妹の尋問

「それで、兄さんは何をしたの?」


「信じてくれ、葵。俺は泣かせるつもりはなかったんだ」


 せっせと四人分作ったカレーを、尋問されながら食べる。

 こんなつもりじゃなかった。

 もっと楽しく、葵の普段の学校生活を聞く予定だったのに……!


「それなら、なんで二人を部屋に呼び出したの? ツバキちゃんは何も教えてくれないし。何か脅したんじゃないの」


 ツバキは気まずそうに答える。


「そんな訳ないよ、葵。お兄さんとは世間話しただけだって」


 嘘だ。

 思いっきり脅した。

 今になって後悔する。


「ふーん、じゃあカレンちゃんはなんで泣かせたの?」


「せ、世間話に私が感動してしまって。蓮さんは悪くないですよ?」


 花蓮が俺を擁護する。

 しかし、怪しくて仕方ない。

 花蓮が泣く世間話って何だよ。


「あ、そう。私には言えないんだ。ふーん。なんか二人とも知り合いだったみたいだし? 私に秘密があってもおかしくないよね」


 葵は拗ねたように言う。

 仲間はずれ感があるのだろう。

 だからと言って、本当のことを伝える訳にはいかないので困ったものだ。


「そうだ——ほら、ケーキ作ったんだ。みんなで一緒に食べような」


 冷蔵庫からケーキを持って来る。

 それに対して、葵以外の二人は歓声を上げた。

 肝心の葵はだんまりだけど。


「私がケーキに釣られるとでも?」


 まだ不機嫌そうにしている。

 今日は許してくれそうにない。


「いらないのか?」


「いる」


 俺に対しての怒りはともかく、ケーキは食べるそうだ。


 #


「よし、みんなで恋バナしよう!」


 蓮がいない三人の部屋で、葵が話題を切り出した。


「恋バナ? 葵が恋してるの?」


「なんでそうなるの!」


「だって、恋バナって話題を出した人が恋をして、それを話したいからするものじゃないの?」


「何その偏見」


 葵がジト目でツバキを見る。


「え、違うの?」


「違うよ! 私が恋バナをしたいのはね、二人と兄さんの関係を聞きたいからだよ!」


「「…………」」


「何その沈黙!やっぱり何か隠してるでしょ!!」


 葵は二人に枕を投げる。


「隠してないよ」


「隠してません」


「うわー! 絶対隠してるやつじゃん!」


 葵の言葉に二人は何も言えなかった。

 実際、めちゃくちゃ隠してるから。


「もういいや、詳しい事情を言わなくていいから二人が兄さんのことを好きかだけ教えて!」


 多少の譲歩があったとは思えないど直球な質問である。


「好きだなんて、そんな。恐れ多いよ……」


「その言い方、怪しいなー。本当は好きなんでしょう?」


「そ、そういう訳じゃなくて……」


 ふーん、と葵は言ってターゲットを花蓮に変えた。


「カレンちゃんはどうなの? 好きなの!?」


「別に好きな訳じゃなくて……この人なら信じていいかもと思ってるくらいで……」


 もじもじと花蓮にしては珍しくはっきりしない態度を取る。


「なにその大人なセリフ。恋してるじゃん」


 葵はため息を吐く。


「別にね、私は二人が兄さんと付き合うのは反対してないよ? どこの馬の骨か知らない人よりはマシだから」


「馬の骨……」


 葵は兄への気持ちを語る。


「兄さんはね、私を小さい頃から一人で育ててくれたの。自分は我慢して、私にできるだけ他の子と同じようにさせてあげようって。だから、これからは兄さんも人並みに幸せになってほしい」


「葵……」


 葵の声に唯一花蓮だけは反応しなかった。

 蓮が悪い方向に行っているのを知っているから。そして、自分がそれに頼ろうとしているからである。


「カレンちゃんもツバキちゃんも、兄さんの恋人としてギリギリ認めていいかもって思ってるの。だから、素直に自分の気持ちを言っていいんだよ」


「ギリギリなんだ」


「そりゃあギリギリだよ。本当は恋人なんて作らず、私と二人で暮らしてほしいんだ。だけど、それが兄さんのためにならないと分かってる。その妥協点が、私が認める人と恋人になることなんだ」


 この兄妹は似ていると二人は思った。

 ツバキには何のために妹に近づいたと脅し、花蓮には妹を護衛するよう頼んだ。そのお礼に命を賭けるほどの筋金入りだ。


 そして、二人は気づく。


 ——こいつら、シスコンブラコン兄妹だ。

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