醜い世界にさよならを
肴屋さん
第1話
苦しい‥‥辛い‥‥‥
なんで私ばかりこんな目に‥‥‥
私が何をしたというんだ。
誰かを貶め、嘲ることしか脳がない人間ばかりが生きて、他者を思いやれる人が生きていない。
あぁ________
こんな世界は壊れてしまえばいい。
「ハァハァハァ」
無我夢中で走る。
服は泥で汚れ、靴もいつからか抜け落ちている。
体は草木の間を走り抜ける内に傷だらけ。
この森に来たのが間違いだったのか。
いや、正解だったと信じるしか私に希望はない。
「あっ」
体がそのまま前向きに倒れる。
なぜ倒れたのか分からない。
いや、理由なんて分かりきっていた。
ずいぶんご飯を食べていない。水さえも飲んでいない。
「もう、、走れない、、、」
こんなところで終わってしまうのか。
嫌だ、まだダメだ。終わりたくない。
どれだけ抗おうとしても瞼は言うことを聞かず、私の視界は暗闇で閉ざされていった。
「はっ!」
文字通り飛び起きた。
「追っ手は!」
急いで周囲を見渡すが、そこに眠る前と同じ光景は広がっていない。
私の体はベッドの上にあった。
「ここは‥‥」
木造の一軒家だろうか。内装は簡素で必要最低限の家具しか無いように見える。
「どうして私はこんなところに?」
当然浮かんでくる疑問を口にしながら体を起こそうとするが思うように動かない。
ズキズキと体から悲鳴が上がる。
ぐるるぅとお腹から声がする。
当たり前だ、そもそも体はとうに限界を迎えていたのだ。自由に動く筈がない。
「おや、眠れる姫のお目覚めかな。」
ふと声がした方向に顔を向ける。
そこにはエプロンをかけた女の子がいた。
光の反射で銀色にも見える腰ほどまで伸びた美しい白髪はおとぎ話に出てくる天使の翼のようにも見える。
歳は‥‥身長から考えると私と同じ19才程だろうか。
「どうして私はこんなところに?」
ついさっき口に出した疑問ををそのまま少女にぶつける。
「私が助けたんだよ。びっくりしたさ、帰って来る途中、可愛い女の子がこんな深い森で倒れているんだから。」
この少女の言葉を信じるなら彼女は私の命の恩人ということになる。
「助けてくれてありが─「ぐるるぅ」とう‥‥ございます‥‥‥‥。」
‥‥‥‥‥‥なんてタイミングで鳴ってくれてるんだこのお腹は。
「あぁすまない。お腹が空いているだろう。ご飯を用意しているんだが、、君が動けないようならここまで持ってくるよ。」
「いえっ!」
体は動かそうと思っても動いてくれない。
「無理をしなくて良いよ。少し待っていてくれ。すぐ持ってくる。」
「何から何までありがとうござ─「ぐるるるるぅ」います‥‥。」
本当に今ばかりは自分の体を恨んだ。
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「よし、用意できたよ。」
そんな声につられて目を覚ます。いつの間にかまた眠っていたようだ。体をなんとか起こし、声のした方に向ける。
ベッドの横にある少し大きめのサイドテーブルに料理が並んでいる。
想像していたよりもたくさん料理が出てきた。パンとサラダ、それにステーキまである。
「こんなにいっぱい‥‥。本当にありがとうございますっ!」
「可愛い女の子を空腹のままでいさせたら母に怒られてしまうからね。さぁ、召し上がれ。」
早速いただこうと思いフォークとナイフを持つために手を伸ばそうとする‥‥が動かない。
当然だ。さっきまで全然動かなかったんだ。料理が目の前にあるからと言って動くようになるわけがない。
「もしかして、自分だけじゃ食べられない?」
恥ずかしさから否定したいが実際食べられないのだからどうしようもない。ただ、コクコクと頭を動かす。
「倒れていたんだ、仕方ないさ。では、今回は私が食べさせてあげよう。」
「すみません。」
「そう気にしなくても良いよ。お姫様にあーんするのが夢だったんだ。」
‥‥‥‥この人はさっきから歯の浮くような言葉ばかり言っていて恥ずかしくないのだろうか。
などと、考えている間に彼女が綺麗にステーキを切り分けていく。
おぉ肉汁がすごい。とても美味しそうだ。
「はい、あーん。」
ステーキの刺さったフォークを口の前に差し出してくる。
「‥‥あーん。」
っ‥‥!!すごく美味しい!本当に美味しい!これは語彙力が無くなってもおかしくない。
だがそれと同時に恥ずかしくて顔から火が出そうだ。あーんされるのがここまで恥ずかしいとは思っていなかった。
彼女はどうだろう。さりげなく顔を見る。
まるで自分が食べているかのように幸せな顔をしてこちらを見ているではないか。
間違った。
見るんじゃなかった。
余計に恥ずかしくなった。
「お味はどうです?お姫様。」
相変わらずなセリフを吐いてくる。
「すごく美味しいです!こんなに美味しいご飯は久しぶりで感動してきました!」
「それは良かった。なにぶんずっと1人だったから他の人の口に合うか不安だったんだ。じゃあ次はサラダとパン、どちらから食べたい?」
ステーキにはパンと相場は決まっている。
「パンでお願いします。」
「いいよ。っと忘れていた。パンにはステーキを乗せないとね。─はいどうぞ。」
彼女がパンを切り分け、差し出してくる。
「あーむ。」
おぉ!パン自体にそこまで語る部分は無いがなんと言ってもステーキとの組み合わせが最高である。少し固めのパンに肉汁たっぷりのステーキが乗ることで完成された1品になっている。
「それだけ喜んでくれたら頑張った甲斐があるね。」
改めて感謝を述べようとするとふと疑問が浮かぶ
(そういえば私、彼女の名前も知らない。)
「あっ、あのっ!」
「なんだい?気になることでも?‥‥‥‥いや気になることだらけか。お互い名前さえ知らないね。」
まるで心を読んだかのように私が気になっていたことについてふれた。
「私はセフィ。セフィ•ルーン。気軽にセフィちゃんでもセフィでも好きに呼んでくれて構わないよ。じゃあ次、君の名前はなんて言うのかな?」
「私はシルリア•ユグソラスです。」
「素敵な名前だね。うん、美しい響きだ。なら君のことはシルと呼ぼう。シルは私をどう呼んでくれるのかな?」
今名前を教え合ったばかりなのにもうニックネーム呼びされている。というか、これはもしや私もニックネーム呼びするべきなのか?セフとかセフィラとか呼ぶべきなのか?
「‥‥‥‥セフィさんで。」
「呼び捨てでも構わないよ?」
「でっ、できませんっ!命の恩人を呼び捨てだなんて!」
「その命の恩人が呼び捨てで呼んでくれって言ってるんだよ?」
この人、優しいは優しいが少し頑固だ。だが、私も考えを変えるつもりはない。
「いえっ!それでも呼び捨てはできません!」
「残念。まだ早かったかな。」
おや、思いの外早く諦めてくれた。このやりとりをもう1セットくらいするかと思っていたのに。
でもありがたい。私は彼女ほど距離を詰めるのが得意ではない。
「名前も教え合ったことだし早くご飯を食べきろうか。冷めてしまうと美味しさ半減だからね。」
はっ!忘れていた。早く食べねば。
‥‥そういや私は1人じゃ食べられないではないか。
無言で彼女、セフィさんを見つめる。
「っ!シルが自分から求めてくれるなんて‥‥私は今すごく嬉しいよ。これからもずっとあーんをしてあげたいくらいだ。」
それは遠慮しておきたい。いつもこれでは私の心がもたない。
「肉ばっかりじゃなくてサラダも食べないとね。はい、あーん。」
「あーん。」
少し温められた野菜に塩とオリーブ油のかかった、濃すぎない優しい味のサラダだ。
ステーキを食べた後にとても合う。
「サラダも美味しいです!ありがとうございます!」
「それはなにより。」
セフィさんは顔を少しうつむかせる。
「どうかしましたか?」
「いやぁ、こうして感謝をはっきり伝えられると少し照れるなと思ってね。」
‥‥全然そうは見えない。私ばかりが照れている気がする。
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