誓い
「「お邪魔しました」」
二人はそう言って家を出て、葵も見送りをすると着いて行った。
家が急に静かになる。
普段通りのはずなのに、少し寂しい。
昨日は賑やかだった。
楽しくゲームをしたり、ご飯を食べたりした。
「はあ……」
一人になると嫌なことばかり考える。
玄関が開く音がする。
葵が帰ってきたようだ。
「あれ、早かった——花蓮ちゃん?」
リビングに現れたのは、予想とは違う人物だった。
「昨日の返事、ちゃんとしてなかったですよね」
「ああ、そのために帰ってきたんですか」
何と律儀な子だろうか。
昨日の件である程度は分かっているのに。
「はい、二人には忘れ物をしたと言って来ました。こういうのはしっかりする必要があると思うので——私、志喜屋花蓮は糸瀬葵の護衛の依頼を受けます。そして、その報酬として糸瀬蓮の協力を要求します」
いつもの仕事での花蓮だ。
生真面目で抜け目がない。
どこか距離を掴めない存在。
それが今、俺に手を差し出している。
「糸瀬蓮は志喜屋花蓮を次期当主にするため、全力を尽くします。……これでいいですか?」
花蓮の手を掴み、同じように誓う。
合っているかは怪しい。
「別に蓮さんはしなくていいのに……」
花蓮は少し笑う。
やはり何かを間違えたのだろうか。
「いいじゃないですか。花蓮ちゃんの真似をしたかったんです」
「敬語なのにちゃん付けって違和感がありますね」
別に責めてる訳じゃないですけど、と花蓮は付け加える。
「ああ、葵がそう呼んでるから俺もその癖がついてしまって。花蓮様とかの方が良かったですか?」
「そっちの方が嫌です。花蓮ちゃんでお願いします」
眉をひそめる。
そんなに嫌なのか。
当主とかって様付けされる立場だろ。
まあ、そういうのは個人の自由か。
「了解です。そろそろ戻った方がいいのでは?」
「そうですね、葵の護衛もありますし……あ、別に今も護衛をサボってる訳じゃないですよ? 式神が見張ってるので余程のことがない限り大丈夫です」
「別に疑ってないですよ」
「護衛をサボってると思われては、次期当主への道が険しくなるので」
そう言って意地悪に笑う。
俺が手を抜くと思っているのか。
「そういうことですか。まあ、大丈夫ですよ。葵の友達ってだけである程度は力を貸しますから」
「頼もしいですね」
花蓮は清楚に笑う。
昨日のアレからよく笑うようになった。
いや、違うか。
本来がこっちなのだ。
信じられる人がいなくて、全てを自分一人で背負っていた。それを俺が一部だけとは言え、一緒に背負ったことで余裕が生まれた。
そう考えると、俺はすごく良いことをした気がする。
「任せてください」
「はい、信じています」
これで後戻りはできない。
#
——その頃の葵とツバキ。
「カレンちゃん、忘れ物をしたって言ってたけど、多分兄さんに会いに行ったんだよ。もしかしたら、告白しているかも!」
「えぇ!」
「ツバキちゃんも気にならない? 見に行っちゃう?」
「うーん、行かない! 絶対バレる!」
「えー」
#
——その日の夜。
「こっちッス」
ツバキの兄アズサに連れられ、怪異の棲家へ向かう。
最初は死んだ怪異とかを運んでもらっていたけど、なかなかに効率が悪くおやつ程度にしかならないため自分で向かうようになった。
三日に一回程度、食べに行く。
それでも空腹は消えず、日中はなるべく動かないようにしている。戦ったりしたら一瞬で蓄えたカロリーが消えていってしまう。
最近は空腹になるのが早くなり、余計不便だ。
「今日は大量ッスよ」
夜の墓地に入る。
目を凝らすと、骸骨やら幽霊がいた。
森に囲まれた墓地。
ここは夜になると怪異が現れると噂があり、それをアズサが調査すると夜は怪異の棲家になっていることが分かった。
基本的に封印師は被害が出てからしか怪異を調査しに来ない。
それを狙ってアズサは噂段階の怪異を見つけては、俺に紹介している。
そのアズサが物欲しそうに俺を見る。
「アズサも食うか?」
「えっ、いいんスか」
「お前が見つけた狩場だ。当たり前だろ」
そんな顔してたら独り占めすることもできないだろ。よだれ出てるし。
「あざッス」
アズサは俺が殺した怪異を食べる。
アズサは狩りが苦手なようで、一体殺すのにも時間が掛かる。
最近は俺が怪異を食わせてやってるおかげで筋力諸々がついて狩りのスピードが上がっているものの、まだ俺が殺してそれをあげた方が早い。
もう少し食わせてやらないとダメだな。
アズサもツバキも主食は人間のご飯と同じようで、俺みたいに怪異を食べないとダメって訳じゃなさそうだ。
それのせいで積極的に狩りをせず、これまで食べた怪異の量は俺の一割ほどらしい。
食べたら強くなるのは同じだが、命の危険と釣り合わないと避けていたそうだ。
俺がなぜ怪異を食べないと生きていけないかは、未だによく分からない。
思いつく理由としては、屋敷での食習慣だ。
悪食と呼べるほど何でも食べていた。
今の状況は、朝昼晩問わず怪異を見つけては食う生活をしていたせいなのか。
そう思うと悲しい。
屋敷にいた頃、俺は怪異を万能食だと思っていた節がある。
食べたら食べるほど健康になり、強くなる。
現代の万能食とかダイエット食もそうだ。
健康に良いからとたくさん食べていいものではない。
用量は守らないといけない。
守りさえすれば、怪異は本当に素晴らしい食材なのだ。
一般人の俺が次期当主の男を倒せるほどには強くなれる。今の俺の強さなら当主にもなれるんじゃないかと思ってしまうほどだ。
絶対なりたくないけど。
それにしても、当主か。
時代遅れの後継者争いに巻き込まれてしまった。
しかし、無視する訳にもいかない。
花蓮は葵の友達だ。
友達が死ねば葵も悲しむだろう。
ふと、ある考えが浮かぶ。
——そうだ、最悪の場合は花蓮に怪異を食べさせよう。
それで死ぬことはないはずだ。
まあ、そんなことをするのは他に方法がないって場合だけだ。禁忌と言われていることを他人に強制する気にはなれない。
まあ、禁忌を犯したら責任は取るさ。
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