世、妖(あやかし)おらず ー布置未箱(ふちみばこ)ー

銀満ノ錦平

布置未箱(ふちみばこ)


 今日も…


 今日も玄関に置かれている。


 段ボールの箱が二つ置かれている。


 下に大きいサイズの段ボールと、上に少し小さい段ボールがひっそりと人を待っていたかの様に…。


 それがこのアパート中の玄関全てに置かれていて、気味悪く感じた住民は皆引っ越ししてしまっている状況であり、管理人も困惑しつつも対処しようが無いらしく、気を病んでしまい近々辞めてしまうなんて話も聞いてしまった。


 それでも私はここを出るわけにはいかない…いや、できない。


 理由は金銭関係と、職場の距離の関係でどうしてもこのアパートから離れるのが困難で周囲も『我慢強い』だの『怖いもの無し』だのと言われたが、正直私だって離れるなら離れたいし、夜玄関からガサゴソ…っと聴こえるだけで精神が擦り減ってきてしまう程であるのにも関わらず…だ。


 それにしても皆は恐れて中身を見ることはなく、勿論私も中身を覗いたことすら、触ったこともない。


 だが…これには理由がある。


 この箱を試しに開けた人間が次々と行方不明や失踪したなんて噂まで流れてしまっていて、これは何とも言えず、否定も肯定も出来ない自分がいるが、理由として、結局は開ける人がいない為にそのまま正式に引っ越す人がいるにも関わらず、結局は居なくなる事実には変わらないので、結局は居なくなるという真実に様々な脚色が加わり…いつの間にか都市伝説並みの噂が立ってしまった…という訳だ。


 以前まで住居していた隣人も開けずのまま、引っ越してしまった為に私は結局何も分からずそのまま過ごすしかない選択を取っている。


 皆ノイローゼやストレスで日に日に狼狽して、顔色が悪くなるのを日々見ているのは耐えられなかったので、引っ越しして別の場所で元気にしてくれているならそれだけで安心するも、私の心情としては早くこの不気味な箱を早く誰でもいいから回収して貰いたいという気持ちでいっぱいであった。


 しかし…未だに誰もいない玄関に置かれている段ボールの中身が気になって仕方ない。


 そういえば、引っ越たというのは後日掲示板に貼られているお知らせにて知らせられる事が多かった為、事実引っ越し前の挨拶に携わった事がない事に違和感を今まで持っていなかった。


 兎も角、引っ越しをしてしまうものなんだ…という先入観に囚われてしまっていたんだと思う。


 人がどんどん離れていって、気が付けば私一人となった時に漸くこのアパートの本当の違和感に気が付き始めた…。


 だが…遅すぎた。


 今の生活基準を捨てるのは勿体無く、更に長期間ここに住む前提の生活設定を組んでいたのでお金がまだ貯まっていないせいもあり、この恐怖心と好奇心が渦巻いている精神を吐き出せる場所が無く、淡々と時間が解決してくれる事に望みを掛けるのが今の現状でしかなかった。


 外が暗くなる。


 日が沈む。


 相変わらず、箱は置かれたまま。


 雨が降っても


 雪が積もっても


 台風が通過していても…。


 何が起きても動じないし、誰も動かさず持っていかず…。


 私も動かそうとは思わない。


 不気味だし、触ると何か起きそうな気もするし…。


 管理人も触りたくないと言い、警察に通報するも…『それは管理人とお話して解決してくれたら…』と意味の分からない受け答えをされたりしてもうこちらも疲労困憊状態に陥りつつあり、気が付かなくとも自身にも限界を迎えていたのかもしれない…。


 等々…等々私は…理性を失いかけるほど、箱を睨み続ける行為を何時間も…それまた何時間も凝視し続ける日もあったほどだ。


 それでも、私は開けられない。


 周囲が開けなかったから…開くことを拒否しているなら…開ける訳にはいかない。


 もし開けて解決するならそれに越したことはない。


 ただ…それでも私は開けない。


 それが今1人だけだったとしても、集団の残り香が開ける事を拒否しているなら私も開ける訳にはいかない。


 拒否するしかない。


 開けたくない…。


 なら…誰がこれを取りに来るのか。


 誰も邪魔に思っていたし、それこそ早く撤退させて欲しいと皆が思っていた筈なのだ。


 気持ちに反旗すればいいのか…。


 それともこのまま無視すればいいのか…。


 私は…分からない。


 自分を信用すればいいのか?


 それとも今までの住人や管理人…その他の他人の様に無視をしとけばいいのか?


 どうすれば…私はどうすればいいんだ!


 …今もその段ボール箱は、留まり続けている。


 誰も触らず…


 誰も取り除こうともせず…


 ただ留まっている。


 私は好奇心に勝てるのだろうか。


 未だ恐怖心が勝っているからいいが…。


 もし開けて…私が消えたり、最悪開けて周辺に被害の遭う様な厄災が出現してしまったりしたら…きっと後悔の念を背負ってしまうかもしれない…。


 そんな事を考えながら、私はまだまだ箱を開けられそうにない。

 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 

 

 


 


 


 


 


 




 


 


 


 


 

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