第11話「魂を繋ぐ噛み痕」

 抱擁が深まるにつれ、晴人の体に再びあの熱が戻ってきた。

 医者から投与された抑制剤の効果が切れかかっているのだ。いや、レグルスという「番」となるべき相手を前にして、本能が薬の力をねじ伏せたのかもしれない。

「ん……っ」

 晴人の口から、甘い吐息が漏れた。

 レグルスの腕に力が入る。

「ハルト。お前の匂いが、また濃くなっている」

 レグルスの声は熱を帯び、耳元で囁かれるだけで腰が砕けそうになる。

「レグルス様、私……」

「俺も限界だ。これ以上、理性を保つ自信がない」

 レグルスは晴人をベッドへと押し倒した。瓦礫に埋もれていたベッドだが、その上のマットレスだけは無事だった。

 月明かりが、二人の姿を照らし出す。

 レグルスの瞳孔は細まり、完全に「オス」の目になっている。だが、そこにあるのは暴力的な衝動ではなく、深い愛情と執着だった。

「お前を俺のものにしたい。魂の髄まで、俺だけのものだと刻み込みたい」

「……はい。私も、あなたのものになりたいです」

 晴人の同意の言葉は、最後の引き金となった。

 レグルスの唇が晴人の唇を塞ぐ。

 それは捕食のようなキスだった。舌が絡み合い、唾液を交換し合う。

 晴人の服が次々と剥ぎ取られ、素肌が夜気に晒される。しかしすぐに、レグルスの熱い体温が覆いかぶさってくる。

「愛している、ハルト」

 獣人の王が、愛玩動物である人間に愛を囁く。それは世界の常識を覆す行為だが、今の二人には関係なかった。

 快感の波が押し寄せる中、レグルスの顔が晴人の首筋へと近づいた。

 オメガの急所。そこに「マーキング」を施すことで、二人は永遠の番(つがい)となる。

「痛いかもしれん。だが、絶対に離さん」

「いいですよ。全部、あなたにあげます」

 晴人はレグルスの頭を抱きしめ、首を晒した。

 ザクリ。

 鋭い犬歯が、柔らかな皮膚を貫く。

 鮮烈な痛みが走ったが、それは一瞬で、頭が真っ白になるほどの快感へと変わった。

 レグルスの魔力が、傷口から体内へと流れ込んでくる。熱く、重く、そして温かい光の奔流。

「あ、あああっ……!」

 晴人は背中を反らせ、声にならない叫びを上げた。

 魂が溶け合い、一つの形になっていく感覚。

 レグルスのフェロモンと晴人のフェロモンが完全に混じり合い、部屋中を至高の香りで満たしていった。

 それは、新しい王の伴侶が誕生した瞬間だった。

 レグルスは傷口を丁寧に舐め取り、満足げに喉を鳴らした。

 その瞳は、獲物を確保した満足感と、伴侶を得た喜びに満ちて輝いていた。

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