銀の指先

めっち

銀の指先



しゅわ、と音がして、部屋に熱が満たされていく。


白く立ち上る蒸気の向こうで、細い指がカイルの手を触れていた。

手の甲を辿って、関節を確かめ、指先の丸みをなぞり。

ゆっくりと一つ一つを確かめるそのまなざしは、邪魔するのを躊躇われるほど真剣だった。


その碧い瞳が、まるで慈しむかのようにまっすぐと、余所見もせず見つめるのが、ひどく擽ったい。

それと同じくらい、この時間が、いっとう好きだった。


「――はい。調整終わり」


差し出された義肢を、礼と共に受け取る。

一仕事終えたとばかりに柔らかな鳶色の髪をかきあげる、その指もまた、鈍色に輝いている。

どこか満足げな職人の横顔を見ているのがなんだか辛くなって、そっと視線を逃した。



***



カイルは冒険者だ。

一年ほど前に左手を失い、それを補うため義肢を用いている。


「今回も見つからなかったのかい?」

「残念ながらな」

「それは運が悪かったね」


このご時世、四肢欠損で義肢を使う者は限られる。

よほどの貧乏人か、物好きだけだ。


理由は、"治せる"から。


ダンジョンの深部にて稀によく発見される、魔力を宿した花。

それから作られるエクスポーションがあれば、失った腕も足も翌日にはにょっきり生えてくる。


「カイルも、見つけたことはあるんだろう?」

「数年前にな。欲しいと思うと出てこない」

「一期一会だよね、ああいうの。廃盤パーツと一緒だ」


ただそんなご時世でも、こうして義肢職人なんていう職が廃れていないのも事実だった。

理由は簡単で、このおんぼろ工房のある下町には、そんな金を持っている奴らがいないからである。

つまり、儲からないが必要な仕事、というわけだ。


しかし――と、カイルはカウンター越しに工房を眺める。

所々に配管が通った壁のあらゆるを埋めつくすのは、光沢のある鈍色の歯車とパーツの群れだ。

しかしカーテンは擦り切れ、天井からぽたぽたと雨漏りがしているのを、なんとお椀代わりの肩パーツが受け止めている。他になかったのか。


とはいえ、週に一度のメンテナンスに訪れるカイルには、とっくに見慣れた光景だ。

この工房がここまでおんぼろな理由は、この工房の主、彼自身にある。


「遜色ない性能とはいえ、もう一年か。早く見つかることを祈っているよ」

「本音は?」

「きみの腕いじるの楽しいし、もう暫くは、僕も食い扶持に困らなくて済みそうだ。万々歳だね」


たいへん正直な本音を前に、カイルは肩を竦めた。


こいつは、貧民たちのツケ払いを断らない。

そのせいでツケは溜まる一方で、膨らんだ貸しがいつだって生活を圧迫しているのだ。


『彼らは身体が資本だろう?ここで僕が断ったら、生きていけなくなってしまうよ』


そんなのは寝覚めが悪いから、と。

事も無げにのたまう癖に、その日の夕食はちいさなパンひとつで済ませていたりする。

見かねて夕食を差し入れたことも、一度や二度ではなかった。


「まともに食えないのに、どうしてこんな下町で義肢職人なんてやってるんだ。

 お前の腕なら、もっと大きな工房でも通用するだろう」


今度は、彼が肩を竦める番である。

柔和なまなじりを困り笑いに緩ませる姿に、反省の色は見えない。


「きみは褒めてくれるけど、両腕がこれじゃあね」


その両腕は、カイルと同じく義手である。

いくら腕がよくとも、繊細な仕事が求められる工房では雇ってもらえないのだと。


「それに、趣味と実益を兼ねてる。僕はこれで満足なんだ」

「この機関狂いめ……」


先代から譲り受けただか何だか知らないが、雨漏りのひとつも直せないようでは、先は長くないだろうに。

カイルの視線から逃れるように、さて、と彼は時計を見上げた。


「時間だね。それじゃ、次のダンジョン攻略も頑張って。"偽腕のカイルロッド"殿」

「――どうも。代金はこれで、向こうひと月分」

「うん。いつもありがとね」


こうして前払いのお節介を焼いている理由を、こいつは考えたことはあるのだろうか。

カウンター越しに振られる手は、いつも通り陽に煌めいて眩しかった。



***



『偽腕』。

ここ一年で呼ばれるようになった通り名は、明らかにこの目立つ義手のためだ。


「最近、よく指名の依頼が入るよね。それ、効果あるんじゃない?」

「悪目立ちだろ。別段期待されてるわけでもない」


こちらの悩みも露知らず、冒険仲間の魔法使い、通称"緑の魔女"が首を傾げた。


「仕事増えてるなら、悪いことじゃないと思うけどなあ」

「ここのところ、依頼に行くたび聞かれる。なんで治さないんだ、って」

「あはっ、言いづらいよねー。運が悪いだけだなんて!」


ダンジョンへ潜る冒険者たちは、エクスポーションを手にする機会も多い。

一時的に義肢を使うことはあれど、カイルのように一年も放っておく奴はそう見なかった。


単に運が悪いだけだと言い張っていても、世間はそうは見てくれない。

物好き。変わり者。噂は一人歩きしていき、魔法嫌いだなんて噂もどこかで聞いた。それなら魔女と組むはずもあるまいに。

ギルドへ赴いた時にも色眼鏡で見られることが増えて、最近は少し、息がしづらい。


それでも、ダンジョンに潜ってさえしまえば、人の目など気にすることもない。



ギギャギャギャギャ、と、甲高い音が悲鳴のように響く。


真後ろで腰を抜かしていた村人を、容赦なく安全な場所へ蹴り飛ばし。

カイルは、競り合っていた2体のポーンスケイルを、一息のうちに大剣で薙ぎ払った。


二匹目の剣を受け止めていた義手は、鎧鉄が抉れ、地金がむき出しになっている。

これが生身であったなら、とっくに血まみれ大切断である。後ろの村人も無事ではなかったであろう。


たとえ偽物と呼ばれても、十分にこの腕は人を守ってきた。


「た、助かった……!」

「さっさと行け!」


カイルの叫びに頷いた村人が、魔女の確保した退路へ走っていく。


大多数の一般人にとって、ダンジョンとは突然生成されるはた迷惑な迷宮だ。

そこに道や建物があってもお構いなし、前兆もなければ保証もない。

村や街が巻き込まれた場合は、被害は甚大なものになる。


「はー……やられたな」


この層に取り残されていた村人の救出を終え、一息。

あの群れを一人で抑えるのは、中々に骨が折れた。


関節の機構を断ち切られてぷらりと垂れた腕は、もはやただの重りだ。

外すかどうか迷ったが、重心が狂うのを嫌ってそのままにする。


「あーあー、えらいこっちゃだね。あと一層、いけそう?」

「問題ない。壁役はこなせる」

「生身なら治せるのになー。まあ、カイルだったおかげで、あの人は助かったわけだけど」


それならば、このままだっていいのかもしれない。

この腕だからこそ、守れるものだってあるのだから。


焦る必要はない。

躍起になる必要もない。


――あのまなざしを思い出して、そう、口元を緩ませた。




しかしながら、そんなタイミングに限って。

出る時は出る、出ないときは出ない、そんな代物が。


「この花、カイルがずっと探してたやつじゃん!おめでとー!!」


出るのである。

これが俗にいう、物欲センサーとかいうやつなのか。


後ろから踏破報酬をのぞき込んできた魔女が、目を輝かせて花を手に取った。


「うんうん、量は十分。材料もあるし、これならすぐポーションにできるよ!」


鮮度がいい方が性能もいいからね!と。

止める間もなく、魔女がどこからともなく取り出した小さな魔女鍋に水を満たす。

すり潰した材料を手慣れた手つきで放り込み、ぐるぐると魔女棒こと杖で中身を混ぜ。


気が付けば、目の前に差し出された瓶に、煌めく液体が揺れていた。


カイルはこれを、見たことがある。数年前も、この魔女が採ったその場で調合してくれた。

高く売れる素材が見つかったことに素直に喜んでいた、あの頃が懐かしい。


これがあれば、明日から、朝晩の面倒くさいメンテナンスルーチンからはおさらばだ。

好きに水浴びもできる。戦闘中に壊れる心配をしなくていい。

生身の感覚が、戻ってくる。


ずっと、求めていたはずのものだ。

けれどそれは、あの工房を訪れる口実もなくなることを、意味していた。


そう考えた瞬間に生まれた、もやっとした思いを、カイルは眉間にしわを寄せることで表現した。

喜色に染まっていた魔女の顔が、あれ?と疑問の色を宿す。


これを持って帰ったら、いや、いっそ生身の腕を携えてあいつの前に現れたら、どんな顔をするだろうか。

喜んでは、くれるだろう。残念がりもするだろう。

羨ましがるかどうかは、分からない。


想像できるほど、彼を知らない。

――このまま、彼のもとを去ることになるのだろうか。

カウンターの向こう側へ踏み込む日も、来ないままに。


去り際の鈍い煌めきを思い出す。

もし、このポーションを使うのが、彼であったのなら。

彼の手は、どんなかたちをしているだろう。


骨ばって細身なのか、それとも、思いのほか大きいのか。

触れた時に伝わる、熱は、どれほどなのか。

あのまなざしと共に触れる指先が、冷たい銀ではなく、穏やかな熱であったなら、どんなに。


そこまで考えて、はたと我に返る。


一体何を想像してるんだ。

いつの間にか生まれた欲望を自覚して、苛立ちのままに、顔を背けた。


「……要らん」

「えっ」

「お前が持っていろ」

「な、なんでなんで?どういう心変わり?」

「なんでも。他の財宝は戻ってから山分けだ」


ええー!?と、抗議の声が上がる。

それを無視して、カイルは一人、さっさと地上へ戻る支度を始めた。


燻ぶる悩みも、卑怯で浅はかな考えも。

なかったことに、したかった。



***



アラン・マクドール義肢工房、と書かれた古びた看板を横目に、扉を開ける。

ぎしりと軋んで大きく工房に響き渡る音は、さながらドアベルだ。ひょこっと、工房の主が顔を出した。


「帰った」

「うわ」


彼の視線が釘付けなのは、どさりとカウンターに置いた革袋――ではない。

カイルの腕にぷらりとぶら下がる、用をなさなくなった義手の残骸である。


「コイツを直せ。代金はここから好きに持ってけ」

「きみは本当にいつもさあ……」

「何か文句でも?」


ないよ、と応えつつも、男からは呆れたようなまなざしが降ってくる。

この一年、ダンジョンから帰還してすぐの恒例行事であった。


取り外した義手を受け取った彼が、しょんぼりとした顔で撫でる。しゃり、と金属同士が擦れる音。

その仕草は柔らかくて優しくて、やはり何度見てもくすぐったさが抜けなかった。


「とりあえず状態を確認するから、コーヒー飲んで待っていて。この後は、何か用事ある?」

「ない。……から、別に代わりもいらないし、急がなくていい」


当然だが、一昼夜で直るものではない。

場合によってはありあわせの義手を貸してくれるのだが、今は別にその必要もなかった。

義手を外し、軽くなった左肩をとんとんと叩きつつ、スツールへ腰かける。


やや時間を置いて出てきたコーヒーは、いつも淹れたてだ。すぐ口にするには熱すぎる。

猫舌の自覚があるカイルは、窓辺から通りを眺めつつ、冷めるのを待つのが常だった。



「あれ?ねえ、カイル」


ぼんやりと考え事をしている間に、義手の検分と修理の見積りは済んだようである。

振り返れば、渡した革袋を開けたらしい彼が、こちらを見ていた。


「これは?」


彼の指先がつまむ小瓶を目にして、心臓がひとつ跳ねた。

なかったことにしたはずのものが、どういうことか、この場にある。

要らないと言ったのに、どうやら知らぬ間に荷物へねじこまれていたらしい。迂闊だった。


「ポーションだよね?……もしかして、手に入れたのかい、とうとう?」

「いや……」


真剣なまなざしで見つめられて、カイルは答えに窮した。

うまい言い逃れもできず、視線をウロウロと彷徨わせたのち、なんとか言葉をひねり出す。


「……その腕は、直せ、と。言った」


ポーションを使うつもりでいるなら、そんな必要もない。

そんな意図をこめて絞り出した言葉は、短い響きだけをもって、工房に響く。

落ちる沈黙。何かもの言いたげにはしていたものの、やがて彼は、ただ頷いた。


「……そう」


根掘り葉掘り聞こうとしないその姿勢が、今はただ、ありがたかった。

聞かれたところで、まともに答えられる自信などない。


ここを訪れる口実がなくなれば、当然、顔を合わせる頻度は落ちる。

この一年過ごしてきた時間が、薄められて失われるのは、嫌だった。

何より――あのまなざしを手放すのを、惜しいと思ってしまったのだ。


ならば決断できたのかといえば、そうでもない。

生身の腕を完全に諦めたとも、まだ言い切れなかった。

この重たい腕をぶら下げて生きる自身の未来は、まだはっきりと見えないままで。


そんな曖昧な思いを告げた時の彼の顔を思うと、言葉にする勇気は出なかった。

気まずいと思うままに視線を落とした先で、カウンターの上を滑った彼の手が鈍く煌めく。


「じゃあ、これは売り物かな。……今回はいい稼ぎになったね、カイル」


小瓶を革袋へ仕舞いこもうとする、鈍色の指先を目に。

気付けば、言葉がこぼれていた。


「お前が、使うというのは?」

「え?」

「不便じゃ、ないのか。職人だろう。生身なら、きっと、もっといい仕事もできる」


自分の欲を、なんとか必死に繕った言葉が、滑り落ちていく。

いつの間にか育っていた欲の、あまりの深さに目眩がするようだった。


もちろん、建前だけではない。彼にもっといい暮らしをしてもらいたい気持ちは本物だ。

けれど、それ以上に、興味が抑えきれなかったのだ。

幼い頃に失ったという彼の手を、一目でいい、見てみたかった。


"彼"のかたちを、もっと、知りたかった。


――果たして。


一度は目を丸くした彼は、つまんだ小瓶をじっと見つめた。

確かめるように揺らし、生まれる輝きに目を細め。

少しの沈黙を挟んで、ゆっくりと、机へ置いた。


断られた。ほんのりと生まれた期待を裏切られたバツの悪さに、カイルはそっと視線を逸らす。

その耳に、懐かしむような声が届いた。


「……この腕は、先代が僕に作ってくれたものなんだよね」


この工房を譲ったという、彼の師のことだろう。始めて聞く話だった。

相槌のひとつを打つでもないカイルに構うことなく、彼は独り言ちるように言葉を続ける。


「もちろん、下町の子どもに支払えるような額じゃなかった。おいぼれの投資だなんて言ってたけど、タダで貰ったようなものでさ」

「……成功してんじゃねえか、投資」

「ああ、まさか本当に工房を継がされるとは思ってもみなかった」


苦笑を交え。

けれど、そのまなざしは暖かく工房を眺めていた。


「それでも、僕にとっては、すべての始まりだ」


まるで、懐かしい姿が、今でもそこに見えているかのように。


「何度もパーツは挿げ替えたし、成長に伴って改造もした。でも、機関部分は当時と同じまま。

 どうしたって劣化はするし、当時のままではいられないけれど」


それでも、と。


「初めてしわくちゃの手を握った、あの時のことは忘れない。――この先も、これが、僕の手だ」


そっと右手を押さえるように触れる指先は、優しい。

いくら型が古くとも、感覚がなくとも、吹き込まれた命は、今もまだ息づいている。


彼の生身の腕は、すらりと伸び、長身の彼によく似合うかたちに違いない。

それでも、彼にとっての本物は、まさしく、半生を共にしてきたあの義手なのだ。


――己のかたちは、己で決めて、いいのだ。


失われて久しいはずの指先に、じわりと熱が灯された感覚が消えない。

ようやく、終わりのない夢から覚めたような心地だった。


「……そうか。余計なことを、したな」

「ううん。気持ちだけありがたく、頂くよ」


どこかすっきりとした気持ちで、黒の水面が波打つマグカップを傾ける。

ほっとする苦みが、胸にくすぶっていた未練を洗い流すようだった。


彼の視線が、カウンターに置かれた義手へ落とされる。


「僕には……カイルがどうして義手を選んだかは、分からないけれど」

「……」

「気に入ってもらえたのなら、嬉しいよ。きみのために、一生懸命作ったものだから」


そう。

間違いなくこれは、己の為に作られた、唯一のかたちだ。

ならば、それを選びたい。今なら、偽りなくそう言えた。


どこか晴れやかな気持ちで、彼の視線を追いかける。


「それなら」


年季の入った窓から差し込む陽に、外された左腕が美しく煌めいていた。

丹念に磨き上げられた腕に刻まれた細かな傷は、まだそう大きく目立つものでもない。

だが、いつか。


「この腕もきっと、お前のそれと同じように、俺の誇りになる」


大きな傷がつき、ひしゃげて、パーツを交換することもあるだろう。

事によっては、コイツ以外の誰かに触れさせることもあるかもしれない。それでも。


「いつか……こいつこそが、俺の腕だと言わせてみせるさ」


それこそが、己の定めた、己のかたちだった。

カイルの言葉に、彼は嬉しそうに笑う。


「応援しているよ」


告げられた言葉が心からの言葉だと、疑う余地はない。

そう信じられるくらいには、彼のかたちを手に取れたと。そう、思えた。



やがて。

心地よい静寂のうちに、蒸気が吹き出す音がしゅわしゅわと響く中。


「でも、ひとつだけ、残念かも」


ふと、作業をしながら落とされた言葉に、視線だけを投げた。


「……何がだ」

「僕、きみの手、好きなんだよね」


何を言っているのだと、首をかしげる。

ずっと前から好きだと言い続けていた俺の義手は、今後もコイツが面倒を見ることに決まったではないか。


そんなカイルの疑問を察したのか、碧玉が細められた。

そっち、と指差され、つられてカップを持つ手に視線を落とす。――生身の腕に。


「大きくて厚い、剣を握る手だ。傷も多いけど、でも、きみの冒険の証だろう?」


生身のそれに、時間が刻まれないのは勿体ないな、と。

心底惜しむような声音が、どこか他人事のように響く。


惜しまれているのが自身のそれなのだと呑み込むのに、少しだけ時間を要した。

思わず無言で見つめ返したカイルの反応に、不安になったらしい彼が慌てたように言葉を続ける。


「いや、変な意味じゃなくてね。ほら、どんな冒険したのかなとか、想像しながら義手を作るから……」


その慌てっぷりが何だかおかしくて、思わず吐息と共に笑い声がこぼれた。


「そんなの、片方あれば十分だろう。好きな時に見ればいい」

「えっ、じゃあ明日時間ある?ちょっと付き合ってほしいんだけど」


思った以上の食いつきに、カイルは驚いてのけぞった。

きらきらと輝いている目を前に、悟る。これもまた、この一年で学んだことのひとつだ。


「……もしかして、また、試作の成型か?」

「分かってるう。昨日の古市で、また珍しいパーツ見つけちゃってさあ」

「買ったのか……」

「一期一会ってやつ」


ちゃっかりのほほんとした顔でのたまった機関狂いは、今月も懐が厳しいらしい。

財布の中身を思い出しつつ、明日の昼飯は奢ってやるかと苦笑を零す。


机の上の小瓶の煌めきが、ひどく眩しかった。




しばらくして。

A級の冒険者として名を上げるひとりの青年の名が、人々の口に上るようになる。

小柄な体躯に似つかわしくない大剣を軽々と扱う姿は、多くの人々の記憶に鮮やかに焼き付いていった。


その二つ名は、こう伝わる。

冒険者には珍しく使い込まれた、それでも一筋の曇りもない義手の輝きから。



――銀腕のカイルロッド、と。


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