番外編「宰相ガロンの苦悩と発見」
宰相ガロンは、有能な黒豹の獣人である。
王の補佐役として、常に冷静沈着、合理的判断を下すことを信条としてきた。
しかし最近、彼の悩みは尽きない。
「……陛下、また会議中に寝ておられたな」
執務室で書類を整理しながら、ガロンは独り言を漏らした。
以前のような、殺気立った不眠による居眠りではない。幸せそうな顔で、完全にリラックスしての「うたた寝」だ。
しかも、王の鬣からは常にフローラルな良い匂いが漂っており、会議室全体がアロマテラピーの会場のようになってしまう。これでは他の臣下たちの戦意も喪失するというものだ。
「まったく、あの人間……ハルト様の影響力は計り知れん」
ガロンは首を振った。
最初は人間風情が王を誑かしていると警戒していたが、今では認めざるを得ない。王の精神状態はかつてないほど安定し、暴政もなりを潜め、国は平和そのものだ。
コンコン、とドアがノックされた。
「ガロンさん、お疲れ様です」
入ってきたのは、噂の王妃、晴人だった。手には小さな瓶を持っている。
「ハルト様。何か御用でしょうか」
「これ、試作品なんですけど。黒豹族の毛質に合わせたツヤ出しオイルを作ってみたんです。よかったら使ってみてください」
晴人は屈託のない笑顔で瓶を差し出した。
ガロンは眉をひそめた。
「私はそのような軟弱なものは……」
「あ、でも最近、尻尾の毛先が少し傷んでますよね? 気になってたんです」
図星だった。ガロンは密かに、ストレスによる毛割れに悩んでいたのだ。
「……む」
「ブラッシングもしましょうか? 今なら特別無料体験実施中です」
晴人は楽しそうだ。
ガロンは周囲を見回し、誰もいないことを確認してから、小さく咳払いをした。
「……では、少しだけ。あくまで、品質の確認としてだ」
数分後。
執務室からは、黒豹の低いゴロゴロという喉鳴らしの音が漏れ聞こえていたという。
宰相もまた、ゴッドハンドの陥落者リストに名を連ねることになったのだった。
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