鎌の行方――代償――
タピオカ転売屋
代償
この作品は鎌の行方https://kakuyomu.jp/works/822139843296756124
鎌の行方――無敵の二人――
https://kakuyomu.jp/works/822139843355855561
の続編になります。
本当にこれが鎌投げババアの家なのか?
そこには、普通の家があった。
廃墟でもなく、ツタも絡まっておらず、ただただ普通の家だった。
無理矢理、不穏なとこを探せば
「セールスお断り」のステッカーぐらいだろうか。
いや、玄関のガラス戸が曇りガラスだ――流石に無理がある。
なのに……
喉がカラカラで、ゴクンと唾を飲み込む。
深呼吸をひとつ、ふたつ。
呼び鈴に手を伸ばす。
笑っちゃうぐらいに手が震えている。
隣にいる、光岡君に目をやる。
彼も不安そうに私を見ていた。
私は、ひとつ頷くと呼び鈴を押した。
――ピーンポーン
隣で光岡君がビクッと肩を震わせる。
曇りガラスの向こうに影が動く。
ガラガラと音を立てて、引き戸が開いた。
まず、目に入ったのは、訝しげにこちらを見ているお婆さん。
今思えば、無理もない。
小学生二人がいきなり訪ねて来たのだ。
しかし、当時の私は、その顔に怒りを感じてしまった。
頭で思っていることが言葉にならない、焦れば焦るほど言葉が出てこない。
その時、腕に何かが触れた。
光岡君だ。
手のひらを2回、下に降ろす。
――落ち着け
やっと、頭と言葉のギアがかみ合った。
「こんにちは、僕らは、◯◯小学校の新聞部です。
昔の知恵っていうテーマで記事を書こうと思っているので、お話聞かせてください」
私は、小さく息を吐いた。
ここから先は、もう止まれない。
深く沈んでいた勇気が浮かびあがる。
光岡君が小声で囁く。
「そうなの?」
私は、さらに小声で返す。
「そんな訳ねぇだろ」
それから、人類共通のハンドサイン――
人差し指を唇にあてる。
「へぇ〜昔の知恵ねぇ、便利になった今だからこそ、役に立つことってあるかもしれないわね」
――えっ?
普通やん。
お婆さんは、普通に普通のことを話していた。
「ここじゃなんだから、上がりなさい、お役に立てるかわからないですけどね」
そう言うと台所に消えていった。
「みっちゃん!ここで合ってるよね?」
光岡君――みっちゃんは、ブンブンと頭を縦に振っていた。
もしここが鎌投げババアの家で合っているとすると――
私たちは、何か取り返しのつかないことをしてしまったのではないか。
何の罪もないお婆さんを、化け物だと決めつけて、勝手に面白がっていたのではないか。
光岡君も同じ事を思っていたのか、真剣な眼差しで俯いていた。
「なあ、謝ろう」
「うん」
居間に行くと、テレビを観ていたお爺さんが、笑顔で私たちを誘う。
「さあ、こっちに座んなさい」
私たちは、顔を見合わせて膝を正して座る。
「ほら、足を崩しんさい」
そう言われ、少し迷ってから、体育座りで座り直す。
お婆さんが、ジュースとお菓子を持ってくる。
私たちはいたたまれない気持ちのまま、座っていた。
「さあ、どうぞ――と言っても年寄りのお菓子だから、口に合うかねぇ」
私は、もう耐えきれなくなって
「ごめんなさい!」
そう言っていた。
それにつられるように光岡君も
「ごめんなさい!」
お爺さんもお婆さんもびっくりしていた。
「実は……」
私は、せきを切ったように話し始めた。
鎌投げババアのこと
鎌拾いジジィのこと
学校で都市伝説のようになっていること
それを取材するために来たこと
ごめんなさい
私たちは、頭を下げた。
顔をあげるとお爺さんとお婆さんが、気まずそうに顔を見合わせていた。
アレッ?
お爺さんが話し始めた。
「アレはな……事故みたいなもんでな」
えっ?
「婆さんが庭で草むしりをしとったんよ……鎌持ってな」
ええ……
「そしたら、ヘビがな……おったんよ、婆さんびっくりして原っぱのほうへ逃げたんやな?」
爺さんが婆さんを見る。
「あんまり驚いたもんだから、つまずいっちゃって……鎌がぽーんって」
鎌投げババア
「それでワシが慌てて鎌を拾ってな」
鎌拾いジジィ
パズルのピースが埋まっていく
私は、ひとつだけ確認したいことがあった。
「あの〜噂で子供が……ケガしたって聞いたんですけど」
ジジィは慌てて首を振る。
「ケガなんてしとらんよ……たぶん」
たぶん!?
また、遊びにおいでと見送られて、私たちは鎌投げババアの家を後にした。
帰り道、光岡君がポツリと言った。
「……どうする?」
たったこれだけの言葉だが、私には痛いほどわかった。
この真実をどうする?
「行かなかったことにしよう」
「うん」
私と光岡君は、秘密を抱えて生きていくと決めた。
鎌の行方――代償―― タピオカ転売屋 @fdaihyou
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