第6話 奪還
夜の山岳地帯は、静まり返っていた。
切り立った岩肌、吹き荒れる風。
だが、俺の視界にははっきりと“痕跡”が見えている。
「……やっぱりな」
転移魔法の残滓が、山腹の洞窟へと収束していた。
俺は音もなく着地する。
結界。
かなり強力だ。
正面から破れば、女王に危険が及ぶ。
「なら――」
俺は目を閉じ、魔力を絞る。
「世界に干渉する」
「クローズドアイ」
結界の“構造”が、理解できた。
魔法というより、規則だ。
「規則なら、書き換えられる」
指を鳴らす。
結界は、音もなく消えた。
洞窟内は、たいまつの光で照らされている。
奥から、複数の気配。
「侵入者だ!」
剣が振るわれる。
だが――遅い。
俺は床を蹴り、残像だけを残して通り過ぎる。
剣が落ち、鎧が裂け、敵は気絶していく。
「……殺さない」
理由は一つ。
エリシアが、望まないからだ。
最奥。
祭壇のような場所に、彼女はいた。
鎖で拘束され、魔力封じの首輪。
「……レオ?」
声が、かすれている。
「迎えに来た」
それだけで、十分だった。
「……っ!」
彼女の瞳から、涙が溢れる。
だが次の瞬間。
「止まれ、異世界者」
重々しい声。
闇の中から、一人の男が現れた。
豪奢な外套。王族の紋章。
「バルモア第三王子、アッシュだ」
「やっぱり黒幕は王族か」
男は笑う。
「女王の血は“鍵”だ。お前の力もな」
「ふざけるな」
怒りが、魔力となって溢れる。
「彼女は、物じゃない」
「なら――奪ってみせろ」
男が魔法を放つ。
山が揺れるほどの攻撃。
俺は、一歩前に出た。
「無効化」
魔法は、霧散した。
「な……?」
「レベルが違う」
俺は静かに言った。
「俺は、彼女を守るためにいる」
瞬間。
空間が、折り畳まれた。
俺の一撃が、男の結界を貫く。
――気絶。
洞窟が、静まり返る。
俺はアリエルの元へ駆け寄り、鎖を外す。
「……怖かったか」
彼女は、首を横に振る。
「来てくれると……信じていました」
胸が、締め付けられた。
「……二度と、お前を離さない」
思わず、口から出た。
彼女は驚いた顔で俺を見て――微笑む。
「……はい」
俺は彼女を抱き上げ、洞窟を出る。
夜明けの光が、山を照らしていた。
――女王は、取り戻された。
だが同時に、
俺の立場も、もう後戻りできない場所へ進んだ。
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