第二十一章 英雄の帰還

金城との戦いから、一ヶ月が経った。

 世界は、少しずつ平穏を取り戻しつつあった。

 帝国との戦争は、終結した。金城が消えた後、帝国では内乱が起き、新しい指導者が即位した。その指導者は、王国との和平を望んでいた。

 帝国を苦しめていた資源枯渇も、徐々に回復しつつある。金城が奪っていたものが、全て元に戻ったからだ。

 真琴は、帳簿管理官として各地を巡っていた。

 違算の痕跡を見つけ、一つずつ解消していく。

 地味な仕事だったが、やりがいがあった。


     ◇


 ある日、真琴はレイブリッジの冒険者ギルドを訪れた。

 懐かしい場所だ。

 この世界での冒険が、ここから始まった。

 「あ——帳尻さん!」

 カウンターの向こうで、エリナが立ち上がった。

 「久しぶり! 元気だった?」

 「おかげさまで」

 真琴は、カウンターの前に立った。

 「エリナも、変わりないようで」

 「うん。相変わらず、ここで働いてるよ」

 エリナは、にっこり笑った。

 「ニュースは聞いたよ。世界を救った英雄だって?」

 「そんな大げさなものじゃ——」

 「謙遜しなくていいの。私、最初から思ってたんだから。帳尻さんは——すごい人だって」

 真琴は、照れくさそうに頭を掻いた。

 「ありがとう。エリナに最初に会えて——よかった」

 「私も——」

 エリナは、少し頬を赤らめた。

 「私も、帳尻さんに会えて、よかった」


     ◇


 ギルドを出ると、ガルドとリリアが待っていた。

 「終わったか?」

 「うん。懐かしい人に会えた」

 「そうか」

 ガルドは、頷いた。

 「俺は——騎士団に戻ることにした」

 「え?」

 「正確には、騎士団の教官だ。若い連中に、剣を教える」

 「ガルドさんが——」

 「冒険者も悪くなかったが——やっぱり、俺は騎士が性に合ってる。それに——」

 ガルドの目が、少し柔らかくなった。

 「帝国との和平が成立した。もしかしたら——娘を探せるかもしれない」

 「娘さん——」

 「まだ、生きているかどうかわからん。でも——探す価値はある」

 「そう——ですね」

 真琴は、頷いた。

 「見つかるといいですね」

 「ああ」


 リリアが、口を開いた。

 「私は——魔法学院に入学することにしたの」

 「魔法学院?」

 「うん。違算について、もっと研究したいの。マコトみたいに——精算できるようになりたい」

 「リリア——」

 「私の故郷——もしかしたら、取り戻せるかもしれないでしょ? そのために——もっと、勉強する」

 真琴は、リリアの頭を撫でた。

 「頑張れ。応援してる」

 「うん!」

 リリアは、満面の笑みで答えた。


     ◇


 仲間たちと別れ、真琴は王都に戻った。

 王宮の一室が、真琴の「仕事場」になっていた。

 各地から届く報告書を確認し、違算の兆候がないか調べる。

 地味な仕事だったが——

 「真琴さん」

 シルヴィアが、お茶を持って入ってきた。

 「少し、休憩しましょう」

 「ありがとう」

 真琴は、お茶を受け取った。

 シルヴィアは、聖女の地位を返上していた。

 今は、真琴の「助手」として働いている。

 「今日も、大変だった?」

 「まあまあ。大きな違算は見つからなかったけど——小さいのがいくつか」

 「小さい違算も——放置すると、大きくなるものね」

 「そう。だから——一つずつ、潰していく」

 シルヴィアは、微笑んだ。

 「真琴さんらしいですね」

 「レジ打ちの頃から——そういう性格だから」

 「知ってます」

 二人は、並んでお茶を飲んだ。

 窓の外では、夕日が王都を照らしている。

 「平和だな——」

 真琴は、呟いた。

 「ええ。この平和を——守りたいですね」

 「守る——か」

 真琴は、窓の外を見た。

 この世界には、まだまだ違算がある。

 小さなものから、大きなものまで。

 それを——一つずつ、解消していく。

 「帳尻を——合わせる。それが、俺の仕事だ」

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