第9話 少年王の誕生

戦争が回避されてから数日後

 城の大広間は、これまでで一番賑わっていた。


 民、貴族、兵士、職人――そして隣国バルモアの使節団。

 全員が、アストファル王国の“新しい時代”を見届けるために集まっている。


 俺は、いつもの自分とは違う服を着ていた。

 王族の礼服ではない。

 だが、王としての品格を意識した、シンプルな黒の装い。


 アリエルは、純白のドレス。

 彼女の髪には、王家のティアラが輝いている。


 そして、俺の胸には――


「――この国を、守る」


 その言葉だけが、静かに刻まれている。


宰相ハロルドが玉座の前に立つ。


「本日、アルトリア王国は新たな時代を迎える」


 静寂。


「女王アリエル殿は、アストファル王国の正当な君主である」


 アリエルは深く頭を下げる。


「そして――」


 ハロルドは、俺の方を見た。


「異世界より来たりし、レオ殿」


 民がざわめく。


「この国のために尽くし、女王陛下と婚約した。

 その覚悟と功績は、王国の象徴として相応しい」


 俺の胸が、少しだけ締め付けられた。


 アリエルは、俺の手を握る。


「……レオ」


「うん」


 俺は、彼女の目を見て頷いた。



王としての誓い


 ハロルドが王冠を持つ。


「レオ殿。あなたは、アストファル王国の民を守る覚悟がありますか」


「あります」


 俺は言い切った。


「この国の貧しさも、弱さも、すべて受け止めます」


「そして――」


 俺は、会場に向けて言った。


「私の力は、民のために使います」


 民が、静かに息を吸う。


「この国を、豊かにします」


 声が広がる。


「この国を、守ります」


 さらに声が広がる。


「この国を、誇れる国にします」


 会場が、熱気を帯びる。


 そして、ハロルドが王冠を俺の頭上に乗せた。


「……レオ殿、アストファル王国の王として認める」


 その瞬間、俺は“王”になった。


 しかし――。



真の王の責任


 俺の頭の中に、魔力が流れ込む。


 ただの魔力ではない。

 国の魔力。


 城壁、井戸、畑、街路、すべての魔力が、俺の意識に繋がる。


「……これは」


 宰相が、驚いた声を出す。


「王は、国の魔力を“受け継ぐ”のです」


 エリシアが言った。


「私の祖先も、そうでした」


 俺は静かに息を吐く。


「王は、国を守るために、国と一体になる」


 その言葉に、背筋が伸びる。


「――俺は、王として生きる」


 そして、アリエルに向き直る。


「これからも、隣で」


 彼女は、頷いた。


「はい。私も、あなたの隣で」



新しい時代の幕開け


 戴冠式は終わり、民は歓声を上げた。


 バルモアの使者も、静かに拍手する。


 だが、俺の胸には一つの決意があった。


「戦争を避けたのは、始まりに過ぎない」


 国の再建は、これからだ。


 アリエルがそっと言った。


「レオ。あなたは、王になりました」


「うん」


 俺は笑った。


「でも、俺は“王になる前の自分”を忘れない」


 アリエルが、微笑む。


「それが、あなたの強さです」


 その言葉に、俺は強く頷いた。


 ――異世界の少年が、

 小国の王となった。


 そして、彼の隣には――


 貧乏女王様が、

 笑っていた。


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盗まれた女王と、異世界から来た俺 @8963

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