第2話

「ごちそうさまでした。」


並べられた料理はすぐになくなった。これだけしっかり食べたら体も元気になってくれるだろう。


「よし。じゃあもう暗いしお風呂にしようか。もう沸かしているからすぐにでも入れるよ。」


まさか、自宅に風呂があると言うのか。

豪華な料理といい風呂といい、言っちゃ悪いがこんな深い森の中にある家に住んでいるにしてはやけに贅沢だ。

お風呂なんて公衆浴場以外で見たことがない。


「お風呂が家にあるんですか?」

「あぁ。森の中で暮らしているとどうしても体が汚れやすいだろう?で、そのままだと嫌だから風呂に入りたくて自分で作ったんだ。」

なるほど。とても合理的な考えだ。


「疑問は解けたかい?」

「はい。」

「なら早速お風呂に行こうか。もう体は動かせるかな?」


そうだった。体が動かないから私はあんなに恥ずかしい思いをしていたのだ。

わずかな可能性にかけて私は体を動かそうとする。


‥‥‥‥‥‥うっ、動かない‥‥。


「やっぱりまだ難しいか。森の中で倒れるくらい疲労していたんだ。仕方無いさ。なら‥‥。」


「ひゃあっ!」


セフィさんの両手が伸びてきたと思ったら急に横抱きにされた。


「あっ、あの!」

「動けないんだから仕方ないだろう?」

「でも、私重いし、、体も小さくないから。」

私の身長は160cmはある。私より少し高いぐらいのセフィさんが私を運ぶのは骨が折れるだろう。


「これで重いなら私は肥満だね。シルはご飯もまともに食べていなかったんだろう?こっちが心配になるくらい軽いよ。そもそもシルが今この家に居るってことは私がここまで運んできてるってことだよ?だから安心して私に身を任せておけば良いよ。」

そう言われたら何も言い返せない。助けてもらってばかりで申し訳ないが今の私では歩くことさえままならない。

この状況は恥ずかしいがここは黙って従うしかない。


「いやぁ、私も幸せ者だね。こんなに可愛い女の子をお姫様抱っこできるだなんて。」


絶対に言うと思った。セフィさんはどうやら人を甘やかすのが好きなようだ。恥ずかしい思いをすることも多いが彼女がこの性格でなければ私も助かっていなかった可能性があるから少し複雑だ。

「おぉっ!」


浴室がある。個人宅に風呂があるばかりか部屋として存在するなんて驚きだ。


「喜んでくれてるようでなにより。」

喜ばずにはいられない。なんたって久々のお風呂だ。さっきまで気にならなかったのに急に体の汚れや臭いが気になってきた。


‥‥‥‥私が横になっていたベッドは臭くなっていないだろうか。心配だ。


「ところでシルくん。お風呂に入る前にはしないといけないことがあるね。なんだと思う?」


椅子に下ろされたと思ったら問題が飛んできた。

答えは分かっている。誰だって分かる。

お風呂に入るには服を脱がなければならないことくらい。


「恥ずかしがらなくても良いよ。出会ったばかりとはいえ女同士なんだ。裸くらい気にしないさ。」

セフィさんがそうでも私がそうではないのだ。

だいたい、あーんやお姫様抱っこで恥ずかしがるような女が裸を見られるのが大丈夫なわけないだろう。


「その土で汚れた服を着たまま入るのかい?私としてはあまりおすすめはできないかな。」

ぐぬぬ、手強い。


「分かってくれて嬉しいよ。じゃあ、はい。手を上げて、、と思ったけど上げられないか。」

と言うとセフィさんは膝立ちになり私の手は彼女の肩に乗せられる。すると、すぐに服を脱がされた。

とっさに体を隠そうとするが私の手は動かない。


「うーん。切り傷が多いな。森の草木にやられたのか?おやこれは、、打撲痕か。うーむ。」


なにやらセフィさんが私の頭上でぶつぶつ言っているがよく聞き取れない。

「どうかしましたか?」

「いや。なんでもないよ。思わず見惚れてただけさ。この家に運んできた時も思っていたけど改めてまじまじと見るとやっぱりシルは華奢だね。そしてかわいらしい。」

「まじまじと見ないでくださいっ!」

どういう神経をしているのだろうか。当たり前のように人の裸をじっくり観察するなんて。


「‥‥‥‥シルくん、体を動かせない人の下を脱がせるときはどうすれば良いと思う?実は私はこういう経験がなくてね。」

そうだ、失念していた。上を脱ぐんだから下も脱ぐに決まっている。


「私の体を横にすればそのまま脱がせるんじゃないですかね。」

「おぉ賢いね。床に倒すという発想はなかったよ。じゃあ、はい。」


というとセフィさんは私を椅子から床に倒してスカートに手を掛ける。


「じゃあ下ろすよ。」

「わっ、わざわざ言わなくても良いですっ!」

あぁ恥ずかしい、今日あったばかりの人にスカートを脱がされるなんて。


するるる…


「はい、完璧。これでやっとお風呂にありつけるね。」


恥ずかしすぎる。最初にしてくれたあーんとは比べ物になら無いくらい恥ずかしい。

あんなもので恥ずかしがっていた自分がどれだけ狭い世界で生きていたのかと滑稽に思えてくる。


「っと、忘れていた。シルをお風呂に入れるんだから私も脱がないとか。」

と言うやいなや彼女はワンピースを脱ぐ。



綺麗だ。

そう思った。

彼女の髪に近い美しい白い肌。

余分な肉はない、だがつくところにはしっかりついている。

先ほどまで私の思考を埋め尽くしていた恥ずかしいという考えはどこかに飛んでいってしまう。

感動さえしてきた。


「そうじっくり見られると恥ずかしいね。よし、椅子をちょっと動かすよ。」

私が座った椅子がズズッと動かされ方向が変わる。


そこには鏡があった。

いつもなら鏡があるなんて!などと感動していたことだろう。だが、今の私にそんなことを考える余裕はなかった。


「あっ、あっ。」

「どうかしたかい?」

嫌だ。見たくない。私の姿を見たくない。

私に鏡を見せないでくれ。私の髪を見せないでくれ。


「シル、どうしたんだ?返事をしてくれ。」

セフィさんが私の前に座り、私の視界から赤は見えなくなった。


「あっ、、すっ、すみませんっ!」

「私は大丈夫だよ。何か気になることでもあったかい?」

セフィさんは優しく問いかけてくれる。

そんな優しさが今の私にはとても沁みる。


「‥‥‥‥私、自分の髪が、、この赤い髪が嫌いなんです。」

「‥‥そうか。それは悪かったね。確認しておくべきだった。なら無理して鏡の方向に向く必要はないか。椅子、また動かすよ。」


ズズズズズッと椅子が動き、私の体がさっきまでとは反対方向に向く。


「次は最初からこうしようか。」

「すみません‥‥。」

「そんなに謝らなくても良いよ。人には嫌いなものの1つや2つ、3つや4つあるものさ。」

「‥‥‥‥ありがとうございます。」

「どういたしまして。じゃあ体を洗おうか。ずっとシルを触りたくてウズウズしてたんだ。」


あぁ、この人はなんて優しいんだ。詮索せず、私のわがままを文句1つ言わずに受け入れてくれる。

恥ずかしくなるような彼女のセリフも今は優しさに満ち溢れているように感じる。


「シルはいつもどこから洗う?」

「頭から順に足までですかね。こだわりは特に無いのでセフィさんがしやすいようにしてください。」

「なら頭からいこうかな。自分の髪もそろそろ飽きてきたから人の髪を触りたかったんだよね。」


彼女の手が私の髪に触れる。力は強すぎず、優しく髪を梳かしていく。

私の視界は彼女の体で閉ざされる。

恥ずかしさはあるが気持ちは落ち着いてきた。

思考に乱れはない。人の温もりがここまで効果大だとは思わなかった。


、、、そういえば彼女はなぜこんなところで暮らしているのだろう。しかも多分1人で。


「セフィさん、あの。」

「なんだい?どこか痛かったり痒かったりしたかい?」

「いっ、いえ。どこも問題ないです。」

「それは良かった。なら他に気になることが?」

「あの、セフィさんはこの森の中に1人で暮らしているんですか?」

「あぁ、その事か。うん、そうだよ。もうずっと1人でこの家に住んでるよ。」

「そう‥‥ですか。」


正直疑問は尽きない。

どうして1人でこんなところに?

いつから?

家族は?


だが、聞いてはいけないと思った。そう言われた訳じゃない。彼女が私に詮索しないのだ。私がして良い道理はないだろう。


「よし。お湯掛けるから目を閉じてね。」


バシャア


「これであたまは終わりっと。じゃあ次は体かな。」

と、手をくねくねさせながらニヤリと笑ってくる。

真正面でそれをされるとどう反応して良いか分からないからやめてほしい。

どっちにしろ私は抵抗できないからただされるがままだ。


「傷は痛む?塞がってるものも新しいものもあるけど。」

「今は痛くはないです。」

「ちょっと触るよ。痛かったら素直に言ってね。」


彼女の手がすーっと傷に伸びてくる。

比較的新しい傷だ。まだ塞がりきっていない。

彼女の指は私の傷を優しく撫でる。

「どうかな。」

「痛くないです。多分他の傷も。」

「そうか、なら心配はいらないね。ちゃんと優しくするから安心してね。」


彼女は手に持った布に石鹸をつけ、泡立てる。

「まずは首と腕からいこうか。」


布で私の体を優しく洗う。

この人あんなに触る触ると言っておきながら実際は布ではないか。いや、素手を求めていたわけではないが。


「よし、次は脇を洗いたいけど。そうだな、シル。私の肩から動かさないでね。」

そういうと彼女はまた私の手を肩に乗せる。

「あ、あの!」

「なにかな?もしかして脇は嫌だとか言わないよね。どうせ動かせないんだから諦めなよ。こそばゆいかもしれないけど我慢してね。」

見事私の考えを当てられた上に改めて私に拒否権が無いことを示されてしまった。そのまま彼女の手は私の脇に伸びてくる。


「ひゃあっ!」


ヤバい。これはマズイ。彼女の手から逃げたいのに体が言うことを聞いてくれない。くすぐったさと羞恥心から逃げることができない。


「あ、、あはははっ!セ、セフィさ、ん!や、やめてくださいっ!か、体が!体がもちません!」

「ダメだよ。ちゃんと洗わないと。汗もいっぱいかいているだろう?」

「むっ、無理ですっ!が、我慢できませんっ!」


マズイ。これは本当にダメなパターンだ。ただでさえこそばゆいのに、そんなにされると。

ダメだ、もう、、無理だ。


「もう少しだから、静かに「ジョロロロ、、」し‥‥て‥‥‥‥。」


あぁ終わった‥‥だから無理だと言ったのに‥‥‥‥。

「グッ、グスッ。グズッ、ズズズッ」


「ご、ごめん。本当に申し訳ないと思ってるんだ。まさかあぁなるとは思わなくて。」

「言わないでください。もう何も‥‥。」

「ほ、本当にごめんよ?」


「ズズッ、ズビーッ!」

「もっ、もうお風呂も入ったしそろそろ寝ようかっ!ねっ!?私もタオルのままではいられないし」


「‥‥‥‥はい‥‥。」

「じゃあ、準備をしてくるからちょっと待っててね。」

セフィさんがそそくさと寝室から出ていくのを見つめる。


ありがたいとは思っている。こんな見るからに怪しい私を家まで運んでくれたばかりか介抱までしてもらって、感謝してもしきれない。


でも、さすがにあれは‥‥


いや、あんなことになったのは我慢できなかった私が悪いというのは分かっている。分かっているが、責任を少しでも彼女に押し付けたい。そう思ってしまう。


「はぁ、、ダメだ私。ここまでしてくれてるセフィさんに不満を持つなんて‥‥。」


「おまたせ!さぁもう遅いし早く寝よう。」


私はその声につられ視線を向ける。


私の目に映ったのは少し前にも見た彼女の美しい白い肌だった。


つまり裸だった、もう一度言おうセフィさんは裸だった。


「セッ、セフィさん!?どうしてそんな格好をっ!?」


「いやぁちょうど私の替えの下着を洗ってしまっていてね。シルに貸した分しか無かったんだよ。」

確かに私は予備の服なんて無かったから彼女のものを借りている。だが、だからといってじゃあ自分は裸で寝ようとはならないだろう。


「ならっ!この下着はセフィさんが着るべきですっ!」

「もうシルが着ているのにかい?あまりどちらも良い思いはしないんじゃないかな。」

「でっ、でもさすがに裸は。」

「別に裸で寝る人は他にもいるよ。これは私がおかしいんじゃない。シルがちょっと過敏なだけだよ。」


‥‥いや、その人達も他の人がいるのに裸では寝ないだろう。やっぱりこの人はどこかおかしい。


「体、動かすよ。」

「え。」

「え。じゃないよ。私に床で寝させるつもりかい?最近はちょっと冷えるしさすがに厳しいよ。」

なら何か他の服を着れば良いのではないか。そこまでして裸でいる理由が知りたい。


ぐぐっと体が壁側に寄せられ、できたスペースにセフィさんが入ってくる。

「うーん、人がいると暖かくていいね。毛布で熱が閉じられる分シルの暖かさが伝わってくるよ。」

「やっ、やっぱり私無理です!」

「そんなに恥ずかしい恥ずかしいと言っていたら寝る時間がなくなってしまうよ。君には休息が必要なんだから早く寝なさい。」


(あなたのせいで寝られないんですけど!)


「じゃあ、おやすみー。」

「お、おやすみなさい‥‥。」



スースー、スースー


彼女の寝息が聞こえてくる。

もう寝たのだろうか。

顔を横に向け、彼女の顔を見ると安らかな顔をして眠りについている。


(私のせいで余計に疲れさせたよね。私、本当に迷惑ばっかりかけてる。ただでさえこんな女の子が1人でこんな森の中で暮らすのはそう簡単じゃないだろうに。‥‥‥‥はぁ、早く寝よ。)


瞼を閉じると私の意識はすぐに落ちた。

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