非常食
「あはははは! 人間も馬鹿だな! 妖刀を食ったら体を壊すなんて当たり前だろ!」
妖刀が半身を無くした状態で笑う。
よくそれで人のことを馬鹿にできるなと思っていたら、刀身がニョキニョキと生え始めた。
「ぐっ」
腹がギュルギュルと音を鳴らす。
変なものを食べすぎて、とうとう腹を壊してしまったらしい。
それは自動で回復するが、またすぐに腹を壊してしまう。
それを繰り返し、カロリーの底が見え始めた。
「おいおい、そんな目で見ても俺は悪くないぞ? お前が勝手に——え、おい。何食おうとして——ギャァアアア!!」
カロリーが足りないなら補充すればいい。
ちょうど都合良く勝手に生える
「あれが新しいヌシ様だって!?」
「俺らはあんなものに刃向かったのか……」
「もう終わりだ……」
遠くから声が聞こえるけど無視だ。
今はカロリー補充の方が大事。
ガリガリと妖刀を食べる。
「に、人間! もうやめてくれ、言うこと聞くから!」
妖刀がうるさい。
腹の中で竜巻が暴れているんだ。
それが治るまで待ってくれ。
「これが、ヌシ様——圧倒的だ。かっこいい」
隣でヤナギが言う。
どこに格好いい要素あった?
妖刀に飲み込まれて頭おかしくなったんじゃないのか?
「お、腹も治ってきた」
暴れ回っていた腹が治りを見せ始めた。
妖刀を食べる手が止まる。
「よ、良かった……治ったなら俺を食わなくても良いよな? な?」
妖刀が怯えたように言う。
俺は少し考える。
妖刀は持ち主を宿主とか言って操ろうとする危険な刀だ。
だけど、めちゃくちゃ美味い。
高いチーズのように熟成され、年を重ねた美味さがある。
これまで怪異でこんな奴はいなかった。
「そうだな、非常食として持っておこう」
「へ、非常食? な、何を言ってんだ」
妖刀は話が違うとばかりに反抗する。
「お前、すごく都合がいいんだよ。食っても食っても生えてきて、戦ってる時に食えたらちょうどいいだろ?」
「俺、戦う道具じゃなくて食料として見られてるの?」
「そりゃあそうだ」
怪異に人権なんてものはない。
特にこいつは危険な奴だ。
生かされているだけ感謝して欲しい。
「そ、そんなぁ……」
妖刀は嘆き悲しんだ。
その姿を見守っていた鬼たちが少しずつ近づいてくる。
ツバキとアズサは刀を抜き、それを警戒する。だが、そんなことはする必要がないと思う。
だって、鬼たちの目から戦闘の意思は見られないのだから。
「そ、その、あなた様をヌシ様と認めます。だから、食べないでください……!」
鬼たちは一同に頭を下げる。
その姿は怯えているように見えた。
俺が妖刀を食べる姿を見たからだろうか。
これで鬼たちが従ってくれるなら、妖刀を食って領域を回るのが一番効率良いのでは?
それはさておき、鬼たちの今後の扱いを考える。
袴姿の鬼たちは反乱を起こした。
これは大罪だ。
俺側に着いて戦ってくれた鬼たちを傷つけ、幸いにも死者が出る前に駆けつけたけど恨みは生まれたことだろう。
罰を軽くすれば次は俺側の鬼が反乱を起こしてしまう。
かと言って皆殺しにすれば戦力が減る。
鬼たちの数は少ない。
老人や子供を守るためにも、戦える鬼は必要だ。全数を把握している訳ではないけど、百人も殺せば穴が生まれることは分かる。
重すぎず、軽すぎない良い塩梅の罰。
よし、決めた。
「お前たち、これから罰として食料係な」
「え、ヌシ様に食べられる係ですか?」
隣でツバキがとんでもない発言をする。
袴姿の鬼たちは震え、兄のアズサはツバキをドン引きの目で見ている。
「違う違う。ツバキたちがこれまでやってくれていた食料探しのこと。これだけ人数がいれば交代制にできるし、大規模な狩りもできるだろ。それで得た怪異をみんなに配るんだ。全体の戦力アップにも繋がるし」
「なるほど」
ツバキは納得したように頷く。
最初に会った時からそうだけど、思考が極端すぎる。殺すか食べるか自殺するかしか選択肢がない気がする。
「お前たち、それで良いか?」
「その程度でいいのなら……」
袴姿の鬼たちは逆に罰が軽すぎるという顔をしていた。うーん、これ以上に良い案が思いつかない。
ツバキの言っていたのが一番罰として適していたのではないかと思ってしまう。
鎧姿の鬼たちも何も言わない。
俺に全て任せるという態度だ。
「そうだな……じゃあ直接俺に刃向かったヤナギと赤鬼兄弟だったか? その三人は俺と同じくらい怪異を食え」
「それは罰というより褒美では?」
ヤナギが俺に聞く。
赤鬼兄弟も納得してない様子だ。
「ヌシ様の言うことを聞きなさい! お前たちの意見なんて聞いてないの!」
ツバキがヤナギの頭に蹴りを入れる。
突然のことで、ヤナギはモロに蹴りを食らった。ゴンという音が鳴る。
俺は慌ててツバキを止める。
「ツバキ、落ち着け。ヤナギ、赤鬼兄弟、これはある種の実験だ。俺と同じように怪異を食ったらどう体が変わるのか。お前たちを使って確かめる。いいな?」
「「分かりました」」
ヤナギからの返事はない。
どうやらツバキの蹴りで気を失ったようだ。
後で聞いてみると、この反乱はヤナギたちの集団が事前に告知して起きたらしい。
ヌシに仕える鬼対ヌシに不満がある鬼。
それは反乱というより、決闘という形で行われ、力がある方が偉い鬼社会で育った鎧姿の鬼たちも反乱にはそれほど怒ってないようだ。
良かった。
平和が一番だ。
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