#2:出会い

 フクがビルの中へと向かう。電源が落ちているのか中は暗く、ちょうど曇り始めてしまったのか窓から月明かりが入ることもなく真っ暗だ。

 階が上がるにつれて血の匂いが濃くなってくる。四分の一ほど登った時、特に血の匂いがキツくなり、階層を探索してみるといくつかの死体があった。

 おそらく報告にあった組織の用心棒たちだろう。なんとも酷い死に方をしている。大きな刃物で滅多斬りにされている者や、大きなハンマーで押し潰されたような者までいる。

(コレは...隊員たちをつれて来なくて正解だな)

 戦闘になった際確実に足手纏いになっていただろう。

 目的を思い出し、さらに上へと昇るとやがて最上階に辿り着く。

(よし、この辺でいいだろう)

『恐怖症』患者が居ると聞いている部屋の少し前で猫型ロボットを取り出す。

 起動すると尻尾をゆらゆらとさせ、まるで本物の猫のようだ。カメラ機能に問題のないことを確認する。コントローラー端末を操作し、患者のいる部屋へとロボットを向かわせる。

 扉が半開きになっていたのでその隙間からロボットを部屋に入れると、

「だれ...?」

 少女の声がした。少女は部屋の隅に座り込んでいるようだ。

 少女は警戒しているのか部屋の奥へと後ずさる。

 通信機能を使って答える。少女の姿は真っ暗でよく見えない。

「私はフク、今は君を保護するためにここに来た。今は猫の姿をしている」

「猫さんなの?」

「いいや、人間だ」

 人間だ、というと少女は激しく動揺し、さらに距離を取った。

「だが今は猫の姿だ。君と話がしたいのだが、この姿の方が話しやすいと思ってな」

 そういうと少女は少し落ち着いて、しかし、かなり警戒しながら

「何?」

 というので、本題から入ることにした。

「君は自分の能力についてどこまでわかる?」

「わからない」

「いつその能力が使えるようになった?」

「さっき...怖い大きな人に捕まった時」

 少女は怯えながら答える。

「ありがとう。無理はしなくても大丈夫だ、嫌なことを思い出すのは辛いだろう」

 フクが優しく答える。

(受け答えは意外としっかりしているな。これなら直球で保護をしても良いか聞いてみるか。)

「君の能力を調べたり、君がその能力を使いこなせるようにするために私と一緒に来て欲しい。いいか?」

「痛いことしない?」

「注射を少しするかもしれないけど、とても痛いことはしない」

「ご飯くれる?」

「もちろん」

「人と会わなくてもいい?」

 少しフクは考える。

(人に会いたくないのか?だとすると『恐怖症』の原因は人か?)

「あぁ、会わなくても大丈夫なようにしよう。」

 その時雲が晴れ月明かりが窓から差し込む。フクのその時ハッキリと少女の姿を見る。10〜12歳ぐらいの身長。白いがところどころ血がついた髪、そして涙を流す虚ろな青い目。痩せこけて骨の浮いた体と顔。

「あなたはずっと一緒にいてくれる?」

 フクは少し驚いた。人のことが嫌いなような様子だったために一緒にいてほしいと言う願いが意外だった。

「もちろん、君が望むなら君とずっと一緒にいよう」

 少女は目を潤わせ、大きく泣きながら

「わかった。あなたについていく」

「ありがとう。迎えが来るまで来るまで少し待っていてくれるか?」

「ん」

 少女は小さく頷く。了承が得られたので連絡デバイスで運搬用トラックを要請する。少女が泣きやんだ頃、気を紛らわせるために会話をしようと試みる。

「君の名前は?」

「エル」

「エルだな。エルの好きなものはなんだ?」

「甘いもの」

「そうか、なら君を保護して元気になったら甘くて美味しい物を食べさせてあげよう」

「どんなの?」

 フクは動揺した。なぜなら何も考えずに言ってしまったからだ。ここで答えられなくては信用を失うかもしれない。必死に記憶を探り、甘くて美味しい物、特に少女の気に入りそうな物を探す。

「どうしたの?」

 エルが聞いてきてさらに焦る。そして思い出す。

(前に照子先輩が若い子の間でフルーツサンドが流行ってるっていていたような...)

「フルーツサンドだ」

「ふるーつさんど...」

 エルは耳慣れぬ言葉だったのか反復する

「あぁ、薄く切ったパンに生クリームとたくさんの果物を挟んだ物だ。とても甘くて美味しい」

「フルーツサンド...待ってる」

「楽しみにしておいてくれ」

 どうやら魅力的な提案をできたらしい。

 そうこうしているうちに運搬用トラックが到着した。フクがエルを連れてゆき、フクが運転するように取り計らったため、誰も来ない

「迎えが来たようだ。一階まで降りて欲しい」

「わかった」

 そういってエルが立とうとしたがうまく立ち上がれない。

「あれ?」

 もう一度立ち上がろうとしたがバランスを崩して倒れてしまう。咄嗟に猫型ロボットをエルの下に滑り込ませクッションがわりにする。

「大丈夫か?」

「うまく立てないの」

 エルが申し訳なさと怯えが混ざったような声で泣きながら答える。

「見捨てないで...」

「安心しろ。私は決して君を見捨てない」

 そういうとエルはさらに泣いた。

(この人は私を見捨てないでいてくれるんだ)

 しばらくの間大声で泣き続けおさまったころには泣き疲れたのか寝てしまった。

「エル?」

 声をかけても聞こえてくるのは寝息だけだ。

(歩けないようならどうしようかと思ったが今なら私が直接運べそうだな)

 フクがいる部屋からエルいる部屋に入る。

「抱えるぞ」

 念の為声をかけてから抱き上げる。

(随分と軽いな...フルーツサンド...どこで売ってるんだ?)

 起こさないように優しく、しかし、急いで階段を降りる。

 ビルから出ると入り口付近にトラックの後ろ部分がむけてある。

 トラックの扉を開くと中には簡素なベットと一部の治療器具が置いてある。

 エルが眩しそうにしたので照明を消し、エルをベットに寝かせる。落ちないようにベットの横につけた引き出し型になっている柵を取り付け外に出る。

 隊長のところへ行き、確保した旨を伝える。

「『恐怖症』患者は確保した。現場の検分と後処理を任せた。」

 おぉ、とざわめきが起きる。

「了解しました!流石ですね!」

「仕事だしな。眠っている間に連れて行きたいのでこれにて失礼する」

「はっ!」

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