操り人形の魔女と終焉の旅を

林林<ばやしりん>

プロローグ 世界大戦の終焉篇

大陸にて

 やばい、ほんとにやばい。語彙力も無くなるレベル。


「それでへたれてどうする!甘えんな!!」

 

軍曹の声が森林中に響き渡った。


「またかよ」「いくら国のためでも、キツイよな。」「しょうがないよ、国の奴らは俺たちを顎で使うのが好きらしい、大人しく従うしかないんだよ。」


 畏怖、憤怒、疑問、納得、諦め。


 様々な反応が見て取れる。依然として震えているが、それは出征してからの日常であるから気にする必要はない。


 感覚が狂うと、感情がなくなるらしい。


 だが、なくなっていないということは、まだ少し自分の欲望があることであり、希望があることを意味する。


「鬼畜はまだ滅せていないぞ、進軍を止めるな。」


 大陸上陸作戦が実行され、私が地に足をつけて一ヶ月は過ぎただろうか。


 聖戦という名の政府の遊戯で次々と同期が天に召された。


 忘れられるか、忘れてやるものか。


 だが、だからと言って敵を殺そうとも思わない。


 というか、逆に殺したくないと思ってしまうのだ。


 敵も敵で、政府の命令で殺させられてるだけで本当は殺したくないはずなのだ。

 


***



「よし!今日はここで露営する!」


 軍曹の命令で、わっせわっせとテントを立て、露営の準備をした。


 お、湧き水湧いてんじゃんラッキー。


水が湧いている井戸みたいなところ?かと言っても水がずっと出続けていて、温泉のようなところに向かった



 あっちょっと待って。


 なんか、くらくらする。明らかにおかしい。今までに体験してきたことなのに。


 あ、私だめかも。


 急に体がふらふらして力が入らなくなってしまった。


「おい、梓大丈夫か?顔色が悪い。」


 それに気づいた大柄の男が声をかけてくれた。


 男女関係なく徴兵されて、軍として大陸に派遣されるようになった今年。


 私もその一味で孤児院にいた時には竹槍の練習をさせられた。


そして、13才になったその日にアリサカライフルを握った。


「うん、大丈夫だよ。ちょっと水分が足りてないだけ。」


 おっとおっと走馬灯…やばかったあ、助かった。声をかけてくれたことで意識を保てた。


「って、水筒空っぽじゃねぇか……しょうがねぇな、これでも飲め。」


 空っぽのカバンにつけた水筒を取ってくれたのに、申し訳ないがそれは空気しか含んでいなかった。


故に自分の水筒を——大事な水を分けてくれた。


「ありがと、いただくね。」


 ゴクゴグッ


 一滴一滴が私の喉を潤した。


もちろん水は喉を鳴らす。その音は体の疲労を癒してくれるようで、空腹が最高の調味料という言葉があるように、水分は疲労を癒してくれる薬剤なのだ。


 目にも潤いが持てたと思う、瞳孔がうまく定まらなかったさっきよりかは正気を保てる気がした。


 だが、すべて飲むのは流石に憚れるから、三割程度飲んだところでキャップを閉めた。


「よし、ちょっとは元気出たな。」 


 にっこりと笑って答えてかれた男。


 齢40を超えたくらいに見える中年男性というのが第一印象。


 地獄を経験した熟練ともすれば助け合いは必須なのは承知。


 やはりこの人にはいつも助けられる。


 なぜ昇格しないのだろうか。


「ええ、今日は水を汲みきれなくて、死ぬところでしたよ。」


 水は毎朝並んで湧き水を汲む。


 時間制限があり、早い者勝ちともすれば、水を汲めない人も出てくる。


 だが、暗黙の了解として全員が汲めるように、初めの人は10割、30人くらいからは7割程度ときめてあるのだ。


 湧き水がない日は川の水を煮沸消毒する必要があり、そうすると水の量がかなり限られる。


 まあここら辺は湧き水が行く先々に存在している。


 おかげで毎日水が汲めている。


「まったく、政府は何をしているんだろうな。こんな幼い女子までを戦地に向かわせ、勝利のために死ねと言う。死ぬのは俺らみてぇな歳を食っているものからでいい。」


 テントを広げながら話した、テントのシワは一つとしてなく、日々の錬磨が伺える。


 この人、身長が自分よりも20センチほど高いので、右斜め上へ顔を上げながら聞くしかないんだよねぇ。


「そんなそんな、国のために働くのは男女問わず本望なはずですよ。喜ぶしかないんです……」


 こんなところで弱音なんて吐いたら士気を下げてしまう。


 だから辛い、やめたい、泣きたいと本音を言えるわけない。


 だが、嘘をつくのが下手な私は視界を下にして、しかめっ面をしてしまった。


「そこまで追い詰められていたのか……いや、なんでもない。」


 小さな声で言ったから謝罪以外は聞こえなかった。


「まあ安心しろ、俺が命に変えてでも守ってやる、だから笑ってくれ、女はいつも笑っていてほしい、死んだ妻もいつも笑っていた……」


「ありがとうございます——」


 なになに何?なんか話重くない?ヘビー級じゃない?


 命を守ってくれるのはありがたい、だが死んだ妻の情報はちょい重た過ぎい。


「お嫁さんはいい人だったんですね、ずっと笑ってるなんて私にはできないですよ……まあ今は笑いますけどね」


 引き攣った笑みで答えた。 


 よしよし、話合わせと。


 ずっと笑うことなんてできない、悲しいことも嫌なこともすぐ顔に出てしまうなりなのだ。


 だが、今はこの男の人もいる。


 助けてくれた人の助言なんだから、辛くても苦笑いくらいするのは妥当だろう。


『ああそうだ、うちのカミさんはすごかったんだぞ』


と、そこから妻について熱弁して、泣いた。


 泣いたのに主語がないのはその両方が泣いたからだ。


 大の男が涙を何リットルもこぼして、泣いている姿は何度も見てきた。


 戦地を訪れると、被弾した男や、罪なき民衆も皆泣いている、誰彼関係ない。


 常に残虐と隣り合わせであるからこそ、そう言う体制にもなれるが、流石に知っている人

——守ってくれると言ってくれた人の話は泣いてしまう。


 どうやら、この人は大陸の人間らしい。


 こんなに流暢に言葉を話せるのは留学していたからだとか。


 その留学先で出会った女学生と結婚し、子供を二人いただいたようだ。


 結婚するには国籍を変えなきゃいけない掟があり、大陸の某国から私たちの住む日の本に変えたのだとか。


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2026年1月19日 05:00

操り人形の魔女と終焉の旅を 林林<ばやしりん> @hayashi_rin

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