第5話
葵さんは腰をゆっくりと前後に動かしはじめた。
決して乱れることのない、一定の呼吸と同調した動きだった。
僕の身体に合わせて力も速度も細かく調整されていて、その一挙手一投足からは「あなたを壊したくない」という強い意志が伝わってくる。
「身体の奥が“もう出していい”って言ってくれるまで、ずっとこのまま丁寧に動きますね。焦らないで、あなたの中にある命の流れが自然に生まれるまで……見守りますから」
彼女の言葉と身体のぬくもり。
そして柚月さんの鼠径部にしっかりと包まれた首――すべてが、僕の存在をやさしく包み込んでいた。
柚月さんは脚の絞め具合を少しだけ緩めて、また微調整してくれる。
そのたびに呼吸がしやすくなったり、少しだけ意識がとろけたりして、まるで命のゆらぎそのものを脚でコントロールされているような錯覚に陥った。
「ねぇ……感じますか? 今、私たちがあなたの命をちゃんと受け取っていること」
「うん……」
言葉にならない感覚が、口を突いて出た。
身体は熱を帯びていたけれど心は静かだった。揺れも迷いもなかった。
葵さんの身体が、僕の上で静かに動き続けていた。
その動きは、まるで波のようだった。
強く打ち寄せることはなくゆるやかに、呼吸と重なるリズムで、ただ優しく一定に。
僕の身体の深くに届くたび温もりと湿度を含んだ彼女の内側が、まるで“受け止めること”そのものを体現しているかのように、僕の感覚を包み込んでいく。
「はい……今、とてもいい流れです。私の中で自然に動こうとしてくれている……ちゃんと伝わってきますよ」
葵さんが僕の胸に両手を置いたまま、穏やかにそう言った。
その声はとても静かでどこか祈るような響きを持っていた。
まるで“命の受け渡し”という行為に、深い意味を与えているかのように。
「気持ちいいですか? 少しだけ圧を強めたり弱めたりして、あなたの感覚がどこに集中しているかちゃんと確認していますよ」
柚月さんの声が耳元で優しく響いた。
そのたびに脚の絞めが緩やかに変わる。
ほんのわずかに力を入れると僕の呼吸が浅くなり、頭がぼんやりとしてくる。
でもその直前で力が抜かれまたスッと楽になる――その繰り返しが、僕の意識を浮遊させるように導いていく。
「ちゃんと“託せる準備”を整えていってます。私たちはそのお手伝いをしてるだけなんです」
葵さんが腰の動きを少し深くした。
僕の奥へとじわりと進むその感覚。
何かが身体の底で静かに波打っていた。
それは快楽ではなく“安心”のかたちをしていた。
柚月さんの太ももが、首元をもう一段階深く絞めてくる。
その圧が、僕の意識を一点に集中させた。
全身の感覚が、葵さんとの接触部分に吸い寄せられるように集まりはじめる。
「もう少しです。身体の奥が“預けてもいい”って、今、言ってます。
私たちがちゃんと受け止めますから、怖がらなくていいですよ」
彼女の声に導かれて、僕の身体はさらに熱を帯びていった。
でもそれは激しさではなく、静かな炎のように内側から灯るものだった。
「次の一息で……はい、そのまま、深く……」
葵さんの腰が静かに沈み僕の全てを包み込んでいく。
柚月さんの脚が喉元を少し強く絞め、意識がぼんやりと光のなかに溶けていく――
「そのまま……とてもいい流れです。あなたの身体がとても自然に応えてくれてますよ」
葵さんは僕の顔を見下ろして、優しく微笑みながらそう言った。
まるで何年も前から僕の身体を知っていたかのように彼女は迷いなく、しかし決して急ぐことなく、少しずつ丁寧に進めてくれる。
その動きのひとつひとつが僕に安心を与えていた。
彼女の両手は僕の胸の上に添えられたまま、指先で呼吸のリズムを感じ取っている。ほんの少しずつ前後に動く腰の動きは過度な刺激にはならず、むしろ穏やかに心の奥を揺さぶる波のようだった。
「この動き……ちょうどいいテンポですね。もっと早くすることもできますが、あなたの身体は“静かに導かれること”を求めてるみたい」
彼女はまるでピアニストのようだった。音符ではなく僕の反応を見てリズムを奏でているような、そんな丁寧さと繊細さがあった。
「もう少し強めても大丈夫そうですね。息苦しさではなく、安心して身体を委ねられる感覚……今のあなたならちゃんと受け取れます」
ギュッ、と内腿の圧がわずかに強まった。
葵さんの声はもはや耳ではなく胸に直接響いてくるようだった。
そしてそのまま、彼女は僕の腰に向かって、またひとつ深く沈み込んできた。
「あなたの命の先端が、今……私の命の中心に触れてます。ここに預けてくれていいですよ。無理に出そうとしなくていい。ただ、流れに身を任せるだけでいいんです」
この世界の中で、自分のすべてをふたりに預けることが、今ではごく自然なことのように思えた。
僕の命の奥が、ゆっくりと――「託す準備」を整えはじめていた。
僕の身体は、今や完全に彼女たちに包まれていた。
下からは柚月さんの鼠径部が後頭部を優しく支え、太ももが左右から首を挟み込み、ふくらはぎが喉元にそっと寄り添っている。その絞めは決して強すぎずでも緩くもない。まるで僕の呼吸や鼓動のリズムを読み取ってぴったりと同調するような、繊細で完璧な力加減だった。
「首、いい状態ですね。少し絞めるだけで身体が自然とゆるむんです。頭に血が集まって、感覚が研ぎ澄まされてくる。だからこそこの“包まれる感覚”が、ちゃんと命の深いところに届いていくんです」
柚月さんの声が耳元で落ち着いた響きを持ってささやかれる。
後頭部に密着する彼女の鼠径部の温度はじんわりと肌を通して伝わり、首筋をなぞる内腿の柔らかさは、まるで繭のなかにいるような安心感をもたらしていた。
上からは葵さんの身体が僕の下腹部にぴったりと重なっていた。
ゆっくりとした動きは決して止まらない。焦らさず、でも決して急がず。彼女の内側が僕の中心を優しく、深く、繰り返し迎え入れてくれる。ぬくもりのある水に包まれるような滑らかな動きで、僕の感覚は次第に研ぎ澄まされ、身体の奥からなにか大きな流れが生まれてくるのを感じた。
「そのまま……とてもいいですよ。私の中であなたの命がちゃんと動いてる。焦らなくていいですからね。全部、自然に進んでいきますから」
葵さんの手が僕の胸の上に添えられている。
その手のひらから伝わる熱とリズムが、彼女が僕の反応を正確に感じ取っていることを教えてくれる。
「……もうすぐ、あなたの身体が“流れ”を生みはじめます。私の中にあなたの奥の奥から“命の雫”が訪れるタイミングです。だから今から少しだけ、動きを変えていきますね」
彼女の言葉は落ち着いていた。
けれどその言葉のひとつひとつが、僕の鼓動を深く揺さぶってくる。
彼女の腰が、わずかに角度を変えて沈み込んでくる。
下腹部の奥に僕の中心がすっぽりと吸い込まれるような感覚。
それと同時に内部がやさしく、でも確実に収縮して僕の命の源をゆっくりと迎え入れようとする動きへと変わっていく。
「感じますか……? 私の身体があなたの命の一番深いところを迎えに行ってるの」
葵さんの声が震えるほどのやさしさで耳に届く。
全身が温かく包まれていて、何もかもが静かに流れはじめていた。
後頭部では柚月さんの太ももがゆっくりと力を込めてくる。
首の両側を挟む圧がほんの少しずつ強まっていくのがわかる。
喉元に触れているふくらはぎのラインが、呼吸に合わせてほんのわずかに上下する。
僕の意識はどんどん狭まって、葵さんの動きと柚月さんの絞めにすべてが集中していく。
「少し苦しいくらいが身体が“限界”を意識するタイミングです。そのとき、精は身体の奥から自然に押し出されようとするんです」
柚月さんの脚がさらに締まり、デリケートゾーンの圧が後頭部を押さえつけてくる。
意識がぼんやりと遠のきはじめるが、怖くはなかった。
むしろ、葵さんの声がひときわはっきりと耳に届いてくる。
「ねぇ……わたしの中に、ちゃんと届いてますよ。すごく深く温かくて、あなたの命が、今……ここに流れようとしてる」
葵さんの動きが少しだけ強くなる。
そのたびに僕の中心がじんわりと疼く。
押されるでもなく吸われるでもない――けれど確かに「出さなければいけない」と本能が叫び始めていた。
「もうすぐですよ……。
何も考えずに、そのまま流れに任せてください……」
柚月さんの太ももがもう一段階締まり、僕の喉から声が漏れそうになる。
でもそれは苦しさではなかった。
“何かが高まり、頂点に届こうとしている”その予感だった。
葵さんの身体がゆっくりと、しかし確かな熱をもって僕の奥へと沈み込んでいく。
深く、静かに。まるで儀式の最後の扉を開くように――焦らず、でも確実に。
その動きには何の迷いもなかった。ただ僕という存在のすべてを受け入れるために、彼女の身体と心が一つになって優しく、でも絶対に逃さないという意志で僕を包み込んでいた。
「はい……もう、いいんですよ。ここにすべてを預けてください。出すんじゃなくて託すんです。あなたの命を、私たちが受け取ります」
葵さんの声が低く胸の奥に染み入るように響いた。
彼女の腰はすでに僕の中心を完全に包み込み、動きの一つひとつが波紋のように、僕の命の根元を揺らしていく。
「葵が奥をしっかりと締めてます……あなたが“戻れなくなる”感覚、わかりますか?」
背後からは柚月さんの静かな囁き。
彼女の太ももが、僕の首をきゅうっと一段強く絞めてくる。
柔らかいはずなのに、びっくりするほど意識が集中する。呼吸が浅くなり、目の前の光景がにじむ。
「この絞めが、あなたの本能を呼び起こすんです。もう逃げられないって。今ここで“放つしかない”って身体が理解する」
言葉と同時に柚月さんのふくらはぎが喉元を押さえるように固定してきた。
僕の意識は一気に収束しもう葵さんの身体以外、なにも感じられなかった。
そして葵さんの腰が深く揺れる。
その動きはこれまでよりもゆったりと、しかし確実に“引き出す”ことを目的としたものだった。
「もう……大丈夫。あと少し……その命、ちゃんと私の中に届きます」
彼女の膣内がきゅうっと蠕動するように締まり、僕の中心をやさしく吸い寄せていく。
やさしいだけじゃない。そこには確かな圧と律動があった。僕の“根”にまとわりつき螺旋を描くように、命の通路を一滴残らず導き出そうとする。
「全部、出して……あなたの奥にあるもの、私たちが全部受け取ります。ためらわなくていい。むしろ、抗わないで。これはあなたが生まれてきた意味だから」
葵さんの言葉が僕の胸に突き刺さった。
意識の奥で何かが崩れていく音がした。
柚月さんの腰が浮いて首4の字固めの最後の絞めが加わる。
「んっ…」
ギチチッ……と首が深く包まれ、ふっと息が止まりかける。
同時に全身の感覚がひとつの点に収束し、
まるで星が爆ぜるように――僕の身体の奥から、命の流れが解き放たれた。
「……っ!!!!!」
声にならない呻きが喉の奥で震え、背筋が跳ねた。
その瞬間、葵さんの身体がわずかに震え、彼女の内側がぎゅっと僕の放出を受け止めるように収縮した。
「はい……はい……ちゃんと、全部来てます。すごい……熱い、深い……ありがとう……」
彼女は目を閉じて両手で僕の胸を包み込みながら、命の奔流をその身で抱きとめていた。
柚月さんも絞めたまま、やさしく言葉を添える。
「はい、あなたはもう、ちゃんと果たしましたよ。私たちの中にあなたの命はしっかりと刻まれました。もう大丈夫です」
僕は深く息を吐いた。
柚月さんの脚がゆっくりと緩められ、首からふわりと温もりが解放されていく。
葵さんは僕の上にそっと伏せるように身体を預け、しばらく何も言わずただ僕の鼓動と自身の鼓動を重ね合わせていた。
静かな時間が流れていた。
そこには何の音も何の言葉もなかった。
ただ命が交わり確かに残されたという実感だけが、体の奥に温かく残っていた。
静まり返った室内のなかで、葵さんの身体がそっと僕の上から離れた。
柚月さんの太ももも、ゆっくりと僕の首からほどかれていく。
ようやく呼吸が楽になり、深く肺に空気を吸い込んだとき――僕の身体にはこれまでに感じたことのない静かな満足感と、深く温かな余韻が広がっていた。
それはただの肉体的な開放感ではなかった。
もっと根源的な“果たすべきものを果たした”という、生き物としての使命感のような、誇らしさにも似た感情だった。
葵さんは施術を終えた僕の胸にそっと手を置いたまま、柔らかな声で言った。
「……ありがとう。こんなに素直に丁寧に応じてくれたの、ほんとうに久しぶりなんです。あなたが協力してくれたおかげでこの施設にとっても大切な一歩になりました」
その言葉を聞いた瞬間、僕は思い出した。
ここでは男性が極端に少ない。
そしてそのうえ多くの男性は――女性と触れ合うことすら拒み、施設の提供する“医療受精行為”にも応じようとしないと、柚月さんが言っていた。
だからこそこうして自分の意思で協力を申し出たことは、施設の女性たちにとって大きな意味を持っていたのだろう。
「協力してくれる男性が、ほんとうに少ないんです…」
柚月さんも静かにそう言った。
「施術の内容がどうしても“身体的に密接すぎる”と感じてしまう方が多くて……怖がったり、拒否されたりすることも珍しくありません」
「でもあなたはちゃんと私たちの説明を受け入れて、ひとつひとつを理解しようとしてくれました。そういう方はほんとうに貴重なんです」
ふたりの言葉には感謝の気持ちと同時に、深い安堵の色が滲んでいた。
きっとこれまでにも何度も、期待して、断られて、失望して――それでも諦めずに接してきたのだろう。
そんなふたりの誠意に触れた僕は、自然と微笑みを返していた。
「僕でよかったら……これからも協力したいです」
そう言うと、ふたりは同時に目を細めてそっと笑った。
「ありがとうございます……それだけで私たちは救われます」
施術が終わったあとの室内には、看護スタッフの女性たちが数人入ってきてベッド脇で控えていた。
彼女たちも皆、驚くほど美しかった。
まるでどこかの映画のセットのような光景――それが、この“施設の日常”なのだということが、いまだ信じられなかった。
「本日分の施術は無事に終了しました。ご協力、心より感謝申し上げます」
ひとりの女性スタッフが、丁寧に頭を下げた。
そのあと案内されたのは――“男性専用の宿泊ルーム”。
案内された部屋に入った瞬間、思わず足を止めてしまった。
広々としたリビングに落ち着いた色調の家具、ソファはふかふかで窓からは手入れの行き届いた中庭が見える。
バスルームはジャグジー付きの広々とした空間で、洗面所には高級なスキンケア用品が並び、寝室にはキングサイズのベッドが悠々と鎮座していた。
「ここが今日からご利用いただける“スイートタイプの宿泊室”です。
飲食、洗濯、アメニティ類のすべては無料で提供されております。
またお身体のケアのためのマッサージや入浴補助も、ご希望があればいつでもスタッフが対応いたします」
聞けば施設に協力する男性は極めて希少な存在であるため、可能な限り快適な環境が提供されるとのことだった。
費用は一切かからず衣食住すべてが保証され、さらには日々の健康管理やストレスケアまでも専門スタッフが常駐して支えてくれるという。
「ここにいる限りあなたは守られています。どうかご自身の身体を大切にしてくださいね」
そう言って部屋を後にした女性スタッフの笑顔は、どこまでもあたたかかった。
僕はベッドの端に腰を下ろし改めて静かに息を吐いた。
この世界は僕がかつていた場所とは何もかもが違う。
けれど――違うからこそ僕の存在に意味が生まれていた。
「……ここに来て、よかったのかもしれないな」
そんな言葉が、自然と口をついて出た。
深く沈み込むような高級ベッドの弾力が、今日の出来事のすべてをやさしく受け止めてくれるようだった。
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