第4話今宵女王の夜
夜の城は、昼よりも静かだった。
松明の火が揺れ、古い石壁に影を落とす。
俺は中庭の井戸の縁に腰掛け、夜空を見上げていた。
星が多い。
日本では見られなかった数だ。
「……ここにいらしたのですね」
背後から、聞き覚えのある声。
振り向くと、アリエルがいた。
昼間の公的な衣装ではなく、簡素な白いドレス。女王というより、年相応の少女に見える。
「眠れなくて?」
「うん」
彼女は少しだけ微笑んで、俺の隣に座った。
「今日は……奇跡のような一日でした」
「奇跡なんかじゃない」
俺は即答した。
「できることを、やっただけだ」
アリエルは星を見上げる。
「それでも、民の顔が……久しぶりに明るかった」
声が、少し震えていた。
「私、王になってからずっと……正解が分からなかったんです」
彼女の指が、膝の上で強く組まれる。
「何を選んでも、誰かが苦しむ。
それなら、せめて……自分が犠牲になればと」
俺は黙って聞いていた。
「でも今日、あなたが言ってくれました」
彼女は俺を見る。
「『王が消えた国に、未来はない』と」
小さく息を吸う。
「……救われました」
胸が、少し痛んだ。
「アリエル」
名前を呼ぶ。
「君は、十分すぎるほど王だ」
「え……?」
「民を守ろうとする覚悟がある。誇りもある」
俺は言葉を選びながら続けた。
「だから――一人で抱えるな」
沈黙。
風が、二人の間を抜けていく。
「……怖いんです」
彼女が、初めて弱音を吐いた。
「もしあなたがいなくなったら、と考えると」
その言葉に、心臓が跳ねた。
「俺は、簡単にはいなくならない」
「約束……できますか?」
彼女は不安そうに俺を見る。
「約束する」
迷いはなかった。
「この国が落ち着くまで、俺はここにいる」
アリエルは、ゆっくりと息を吐いた。
「……ありがとうございます」
そのとき、城の鐘が鳴った。
不穏な音。
遠くから、兵士の足音が響く。
「陛下! レオ殿!」
伝令が駆け込んでくる。
「城外で不審な者を捕縛しました!」
俺とアリエルは顔を見合わせた。
「……早すぎるな」
「はい」
アリエルは立ち上がり、女王の顔に戻る。
「レオ」
「分かってる」
俺も立ち上がる。
「今度は、話を聞こう」
――敵が、姿を現した。
それは、嵐の前触れだった。
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