第3話



くらい、、こわい、、、だれか、、、、


──たすけて




「う、う~ん。」


暗闇に差し込んでくる光に促され目を覚ます。

隣を見るがセフィさんはいない。彼女はもう起きているようだ。


窓から見える太陽はもう真上に差し掛かろうかといった具合。

どうやら私はぐっすり眠っていたらしい。


さて、私には確認すべきことがある。

体が動いてくれるかだ。これが重要なのだ。

恐る恐る手に力をいれる。


「おっ!おぉ!」

動く!動いてくれた!

「足も、体も動く!」

あぁここ最近で一番感動しているかもしれない。

これでセフィさんによる辱しめを受けなくて済む。


体をスライドさせ床に足をつける。そのままの勢いで立ち上がる。

「これが、、自分の足で立つという感覚!」

たった1日だけだったのに気分的にはもう何年も動けなかった気分だ。


私は自分の力でドアまで歩き、寝室から出た。

セフィさんはどこだろう。

寝室は鎧戸が開かれていたことぐらいしか痕跡がない。

リビングを見てみるが見当たらない。


「おはようシル。」


「わぁっ!セフィさん。おはようございます。」

返事をしながら声のする方向に顔を向ける。

そして思い出す、そういえば彼女は昨晩裸で寝ていたではないか。


ちゃんと服を着ているようだ。


「シルがぐっすり眠れたようで私は嬉しいよ。ところで君、動けるようになったんだね。」

「はい。朝起きたら動かせるようになってました。あと、セフィさんが見当たらなかったので勝手に見て回ってました。すみません。」

「いいよ、自由に動き回ってくれて。」


「セフィさんはなにかしていたんですか?何か仕事があれば手伝います。」

「洗濯物をね。ほら、今私は服を着てるだろう?干してたのを取り込んでいたんだ。」

そういうことだったのか。なら私にも手伝わせてほしかった。何もせずに甘やかされているだけではどうにも落ち着かない。


「ちょうど良い時間だしご飯にしようか。シルはお腹、空いてるかい?」

「はい。できれば私もいただきたいです。あとそれと!準備を手伝わせてください!」

「うーん、病み上がりの女の子に仕事なんてさせられないよ。」

「でも、ただご飯が用意されるのを待つだけだと落ち着かないんです!」

「そうだなぁ、よし。ならサラダを用意してもらおうかな。そうと決まれば早速キッチンに行こう。」

「はいっ!」

さて、ではサラダを作っていこう。エプロンはセフィさんのものを借りた。


「サラダと言っても野菜を適当に混ぜてくれればそれで良いよ。」

あれ?昨日のサラダは暖められていたはずだが。


「そのままで良いんですか?」

「うん。昨日のは体が冷えないように暖めてただけだからね。基本的には気にせず混ぜてくれるだけでいいよ。」

そんな理由が‥‥彼女、見た目だけでなく細かい部分への配慮もできる性格の良さまで持ち合わせているというのか。

そんなことを思いつつ、すでに出されていた野菜たちをバラバラとちぎりながらボウルに入れて混ぜていく。


セフィさんはというとスープを作っていた。匂いから察するに動物の骨から取った出汁とオニオンだろうか。美味しそうだ。

「うん?気になるかい?」

「はい。あっ、いえ!そんなことはないです!」

「あんなに物欲しそうに見つめてたら流石に分かるよ。味見、してみるかい?」

全部見透かされていた。まるで私が食欲旺盛みたいではないか。‥‥‥‥否定はしきれないが。


「い、良いんですか?」

「ちょうど確認しようと思っていたんだ。タイミングも良いしシルに味見をしてもらおうかな。」

そういうとセフィさんはお玉を渡してくる。


「あーんしようかとも思ったけど熱いからやめておこうと思ってね。どうしてもしてほしかったらするけど、どうする?」

「いえ、大丈夫です。」


手渡されたお玉でスープを掬う。当然熱いだろうから慎重に口をつける。


「美味しいっ!セフィさんっ、美味しいです!」

「それは良かった。ならもう出来上がりかな。」

そういうと彼女は器を取り出してスープを入れていく。


「じゃあシル。そのサラダを机の方に持ってきてくれるかい?」

「はい。」

サラダの入った大きな木のボウルを持ってセフィさんについていく。


「シル。そこにパンの入った袋があるだろう?それも持ってきてくれるかな。」


パンは‥‥これか。こんな適当にキッチンに放っておいて良いのだろうか。

そんな疑問を浮かべつつパンも一緒に持っていく。



「よしっ!これで完成だね。」

「おぉー!」

机の上に並べられた料理を見て思わず声を上げる。


お肉とオニオンの入った少しどろっとしたスープに昨晩も食べたパン、それと私の作ったサラダ。


「さぁ、冷めないうちに食べるとしよう。いただきます。」

「いただきます。」


まずはスープだけ食べてみる。オニオンの風味が良く、お肉の出汁も出ていてすごく美味しい。


「そういえばセフィさん。昨日もそうでしたがこのお肉などはどうしているんですか?これだけ美味しいものをいつも食べているとすごくお金がかからそうですが。」

「良い質問だね、シル君。結論から言うとこれらのお肉は買っていない。私が森の中で獲ってきた動物を解体して、、例えばこのスープに使っているものは塩漬けにして保存しておいたものだね。」


「えっ!?狩猟してるんですか?お貴族様くらいしかできないんじゃ。」

「シル、君に良いことを教えて上げよう。この森において狩猟権とかいっためんどくさい法律は機能してないよ。なんてったってここは入ったら出られないと恐れられている森だからね。貴族たちは狩猟になんて来ないし、見回っている警備員もいないよ。」


「てことは、密猟‥‥‥‥。」

「この森は誰の領地でもないんだ。つまり、密猟にはならない。それに君が助かったのはこれのお陰なんだよ?」

「密猟のお陰‥‥?」

「私が森で倒れていた君を見つけられたのはどうしてだと思う?その時私は猟の帰りだった。だから私が猟をしていなければ君はあの時点で死ぬことになる。ほら誰も不幸になっていないだろう?それどころかみんなが幸せになっている。私たちはお肉が食べられて幸せ、君も命が助かって幸せ。」


そう言われると何も反論することはない。そもそも罪じゃないなら咎められることではないし、私が助かったのも彼女が猟をしていたからなのだ。

文句を言うどころか感謝するべきだろう。

「そう‥‥なんですね。では改めて、助けてくださりありがとうございます。」

「いいよいいよ。むしろシルみたいにかわいい子なら大歓迎さ。」

また彼女はそんなことを言う。言われ過ぎて少し慣れてきた。


私はそんな彼女の言葉を流しながら食事を再開する。

うん。サラダも美味しい。暖かいサラダも良いがそのままのサラダも良いものだ。

と、黙々と食べているとセフィさんと目が合う。


「な、なんですか?」

「んー?いやぁ、もう少しシルにあーんしたかったなぁと思ってね。思いの外早く元気になっちゃったからもうできないのかと思うと悲しくて。いや?別にシルが動けてもあーんはできるのか‥‥」

「しなくていいですっ!」

「残念。」

この人はどれだけあーんに飢えているんだ。飢えは美味しい料理で満たしてもらいたい。

「ふぅ、ごちそうさま。」

「ごちそうさまでした。」

美味しかった。セフィさんの作ったスープはもちろんだが、自分が作ったというだけでサラダがより美味しく感じる。




「ところでシル、君はいつまでここにいるんだい?」

「えっ?」


食べ終わった食器を洗っているとセフィさんから質問が飛んでくる。

ついにこの時がきてしまった。昨日は助けられてそのままの勢いで泊まらせてもらえたがいつまでもと言うわけにはいかないだろう。当たり前だ。


‥‥でもこの家の、この人の温もりを覚えてしまった私はわがままを言う。


「‥‥‥‥迷惑だとは、思ってるんですけど、もう少し、ここにいたらダメ、ですか‥‥?」


セフィさんは何も返さずただ静かにこちらを見つめてくる。


‥‥やっぱりダメか、そりゃそうだ。こんな怪しいやつを家に置いておこうとはならないだろう。

「いえ‥‥すみません。わがまま言いました。支度するものも無いですし、すぐに出ていきます。」


「シル、私はダメだなんて一言も言ってないだろう?」


「_____えっ?」


「なぜ居てはいけない前提で考えているんだ。いつまでも居て良いに決まってるだろう。いや私からお願いしたいくらいだ。君みたいなかわいい子を手放したくない。」


「い、いいんですか‥‥?」

「うん。」

「こんな隠し事ばかりの女でも?」

「それはお互い様だろう。」

「セフィさんにはただでさえ迷惑かけてばっかりで、もっと大きい迷惑をかけるかもしれないのに?」

「迷惑なんて人にかけてなんぼだよ。」

「‥‥‥まだ、あなたのそばにいても良いですか?」

「もちろん。」


彼女はなんて優しいんだ。こんな私に居ても良いと言ってくれる。


「君のことを無闇に詮索するつもりはない。君を追い出すつもりもない。シルがいたいだけここにいると良い。今日からこの家が君の居場所だよ。」


‥‥あれ、おかしい。洗顔なんかしてないのに、顔が濡れている。それになんだか頬が熱い。熱なんて出てないのに。


「シル、はい。」

そう言うとセフィさんは両手を広げ、私に声をかける。


「我慢しなくて、いいんだよ。」


あぁそうだ。私はずっと我慢してきたんだ。出しちゃダメだと感情を抑え続けてきた。

でも彼女は、は許してくれる。我慢しなくても良いよと。抑えなくても良いよと。


(もう、良いんだ。)


そう思った時には彼女の胸に飛び込んでいた。

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醜い世界にさよならを 肴屋さん @kuro-ru50

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