#1:Phobia
昼、PSOのビルの食堂で食事をしている女性がいる。
「今日の『恐怖症』発症者は無しか」
深い海の様な深い群青の髪をまっすぐに伸ばした女性が呟く。歳は大学生くらいだろうか、スーツを着こなし凛とした空気を纏っている。
「なに〜?もしかしてフク、新しい子期待してたの〜?」
茶化すようにフクと呼ばれた女性に後ろから声をかける人がいた。
「照子先輩」
フクと呼ばれた女性は驚いたように声を掛けた女性を見上げる。
ズボンではあるが、社会人のOLというような格好をしており、手には紙袋を持っている。ピンクともパープルとも取れる色合いの髪の毛をしており、それを一つに括っている。整った顔立ちをしているが、その顔には少し悩みが見える。
「何かあったんですか?」
世話になっている先輩の力になればとフクが聞くと
「わかる?さっき事務の子にね、『結婚とかって考えてるんですか?』っ聞かれたからなにも考えてないって言ったら『婚期は逃しちゃダメですよ!』っ言われちゃって」
「あぁ、それで」
「顔だけしか見られないのはイヤなのよね〜」
照子ももう25だ。そろそろ結婚を考え始める歳なのだろう。もし、恋人ができるようなら応援しようと決意するフク。
「アナタも可愛い顔してるんだから顔だけの面食いにには気をつけなさいよ?」
「先輩の方がモテますよね?」
フクは人見知りのため、仲の良い人でないとあまり喋らない。もともと口数が多い方ではないし、人と関わらないことが多く、美人なのもあって、近寄りがたいオーラを発していたのだ。逆に照子は誰とでも仲良くなれるし明るい性格なので男女問わず人気者であった。
「そういう問題じゃないのよ」
「そうなんですか」
「だって素敵な人と穏やかに暮らしたいじゃない」
自分が誰か男性と穏やかに暮らしている未来像がさっぱりイメージ出来ないフク。
「よくわかりません」
「素材はいいのに化粧もしないし、もったいないわぁ」
フクはそう言ったことには無頓着だ。それどころか化粧に関しては顔に何かずっと付いているのが違和感があって苦手である。やがて昼食を食べ終わったフク。まだ昼休みは残っているのでどうしようかと悩んでいると
「そういえば最近動物型ロボットが小さい子たちの間で流行ってるらしいのよ」
照子が、察して話題を持ちかけてくれた。フクは照子のこう言うところがいいところだと思っている
「アニマルセラピー的な効果も期待されてて、私たちの組織でも導入しないかって話があるのよ」
照子が紙袋を渡してくる。
「コレがその試供品」
受け取って中身を見ると、精巧に作られた小猫のような見た目のロボットと大きめの箱が入っていた。
「ぱっと見、猫にしか見えないですね」
純粋に感心するフク
「すごいでしょ〜?マイクをつけたら声を届けることもできるわよ?それに、操作してない時は本当の猫みたいな動きをするのよ〜、コントローラーはその箱に入ってるわよ」
「ハイテクですね」
「それあなたに預けとくね」
「?」
「いい感じに活用してちょうだい」
なるほどと思い受け取れるものは受け取っておこうとうなづく
昼休みにもそろそろ終わる頃になるとパトロールに向かおうと食堂を出る。
「頑張って来てね〜」
「先輩もお気をつけて」
メンテナンスに出していた装備を受け取りに工房へと向かう。工房とはエージェントの使用する武器や防具、道具を作ったり調整したりする施設のことである。フクは愛用している刀と戦闘服をメンテナンスに出していた。パトロールをする際に武器の着用が努力義務化しているが拳で戦う者もいるのであくまで努力義務となっている。
「よう!」
元気のいい声で挨拶してくる赤毛をサイドアップポニーにしている女性。暑いのか上着を脱いで腰に巻いている。
「錬子、メンテナンスしたものを受け取りに来た」
「お前の愛刀はちゃんとメンテナンスしておいたぜ!さすがはRB工房の武器だな。惚れ惚れする出来前だ」
愛用している刀を褒められた少し嬉しくなるフクである。刀を抜くと真っ赤な真紅の刀身が露わになる。
「こっちは戦闘服だな」
そういって黒を基調とし、赤と白の差し色の入った落ち着いた服を受け取る。まるで新品のような出来栄えだ
「いつもありがとう」
「いいってことよ!それが仕事だしな!」
ニカッと笑って言う錬子。着替えるために立ち去ろうとする。
「パトロール頑張れよー!」
錬子が応援してくれたので、軽く手を振って答える。そして更衣室に着いた。
戦闘服に着替えて帯刀し愛用しているウエストポーチに照子から預かったロボットをいれ、外へと向かう。
ビルを出て街へ繰り出す。多くのビルが立ち並び、たくさんの人が往来している。戦闘服に刀という装いで周りの人たちに驚かれないのは多いわけではないがそれなりに武器を所持した者たちがいるからである。フクと同じようにパトロールをしているPSOエージェントである。
ちなみに『恐怖症』患者でなくとも強盗や通り魔を捕縛する治安維持の役割も兼ねているので、この街は比較的治安がいい。
今日は平和な一日になりそうだと思いながらパトロールをしているうちに夕暮れが過ぎ、ビルや高層型住居にあかりが灯る頃、支給されている連絡デバイスがなった。
何事かと思いデバイスを見るとここの近くで『恐怖症』を発症者が現れたというものだった。1番近くにいるのはフクのようだ。
「今日は平和そうだったんだがな」
少し残念そうに呟いて現場に向かう。
(人が多いな・・・伝っていくか)
フクは裏路地に入り壁を蹴ってビルの屋上まで上がる。そしてビルの屋上から屋上へと飛び移っていく。途中大通りが挟まり距離が出るがお構いなしに飛び越えていく。
フクが現場に到着し、ビル上から見下ろすと、一棟のビルが治安維持隊に包囲されていた。サイレンの音がうるさく顔を顰める。
「サイレンの音を小さく出来るか?患者に余計なプレッシャーを与えてしまう」
現場を仕切っていた隊員の目の前に飛び降りそう告げる
隊員は一瞬怪訝な顔をするがフクを見て驚き敬礼する
「了解しました!PSOのエージェントですね?」
部下と思しき者へ命令しながら聞いてくる。
「そうだ」
と、答えてポケットから組合証を取り出して見せる。
「私は現場隊長です」
そんなやりとりをしているうちに、やがてサイレンの音が聞こえなくなってくる。
「『恐怖症』患者はどこだ?」
「このビルの最上階です!現在、ビルの中にいるのは『恐怖症』患者のみで、最上階に立てこもっています!」
(状況的に『硬直型パニック』か?)
「発症時の状況が知りたい。目撃者は?」
隊長は少し気まずそうに答える。
「それが・・・このビルは犯罪グループの建物で・・・捕らえた者によると『恐怖症』患者は身売りされ、引き渡された子供だそうで、発症時、近くにいたグループの用心棒と患者を拘束していた男、グループのボスを能力で殺害した後、騒ぎを聞きつけた警備役の用心棒たちが襲いかかったところそのほどんどを殺害してから、最上階に逃げたそうです。」
「それは…また厄介な」
さてどうするかと考えるフク。そんな状態の子供に大人が声をかけても怯え切ってしまって話など聞けないだろう。能力を使って暴れられても困る。一体どうしたものかと悩んでいると建物の光で照らされた蝙蝠が見えた。
(そうだ、人は無理でも動物ならどうだろう)
ポーチの中から猫型のロボットとコントローラーを取り出す。
「それは、ロボットですか?それをどうするのですか?」
隊長は怪しげな目をフクに向ける
「大人の私が行っても怯えて話にならない可能性が高い。故に動物なら話しやすいだろうと」
隊長はなるほど、と納得し、そしてフクの意図に気づきビル内の案内図を持ってきた。
「コレがビルの内部構造です。エレベーターは使え無さそうなので階段で行くしかないです」
「ありがとう。了解した」
短く例を言ってフクは猫型ロボットの操作に入る。
(説明書は…あった。ん?有効距離が20メートルしかないのか?)
フクは目の前のビルを見上げた。明らかに20メートルでないことがわかる。どうやらビルに入るしか無さそうだ。そう思ってビルへと歩き出す
「どうしました?」
隊長が声をかけてくる。
「いやなに、コレの有効距離が20メートルしかないようだから中に突入する」
「まさかお一人で向かうつもりですか!?」
「そのつもりだ」
「危険です!我々もお供いたします!」
「いや、大勢で行くとこちらの存在がバレた時余計に怯えさせるかもしれない。そうなったら『パニック』起こして被害が大きくなるかもしれない」
「ですが…」
隊長は納得の行っていない様子だ。
「私はPSOのエージェントだ。問題ない」
「はぁ…わかりました」
隊長は渋々といった顔でフクの単独行動を認めた
「では突入する」
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