第十五章 撤退と再起

王都に辿り着いた時、シルヴィアは意識を失っていた。

 「生命力が、極端に低下しています。このままでは——」

 医師の言葉に、真琴は血の気が引いた。

 「助けられないんですか」

 「私の医術では——限界があります」

 「そんな——」

 真琴は、シルヴィアのベッドの傍に座り込んだ。

 彼女の顔は、紙のように白い。呼吸は浅く、脈は弱い。

 精算眼で見ると——


 【シルヴィア・セレスティア】

 【生命力:23/200】

 【状態:瀕死】

 【原因:聖女の力の過剰使用】


 生命力、23。

 本来の十分の一以下だ。

 「シルヴィア……」

 真琴は、彼女の手を握った。

 冷たい。まるで——

 「俺のせいだ」

 真琴は、呟いた。

 「俺が弱いから——シルヴィアが、身代わりに——」

 「自分を責めるな」

 ガルドの声がした。

 振り向くと、ガルドとリリアが立っていた。

 「聖女殿は、自分の意志でお前を守った。それを——」

 「でも——」

 「帳尻」

 ガルドは、真琴の肩に手を置いた。

 「お前が今すべきことは、後悔じゃない。強くなることだ」

 「強く——」

 「金城に勝てる力を、手に入れろ。そうすれば——聖女殿を救う方法も、見つかるかもしれない」


     ◇


 その夜、真琴は一人で祈りの間にいた。

 王宮の奥にある、女神を祀った神聖な場所。

 シルヴィアから聞いたことがある。ここで祈れば、時に——女神の声が聞こえることがあると。

 「女神様——」

 真琴は、目を閉じた。

 「どうか——力を、貸してください。俺には——まだ、やるべきことがある」


 静寂が、続いた。


 やがて——頭の中に、声が響いた。


 『真琴』


 「女神様——」


 『あなたの祈りは、届いています。そして——あなたの決意も』


 「俺は——金城を止めたい。シルヴィアを救いたい。でも、今の俺の力じゃ——」


 『だからこそ——今、伝えます。あなたの【精算眼】の、真の力を』


 真琴は、息を呑んだ。


 『【精算眼】には、二つの上位機能があります』


 女神の声が、脳裏に刻み込まれていく。


 『一つは、【総決算(グランドクロージング)】。対象の全ての違算を、一度に精算する力。金城が奪った全てのものを——元に戻すことができます』


 「全てを——」


 『ただし、使用には膨大な精神力を消耗します。そして——失敗すれば、あなた自身が消滅する危険もあります』


 「それでも——」


 『もう一つは、【監査モード】。対象の過去の「取引」——つまり、何を得て、何を失ったか——を、全て遡って確認する力。金城が奪ってきた全ての履歴を、暴くことができます』


 過去を、遡る。

 それが、精算眼の真の力——


 『この力を使いこなすためには、修行が必要です。しかし——あなたなら、できます。私は、あなたを信じています』


 「女神様——」


 『そして——シルヴィアのことも、諦めないで。彼女の命は、まだ繋がっています。あなたの力が開花すれば——救う方法が、見つかるはずです』


 声が、遠ざかっていく。


 『真琴。世界の帳尻を——合わせてください』


 光が消え、真琴は一人、祈りの間に取り残された。

 しかし——

 胸の奥に、新しい力の種が芽生えていた。

 「【総決算】——【監査モード】——」

 真琴は、拳を握りしめた。

 「やってやる」

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