第3話写っただけで

 リビングが、うるさい。


「ゆうじ!!」

「ゆうじ、出てる!!」


 同時に叫ばれて、平遊染はヘッドセットを外した。


「なに?」


 テレビの前で、双子が跳ねている。

 恒一は画面を指差し、一葉はリモコンを握ったまま固まっていた。


「ほら!」

「今、そこ!」


 画面には、VRMMOの配信。

 見覚えのある石畳と、崩れた建物。


 そして――


「……あ」


 端の方に、ほんの一瞬。

 地味な軽装のプレイヤーが映っていた。


 二丁拳銃を持って。


「ゆうじだ!」

「FLATだよね!」


「いや、顔写ってないし」


「でも銃!」

「二つ持ってる!」


 恒一はもう確信している。

 一葉は目を細めて、画面を凝視していた。


「……動き、変」


「変?」


「普通、あんな近づかない」


 姉がキッチンから顔を出す。


「なに騒いでんの?」


「ゆうじが有名人!」

「まだ有名じゃない!」


 遊染はソファに座り、画面を見る。


 配信者が笑いながら話している。


『今、後ろにいたの、FLATさんです』

『一瞬しか映ってないけどね』


 コメント欄が流れる。


《今のFLAT?》

《一瞬いた》

《銃二つの人》


「ほら、名前出た!」

「呼ばれてた!」


「呼ばれただけだよ」


「それがすごいんだよ!」


 恒一は本気だ。

 一葉は、少しだけ考えてから言った。


「でも、理由が分かる」


「なにが?」


「面白いから」


 遊染は、一瞬言葉に詰まった。


「……なに、それ」


「だって」


 一葉は画面を見たまま言う。


「他の人、みんな同じ動きしてる」

「ゆうじだけ、違う」


「それ、褒めてる?」


「たぶん」


 恒一が頷く。


「最強じゃん」


「いや、強くはない」


「でも楽しいんでしょ?」


 その一言で、答えは決まっていた。


「うん」


 配信の中で、FLATはまた画面の端に映る。

 今度は少し長めに。


《またいた》

《FLAT映りすぎ》

《気になる》


 遊染は、少しだけ居心地が悪くなった。


「……次は、あんまり近く行かない」


「えー」

「なんで?」


「目立つから」


 一葉は首を傾げる。


「でも」


 少し間を置いて、言った。


「面白くないと、楽しくないんでしょ」


 恒一が笑った。


「じゃあ無理じゃん」


 遊染も、笑ってしまった。


 画面の中で、FLATがまた変な方向へ走っていく。


 理由は、いつも同じだ。


 写っただけで騒がれる。

 名前を覚えられる。


 それでも本人は、気にしていない。


 ただ、面白い方へ行っているだけなのだから。

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