第4話映るだけのやつ

 FLATは、いつも通りだった。


 人の少ない道を選び、

 案内のない方へ進み、

 面白そうな敵がいれば、近づいて撃つ。


 効率は悪い。

 でも、楽しい。


 


 その頃。


 ゲーム内掲示板の一角が、少しだけ騒がしくなっていた。



【EGO雑談スレ】


812:名無しの冒険者

昨日の配信で、変な初心者映ってなかった?


813:名無しの冒険者

二丁拳銃のやつだろ


814:名無しの冒険者

あー、FLATな


815:名無しの冒険者

名前もう覚えられてて草


816:名無しの冒険者

いつも端に映ってるやつ


817:名無しの冒険者

あいつ、なんで近接するんだよ


818:名無しの冒険者

弾無限かと思ったわ



 SNSにも、短い切り抜きが流れ始める。


【クリップ:二丁拳銃初心者、突っ込む】


《近すぎて草》

《普通に危ない》

《でも避けてる》

《名前FLATってのがまた》


 


 本人は、その時間。


「……あ、弾切れ」


 リロードしながら、少しだけ考えていた。


「次は、もうちょいまとめて倒したいな」


 効率の話ではない。

 動きの話だ。


 


 掲示板は、さらに伸びる。



829:名無しの冒険者

FLATって毎回配信にいない?


830:名無しの冒険者

いる

しかも毎回変なルート


831:名無しの冒険者

配信者の後ろに自然発生する


832:名無しの冒険者

妖精か?


833:名無しの冒険者

あいつ攻略してるつもりらしいぞ


834:名無しの冒険者



 その夜。


「ゆうじ、なんか騒がれてるよ」


 姉がスマホを差し出す。


「なにが?」


「ゲームの掲示板」


 画面には、切り抜き動画。

 端の方に、小さく映るFLAT。


「……これ、そんなに変?」


「変」


 即答だった。


「でも」


 姉は少しだけ考えてから言う。


「楽しそう」


 双子が覗き込む。


「ほら、また映ってる!」

「後ろ後ろ!」


「ほんとだ……」


 遊染は、少しだけ困った顔をした。


「目立つの、あんまり好きじゃないんだけど」


 一葉が言う。


「じゃあ、やめる?」


「……やめない」


 理由は決まっている。


「面白くないと、楽しくないじゃん」


 恒一がうなずいた。


「知ってた」


 


 その頃、掲示板には新しい書き込みが増えていた。



861:名無しの冒険者

FLAT、また今日の配信にいたぞ


862:名無しの冒険者

もうレギュラーだろ


863:名無しの冒険者

あいつが映ると安心する


864:名無しの冒険者

画面の端のFLAT



 本人は知らない。


 自分が

 「変なやつ」として、

 少しずつ名前を覚えられていることを。


 FLATは今日も、真面目に攻略している。


 ――ただ、誰よりも違うやり方で。

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