社の人は「うーん」とか「はあ」とか何か言いづらそうにしている。

 「こちらは職員二人しかいないので通報してないのは間違いありませんが・・」

 「いやぁ、あのですね・・・」どうも歯切れが悪い。

 「どうしました?」

 「先ほどの電話の後も3回、通報があったんですよ」

 さっき電話を切った後、田内君は通報ボタンを押していないし、Aさんもずっと一緒にいる。部屋に出入りした者はいない。・・・警備会社の人は続けて言った。

 「それに・・・、今も通報ボタン押されてるんです」



 田内君は作り話をしたり、話を誇張したりするようなタイプではない。「(怖かった体験)他にもあるよ」と言っていたので、またあとで教えてもらう約束をして電話を切った。

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