妖刀の美味しそうな匂い

「はぁあああ!!!」


 気合いのこもった一撃を刀で受ける。

 その瞬間、顔が近づく。

 美しいタイプのイケメンだ。


「ふんッ」


 受けた刀を力任せに弾き返す。

 ギィーンと刀が震える。


「なんという馬鹿力! 鬼にも勝る力を持つ人間がいるとは、おもしろい!」


 また、イケメンの鬼が走る。

 今度はその左右に鬼が付く。


「「我ら赤鬼兄弟、推して参る!」」


 息の揃った斬撃に挟まれ、仕方なく腕で受ける。少しずつ、肉の壁が削れていく。


「「頑丈だが、所詮人間。削り切る!」」


 二体の鬼は刀を乱暴に振る。

 めちゃくちゃな刀筋は俺の体を傷つけ——腹を空かせた。


「ああ、くそ。腹が減ってきた」


 戦いが長引き、蓄えていたカロリーが消え始める。


「「傷が癒えて——がっ!」」


 自動的に治り始めた腕を両方の鬼に打ち付ける。向こうから当たってくれた。

 クリーンヒットだ。


「なあ、纏めてかかってこいよ。そろそろ限界なんだ。腹が減った俺は何をするか分からないぞ」


 手招きをして煽る。

 力を証明するというなら、全員を一度に相手した方がいい。

 ばらけて相手するよりはカロリー消費が少ないはずだ。今は腹六分。

 燃費が悪すぎるとため息を吐く。


「馬鹿にしやがって」


「赤鬼兄弟に勝っただけで調子に乗るなよ!」


「俺たちは百人いるんだぞ。それを纏めて相手にする? できる訳ないだろ!」


 鬼たちが口々に言う。

 彼らの興味は既に鎧姿の鬼たちにはないようだ。今のうちに彼らの手当てや安全な場所への移動を指示する。


 その間、イケメンの鬼は目を閉じていた。

 刀を構えたまま俺の真正面に立っている。


 ——匂いが強くなる。

 美味そうな匂いだ。

 その発生源はあの妖刀。

 もしかして、この感じは怪異か?

 妖刀ってのは刀の形をした怪異だったのか。


「ぐ、ぅぅうう」


 イケメンの鬼が苦しみ始める。

 妖刀が震え、少しずつ邪気のような物が溢れ出す。


「あれ、やばくない?」


「めちゃくちゃやばいです。妖刀に飲み込まれ始めています」


 俺の問いにツバキは戦闘態勢で答える。

 アズサもそれを見て腰を落とした。


「力が、溢れてくる! この力さえあればヌシなんていらない!」


 妖刀がオーラを爆発させ、鬼諸共怪しい色に包まれる。そのオーラは他を寄せ付けない圧倒的な存在感を放っていた。


「ダメです。妖刀に飲み込まれました!」


 ツバキが言ったと同時に、イケメンの鬼が地面を蹴る。俺はそれを見失ってしまった。


「どこを見ている!」


 鬼が刀を振る瞬間——それを視界の左端で捉えた。


「あっぶな!」


 刀を体と鬼との間に置く。

 何とかそれで攻撃は逸れた。


「お前には私が見えないだろう。ふふふ、これが鬼に伝わる妖刀——邪気丸の力だ!」


 また姿が消え、攻撃をする瞬間だけ現れる。

 声もどこか遠くから聞こえている。


「ツバキ! 邪気丸ってのは弱点とか無いのか!」


「ありません! 邪気丸は前ヌシ様が使用していた刀の一つ。幻術の刀とも言われています!」


 幻術か。

 確かに幻のように消えては現れている。

 その姿を掴むことはできない。


 同じような怪異が屋敷にもいた。

 実体がなく、煙として生きているような怪異だ。目に頼っていては倒せなかった。

 だから、俺は——


「ヌシ様、なぜ武器を!?」


 ——武器を捨てる。


 目に頼っていては、勝つことができない。

 それなら、鼻に頼るしかない。


 刀を地面に落とし、全身で感じる。

 匂いで探す。

 あの妖刀は特段、美味そうな匂いを発していた。幻術で姿を消しても匂いは消せないようだ。

 微かだが、妖刀の匂いを感じる。


 匂いは左から大回りして、背後に回る。

 そして、俺に向かって真っ直ぐ走っている。


「人間、覚悟——」


「よし、確保」


 影で鬼と妖刀を包む。

 影は屋敷で自由に動かすことができるようになった。それが最近便利だと気づいて、背後に回った敵には不意打ちでよく使っている。


「な、邪気丸が負けただと!?」


「俺たち全員でかかれば倒せるって。諦めるな!」


「そ、そうだな」


「何馬鹿なこと言ってんだ。邪気丸があいつの手にあるんだぞ。俺たちに勝てると思うか?」


「そんなこと言ったって、勝たないと俺らに未来はないんだぞ!」


 袴姿の鬼たちが言い合いを始める。

 もう少し時間が掛かりそうだから俺は自分の作業に入る。

 腹が減ってしまったんだ。


「お前、名前は?」


「くぅ、ヤナギだ……私に何をするつもりだ!」


「いや、用があるのはそっちの刀。それを寄越せ」


 ヤナギは何を勘違いしているんだ。

 俺は妖刀が欲しかっただけだ。


「な、それはできない! 邪気丸はヌシ様の武器。人間になど渡せるか!!」


「俺がそのヌシなんだって。ほら、勝手にもらうぞ」


 影の中から妖刀を取り出す。

 ヤナギにはもう抵抗はできない。

 体を酷使したのか、少し動くだけでも大変そうだ。


「あん? お前さんが次の宿主か。人間は不味いから嫌なんだけどな」


「何を勘違いしているんだ。食うのは俺だ」


 妖刀の刃を噛み切る。

 予想通り上品な味わいがした。

 年の重ねを想像できる味だ。


「ひぃ! あの人間、妖刀を食ったぞ!」


「俺らも食われるんじゃないか!?」


「あんな化け物に勝てる訳ないだろ! 早く降参しよう!」


 鬼たちも意見が纏まったようだ。


 これで一件落着といきたいが——体に異変が生じ始めた。

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