第十八章 世界の中心へ

始原の神殿は、世界の中心——「均衡点」と呼ばれる場所にあるという。

 シルヴィアから聞いた情報によれば、そこは普通の方法では辿り着けない。

 「神殿への道は、違算によって歪んでいます」

 出発前、シルヴィアは病床からそう説明した。

 「普通に歩いても、いつまでも着きません。しかし——」

 「精算眼があれば?」

 「歪みを正しながら進めば、辿り着けるはずです」

 真琴は、頷いた。

 「わかりました。必ず——金城を止めてきます」

 「お願いします。そして——」

 シルヴィアは、真琴の手を握った。

 「必ず、帰ってきてください」

 「約束します」


     ◇


 王都から北へ、三日間歩き続けた。

 途中、何度も「歪み」に遭遇した。

 同じ場所を何度もぐるぐる回ってしまう迷いの森。

 上下左右が逆転する奇妙な峡谷。

 時間の流れがおかしくなる霧の平原。

 全て、違算によって引き起こされた空間の歪みだった。

 真琴は、精算眼で歪みの正体を見極め、【精算処理】で道を開いていった。

 「すごいな、お前の能力は」

 ガルドが、感心したように言った。

 「この歪みを、こんなにあっさり解除できるとは」

 「金城が近いから、かもしれません」

 真琴は、前方を見据えた。

 「金城が作り出した違算が、集中している。だから——」

 「やりやすい、ってことか」

 「逆に言えば、金城の影響力がそれだけ強いってことです」


 四日目の朝、ついに——神殿が見えた。


     ◇


 始原の神殿は、想像を絶する光景だった。

 巨大な石造りの建物が、空中に浮かんでいる。

 周囲には、光の柱が何本も立ち上り、空へと伸びている。

 「これが——世界の中心……」

 リリアが、呆然と呟いた。

 「なんて、綺麗……」

 美しい、と真琴も思った。

 しかし、同時に——不安も感じた。

 精算眼で神殿を見ると、内部に巨大な違算の塊があるのがわかる。

 金城が、既にいる。

 「行こう」

 真琴は、神殿に向かって歩き出した。


 神殿の入り口には、巨大な門があった。

 しかし、門は閉ざされていない。

 金城が、通った後だろう。

 「罠かもしれんな」

 ガルドが、警戒した。

 「金城は、俺たちが来ることを知っている」

 「それでも——行くしかない」

 真琴は、門をくぐった。


 神殿の内部は、迷宮のようだった。

 長い廊下が続き、無数の部屋が並んでいる。

 そして——至る所に、違算によって歪んだ空間があった。

 「ここから先は、一人ずつでないと進めないようになっている」

 真琴は、精算眼で分析した。

 「この歪みは——複数人で通ろうとすると、別々の場所に飛ばされる」

 「なら——」

 「俺が一人で行きます」

 「待て、帳尻——」

 「ガルドさん、リリア」

 真琴は、二人を見た。

 「ここまで来てくれて、ありがとうございます。でも——ここから先は、俺の戦いです」

 「マコト——」

 「俺と金城の、因縁の決着だ。他の誰にも——頼めない」

 ガルドは、しばらく黙っていた。

 そして——剣を鞘に納めた。

 「……わかった。行ってこい」

 「ガルドさん」

 「ただし——必ず勝て。そして、生きて帰ってこい。それが——俺たちとの約束だ」

 リリアが、真琴の手を握った。

 「マコト。私——信じてるから」

 「うん」

 真琴は、頷いた。

 「行ってくる」


     ◇


 歪んだ空間を、一人で進んでいく。

 精算眼で道を開き、【精算処理】で障害を取り除く。

 どれくらい歩いただろうか。

 時間の感覚が、曖昧になっていた。


 やがて——巨大な扉の前に辿り着いた。

 扉には、古代文字のような模様が刻まれている。

 精算眼で見ると——


 【帳簿の間への扉】

 【状態:開錠可能】

 【注意:内部に強大な違算の存在あり】


 ここだ。

 世界帳簿がある場所。

 そして——金城がいる場所。


 真琴は、深呼吸をした。

 覚悟を決める。

 そして——扉を、押し開けた。

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