第2話 ご来光
目が覚めると、枕元に小さな箱が置いてあった。
白い箱だった。
飾り気もなく、ただ綺麗すぎるくらい綺麗で、部屋の中では少し浮いて見える。
昨夜までは、なかったはずだ。
寝ぼけているのかと思い、頬をつねる。
痛みはちゃんとある。
箱の蓋の上に、折り畳まれた紙が一枚置いてあった。
見覚えのない文字。けれど、読める。
『あなたが、
誰かの一番でありたいと願うのなら
これを身につけてください』
短い文だった。
命令口調でも、誘うようでもない。
ただ、事実を述べているみたいな書き方。
箱を開ける。
中には、髪飾りが一つ入っていた。
派手ではない。
どちらかといえば地味だ。
小さな石が一粒ついているだけで、特別高そうにも見えない。
でも、不思議と目を離せなかった。
これをつければ。
誰かの、一番になれる。
そんなこと、あるはずがない。
分かっている。
分かっているのに、指が勝手に伸びていた。
「……一回だけ」
誰に言うでもなく、呟く。
髪を結び、飾りを差し込む。
重さはほとんど感じない。
鏡を見る。
何も変わっていない。
顔も、雰囲気も、昨日のまま。
拍子抜けして、少し笑ってしまった。
「やっぱり、そんな都合のいい話……」
言い終わる前に、ドアの向こうから声がした。
「お姉ちゃん?」
弟だった。
いつもなら、用事があれば母を呼ぶ。
私の名前が出るのは、頼みごとがあるときだけだ。
少し驚きながら、返事をする。
「なに?」
「その……」
弟は、珍しく言い淀んだ。
「今日さ、朝ごはん、一緒に食べない?」
一瞬、意味が分からなかった。
「……え?」
「いや、なんとなく」
なんとなく、で誘われたことなんて、今まであっただろうか。
食卓に行くと、母がこちらを見て微笑んだ。
「あら、早いわね」
それだけだった。
でも、その視線は、いつも弟に向けられているものと一緒だと感じた。
席につく。
弟がパンを取って、私の皿に置く。
「これ、好きでしょ?」
好きだったかどうかは、正直覚えていない。
でも、嫌いじゃない。
「……ありがとう」
声が、少し上ずった。
学校に行くと、さらにおかしかった。
クラスメイトが声をかけてくる。
「今日、髪可愛くない?」
「似合ってる」
今まで、そんなことを言われた覚えはほとんどない。
授業中、先生に当てられる回数も増えた。
「さすが、よく分かってるな。」
そう言って微笑み、次に進む。
昼休み、席を立つと、誰かが自然と隣に来る。
理由はない。
でも、独りにはならなかった。
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
これが、一番?
放課後、鏡に映る自分を見る。
特別綺麗になったわけじゃない。
急に才能が増えたわけでもない。
それでも、確かに昨日までと世界が変わっている。
私を見る目が、変わっている。
帰宅して、髪飾りを外そうとした。
――手が、止まる。
外したら、どうなる?
元に戻るだけ。
二番手の世界に戻るだけ。
そう分かっているのに、
なぜか指が動かなかった。
私は、髪飾りをつけたまま、眠りについた。
その夜、夢は見なかった。
ただ、
誰かに見られているような感覚だけが、
朝まで消えなかった。
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