第1話面白くないと、楽しくないじゃん
平遊染の家は、少しだけ騒がしい。
「ゆうじ、またそれ?」
リビングのソファに座ったまま、姉が呆れた声を出す。
その足元では、小さな影が二つ、ぴょこんと跳ねた。
「なにそれ!」
「ゲーム?」
双子だ。
姉の子どもで、兄の平 恒一と、妹の平 一葉。
「VRゲーム」
「ふーん」
一葉は興味なさそうに言いながら、視線だけは外さない。
一方、恒一は目を輝かせている。
「それ、強い?」
「まだ分かんない」
「じゃあカッコいい?」
「それは、たぶん」
恒一が満足そうにうなずいた。
「最強じゃん」
理屈はない。
でも、その評価で十分だった。
「……あんた、相変わらずだね」
姉はため息をつくが、止めはしない。
兄はすでに婚約して家を出ているし、この家で一番自由なのは、遊染だった。
「面白くないと、楽しくないじゃん」
「はいはい」
そう言って、姉はキッチンに戻っていった。
ヘッドセットを装着し、意識を沈める。
世界が切り替わる。
目を開けた瞬間、そこはもう現実じゃなかった。
石畳の広場。
青空。
人の気配。
《EIDOL GEAR ONLINE》へようこそ。
「……すご」
思わず声が漏れる。
遊染――いや、これからはFLATだ。
VRMMOは初めてだったが、案内は親切だった。
初心者向けの街。
初心者向けのクエスト。
初心者向けの狩場。
全部、正解が用意されている。
――北門から草原へ。
視線を向けた、その反対側。
街の外れに、半壊した建物が見えた。
誰もいない。
案内もない。
「……あっちの方が、面白そうじゃない?」
自然に、そう思ってしまった。
「面白くないと、楽しくないじゃん」
誰に聞かせるでもなく、そう言ってFLATは歩き出した。
武器屋では、選択肢が山ほど並んでいた。
剣。
槍。
弓。
魔法杖。
どれも強そうだ。
その中で、異質な存在があった。
二丁拳銃。
「初心者にはおすすめしませんよ」
NPC店員は、はっきり言った。
「扱いが難しく、弾薬管理も必要です」
「ロマン武器ですから」
「ロマン?」
「実用性より、見た目や趣味性重視ですね」
少し考えてから、FLATは答えた。
「じゃあ、これで」
「……本気ですか?」
「うん。カッコいいし」
理由は、それだけでよかった。
防具は初期配布の軽装。
鏡代わりのウィンドウに映る自分は、細身で、地味で、いかにも初心者だ。
二丁拳銃だけが、やけに浮いている。
「まあ、いいか」
街を出て、最初の戦闘。
当たらない。
外れる。
リロードが忙しい。
「……難しいな」
でも、楽しい。
避けて、撃って、外して、もう一回。
敵の動きが、少しずつ見えてくる。
「近い方が当たるな」
理解した瞬間、口元が緩んだ。
気づけば、FLATは誰も進まない方向にいた。
正解じゃない。
効率も悪い。
それでも。
「面白くないと、楽しくないじゃん」
今日もFLATは、真面目に攻略している。
――ただ、少しだけズレているだけで
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