第1話 男性としての義務と権利
僕が目を覚ました場所はやはり病院ではなかった。
施設——それが正式な名称らしい。国家運営の「繁殖支援センター」。
その言葉を聞いたとき、どこかの小説の中に入り込んでしまったような気がした。でも目の前の景色はあまりにも現実的だった。
白を基調とした室内、柔らかい照明、無機質な冷たさとは無縁のどこか温もりすら感じる空間。そして何より、出会う女性すべてが……信じられないくらい美人だった。
廊下を通る看護師、窓の外で庭を歩く職員、遠くで資料整理をしている白衣の女性――みんな違う顔立ちなのに、揃って人間離れした美しさを持っている。まるで遺伝子の篩にかけられたかのように。
そんなことを考えているうちに部屋のドアが静かにノックされた。
「失礼します」
入ってきたのは二人の女性だった。
ひとりは栗色のふんわりとした髪にやわらかい笑みをたたえた女性。
もうひとりは艶のある黒髪を肩口で揃えた、ややクールな雰囲気の女性だった。二人とも白いセラピスト用の制服を着ていたが、そのフォルムはどこか官能的ですらあった。
彼女たち自身が制服を「着こなしている」と言ったほうが近い。
「私たちは、あなたの最初の“パートナーセラピスト”として配属されました」
栗髪の女性が優しく話しかけてくる。
名前は「柚月(ゆづき)」と名乗った。
穏やかで、どこか包み込むような声をしていた。
黒髪の女性は「葵(あおい)」と名乗った。
柚月とは対照的に凛とした立ち姿で一歩後ろに控えているが、時折僕を観察するような視線を投げかけてくる。
「まず最初は、軽くあなたの記憶の回復状況と意思確認のためのカウンセリングのを行います」
僕はうなずいた。けれどずっと胸の奥に引っかかっていた疑問がどうしても拭えなかった。——どうして、この施設には男性がいないのだろう。
「ひとつ…聞いてもいいですか?」
柚月が「もちろん」とにっこり微笑む。
「先ほどの女性のお話では…男性って、女性のことを嫌う傾向があるって聞いたんですけど……それは、本当なんですか?」
ふたりは一瞬だけ視線を交わし、先に口を開いたのは葵だった。
「はい、事実です。男性は長年の少子化政策、そして過度な保護対象として扱われ続けてきたことで、女性に対して不信感や恐怖を抱くようになってしまったのです」
「強制的な管理、誤解された医療行為、意思のない繁殖支援……過去にそうした問題があったことは否定できません」
柚月もそっと補足する。
「なので、今ではすべての提供行為は“本人の明確な同意と理解”をもって行われるよう法整備がされました。そして、私たちセラピストはその一助として、安心と信頼を築く役割を担っているのです」
その言葉になぜか胸の奥が温かくなった。
僕の意思を彼女たちは何より大切にしてくれている――そう感じた。
「……でも、僕は…」
言葉に詰まりながらも、僕は正直に告げた。
「僕は、正直…興味があります。どうしてその技術が選ばれたのか、どうして二人でやるのか、その行為のことも…詳しく知りたいんです」
ふたりの表情が一瞬だけ驚いたように変わった。
けれどすぐに柚月はうれしそうに微笑んで、ゆっくりと頷いた。
「そう言っていただけて、とてもうれしいです。では包み隠さず――私たちの“義務”としてすべて説明させていただきますね」
葵もまた静かに頷いて一歩前に出る。
「“首4の字膣固め”は医療的かつ科学的な見地から生まれた、最も受精効率の高い交配支援技術です」
「この続きはベッドの横にある専用の説明シートと実技用の図でご覧いただきながら、順を追って解説しますね」
そう言って柚月は端末を操作し、壁のモニターに何かの立体図を投影した。
そこには女性の両脚で男性の首を固定する構図と、もう一人の女性が密着する構図が――技術図として淡々と、しかし鮮明に映し出されていた。
柚月さんは、モニターの立体図を操作しながら、やわらかな声で説明を続けた。
「この行為は“医療受精行為”として、国家により正式に定義されています。目的は一つ。精子の質を最大限に引き出し、受精効率を上げることです」
「まずあなたの心拍数・呼吸・脳波を安定させるために、最初の女性が“首4の字固め”を施します。これはあなたの首を彼女の両脚で包み込むことで、副交感神経が優位になり、リラックスと興奮を同時に導きます」
葵さんが補足する。
「この体勢によって頭部は太ももに挟まれた状態で固定されます。人間の首には交感神経が集中していますので、そこを包むように固定することで、過度なストレスや興奮を抑える効果があるのです」
柚月さんが続けた。
「その状態でもう一人の女性が、あなたの陰茎を膣内に挿入します。あくまでも“受け入れ”です。性的な意味合いではなく、あくまで精子を安全かつ自然に排出させるための工程です」
「このとき膣内では自動的に軽い収縮が繰り返され、一定のリズムで刺激が与えられます。これは機械にはできない人間女性だけが持つ本能的な作用です」
「そして――」
葵さんは、わずかに目を伏せながらも、毅然とした声で言った。
「あなたが射精に至るまで私たちは責任を持って導きます。拒絶や無理強いは決してしません。でも……あなたの遺伝子を正しくこの世界に残すために、私たちは“全力”で行う義務があるのです」
ふたりの視線が真正面から僕に注がれた。
やわらかくも真剣な瞳。そのなかに込められたのは、職務としての使命と、それ以上の――何か。
僕の様子を見て柚月さんは椅子に深く腰かけなおし、まるで保健室の先生みたいな優しい口調で続けてくれた。
「もっとわかりやすく、お話ししますね」
「まずね私たちがやろうとしていることは、“あなたに気持ちよくなってもらって、その結果として精液を出してもらう”っていうことなんです。それをなるべく自然な形で優しく、安全に行うためのやり方が“首4の字膣固め”なんですよ」
彼女の言い方にはどこか恥ずかしさも混じっていたけど、それでも真剣だった。
「“首4の字固め”っていうのは、女性があなたの首のまわりに太ももを巻きつけて、ちょっとだけギュッとする体勢です。これってね人に包まれてるっていう安心感があるし、男性の脳って、その状態だと“気持ちがゆるんで身体が反応しやすくなる”っていう研究結果が出てるの」
「つまり…太ももで包まれてる状態だと、射精しやすくなるってこと?」
僕がぽつりと聞くと今度は葵さんが静かに頷いた。
「その通りです。男性の首ってちょうど神経や血管が集中している場所なので、優しく包むだけでも感覚が敏感になります。そして女性に“守られてる”“包まれてる”っていう感覚が強まるんです」
柚月さんが補足するように言った。
「それに目の前にいるのが女性で、首に太ももを巻かれてて……それだけでもドキドキしちゃうでしょ? そうやってあなたの身体が“自分から出したくなる”ような気持ちになるようにするのが、大事なんです」
僕はなんとなく状況が想像できてきた。仰向けに寝てその頭の後ろに女性が座るような形で脚を巻きつけられて……首が太ももに挟まれている状態。しかもそれが、目の前にいるこの美人のどちらか。
そんなことを考えたら思わず視線をそらしたくなるほど顔が熱くなった。でも彼女たちは笑わなかった。むしろそんな僕の様子を見て、もっとやさしくゆっくりと言葉を続けた。
「それでねもうひとりの女性があなたの上に乗ります。身体を合わせて、あなたの“元気になった部分”を、自分の中にゆっくり受け入れて……」
葵さんの口調は決していやらしくはなかった。ただ静かに、真面目に、淡々と。でもその内容は確実に僕の心を揺らすものだった。
「膣の中って適度な温度と湿度があって、しかも柔らかくて……自然と男性が“出したくなる”環境なんです。だから特別な道具を使うよりも、私たち女性の身体で受け止めた方が、より効率的なんです」
柚月さんが小さくうなずいた。
「それにただ射精してもらうだけじゃなくて……“気持ちよくて、また出したくなる”っていう記憶が残るようにしてあげたいんです。そうすればあなたもこの世界でちゃんと安心して過ごせるようになるし、私たちも嬉しいから」
その言葉に僕は少しだけ肩の力が抜けた。
ちゃんと僕に届くように目を見て話してくれた。それがうれしかった。
「……わかってきました。」
そう言うと柚月さんはふふっと笑い、葵さんも少しだけ表情を和らげた。
「では、次は……体勢のこと、具体的にお話ししましょうか。図を見ながら、“どうやって始めるか”をイメージしやすくなるように説明しますね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます