第13話「モフモフ・ハッピーライフ」

 それから数ヶ月後。

 王城の一角に、新しい施設がオープンした。

 看板には『王立リラクゼーションサロン・陽だまり』と書かれている。

「次の方、どうぞー」

 白衣(トリマー用エプロン)を着た晴人が声をかけると、順番待ちをしていた虎の獣人騎士が、緊張した面持ちで入ってきた。

「よ、よろしくお願いします、王妃様……」

「ここでは『店長』でいいですよ。はい、今日は肩の凝りがひどいですね」

 晴人は慣れた手つきで虎の騎士をマッサージし、ブラッシングを施していく。

 最初は王妃に触れられることを恐縮していた獣人たちも、その極上の技術の噂を聞きつけ、今では予約数ヶ月待ちの大盛況となっていた。

 晴人は「王妃」としてただ座っているだけではなく、自分の特技を生かして国に貢献したいと願い出たのだ。レグルスは最初は渋ったが、「俺が一番優先であること」を条件に許可を出した。

「……ハルト、そろそろ休憩にしろ」

 執務を終えたレグルスが、サロンに入ってきた。

「あ、レグルス様。もう少しで終わりますから」

「む……」

 レグルスは不満げに鼻を鳴らし、施術台の横にドカと座り込んだ。

 虎の騎士は生きた心地がしないだろう。王に見守られながらのマッサージなど、拷問に近い。

 施術が終わり、騎士が逃げるように去っていくと、レグルスは即座に晴人を抱き寄せた。

「俺の分が足りない」

「毎日夜にあんなにしてるのに?」

「足りん。一生分を前借りしたいくらいだ」

 レグルスは晴人の首筋に顔を埋め、深呼吸をした。

「お前が他のオスに触れるのは面白くないが……まあ、国民の毛並みが良くなれば、国の品位も上がる。許してやろう」

「ふふ、ありがとうございます」

 晴人はレグルスの頭を撫でた。

 人間の世界から召喚され、食べられる恐怖に震えていたあの日々が嘘のようだ。

 今は、この大きなライオンと、たくさんのモフモフたちに囲まれて、毎日が忙しくも充実している。

「愛してるよ、レグルス」

「ああ、俺もだ。我が愛しき番」

 レグルスは晴人に優しいキスを落とした。

 窓の外からは、二つの太陽が温かい光を注いでいる。

 異世界でトリマーとして、そして王妃として生きる晴人の毎日は、これからも温かく、そしてモフモフとした幸せに包まれていくだろう。

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