第5話 女王誘拐

 城の地下牢は、冷え切っていた。


 松明の灯りに照らされ、鉄格子の向こうに男が縛られている。

 昼間の盗賊とは違う。動きも、目つきも、訓練されている。


「名を名乗れ」


 アリエルの声は、冷静だった。


 男は薄く笑う。


「ただの雇われだ」


「誰に?」


「……知らない方がいい」


 次の瞬間、男の首が、不自然に揺れた。


「っ!」


 俺は反射的に魔力を走らせたが――遅かった。


 男は口から黒い血を吐き、動かなくなる。


「自害用の毒……!」


 宰相が歯噛みする。


「やはり、背後に大国が……」


 そのとき。


 城全体が、揺れた。


 轟音。

 悲鳴。


「敵襲!」


 兵士の叫びが響く。


 俺は即座に判断する。


「これは陽動だ」


「え?」


「本命は――アリエルだ」


 振り返った瞬間、背筋が凍った。


 アリエルの足元、影が歪む。


「――っ!」


 黒い霧が床から噴き出し、数人の黒装束が現れた。


「女王陛下をいただく」


 瞬間移動系の魔法。


 俺は踏み込む。


「させるか!」


 雷を放つが、結界に弾かれる。


「レオ!」


 アリエルが叫ぶ。


「大丈夫だ!」


 叫び返した直後、

 彼女の身体が闇に包まれた。


「陛下ァァッ!」


 宰相の叫び。


 黒装束たちは、エリシアを抱えたまま消失した。


 静寂。


 床に残ったのは、冷たい風と――女王のティアラだけ。


 俺はそれを拾い上げる。


 ……怒りで、手が震えた。


「連中、俺を甘く見たな」


 宰相が青ざめた顔で言う。


「レオ殿……追撃は危険です」


「だからこそ行く」


 即答だった。


「俺が行かなきゃ、誰が行く」


 兵士が口を開く。


「しかし、王都の守りが……」


「守りは残せ」


 俺はティアラを握り締める。


「女王は、俺が取り戻す」


 その瞬間、

 魔力が城を震わせた。


「……本気で行くぞ」


 俺の視界に、魔力の流れが見えた。


 残留魔法。転移痕。


「北東、山岳地帯」


 俺は城壁に向かって歩き出す。


 宰相が、深く頭を下げた。


「……どうか、陛下を」


「必ず」


 城門を飛び越え、夜空へ。


 風を裂き、雷を纏う。


「アクセル・ウェーブ」


 ――待ってろ、エリシア。


 俺は、

 この世界に来て初めて。


 誰かのために、全力で戦う覚悟を決めた。

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