踊り食い

「焼いて食いたいな」


 竜の舌を竜の牙で切り分けて食べる。

 口の中に血の味が広がる。


 大体無機物だったり、実体がなかったりして血肉を食べたのは初めてだったりする。


 竜が俺を口から追い出そうと首を左右上下に振る。その度に牙を口内に刺して耐える。

 段々と竜に力強さが無くなっている気がする。


 舌を動かして対処しようとするけど、その舌も長さが足りていない。

 もう半分以上は食べてしまった。


 中々に美味いし、腹も膨れる。

 腕の再生分のカロリーは元を取ったはずだ。


 これが踊り食いってやつだろうか。

 竜の舌——タンの踊り食い。

 中々にグロい。


「そろそろ殺すか」


 腹も膨れて力が湧いてきた。

 この竜を殺す程度のカロリーはある。

 だが、殺し方は考えないといけない。


 今外に出てしまえばまた硬い鱗に阻まれて攻撃が通ることはないだろう。

 それなら中から殺す方がいい。

 とりあえずもっと奥に行ってみるか。


 竜の喉を通り、奥へ進んでいく。

 通れないような邪魔な肉とかは牙で切り取る。

 途中で竜が咳き込んで、俺という異物を吐き出そうとした。それをどうにか耐えると、竜は諦めて飲み込んだ。

 そこからは簡単に進めた。


 食道を少し進むと、ドクンドクンという大きな音が聞こえた。

 心臓の拍動だ。

 食道の肉が壁となり、その先に心臓がある。

 だから、食道を削って進むことにした。


 牙を食道の肉に突き刺す。


 竜の舌を切り取ったおかげですっかり上達した牙捌きでどんどん掘り進める。

 その際に出た肉はもちろん食べる。

 しかし、あまり美味しくなかった。

 舌より硬くて、筋も多い。

 とはいえ、お腹は空いているから捨てずに食べる。

 腹八分になった頃には、心臓が見えていた。

 俺の背丈よりも大きな心臓は鼓動の音も大きく、体の芯に響くような重低音だった。


 竜の心臓が目の前にあることに感動して、非日常を実感する。

 最近の日々は予想外の出来事の連続だ。

 それは良いことでもあるし、悪いことでもある。しかし、その予想外を楽しんでいる自分がいることも理解している。

 とりあえず、心臓に牙を刺す。

 すると、激しく血が溢れた。


 心臓はポンプのような役割だ。

 それが一部でも破れたらとてつもない出血が起こる。


 知識でわかっていても実際に見ると理解が進むと聞いたことがある。

 学校の実験もそうだ。

 百聞一見にしかず。

 そんな言葉もある。


 他にも何ヶ所か心臓を突き刺し、完全に心臓を停止させる。

 その頃には竜が地に堕ちていた。

 もうピクリとも動かない。


 ついでだから心臓の肉も食べることにした。

 牙で切り取り、口に入れる。

 意外と美味しい。

 よくよく考えれば心臓はハツとして焼肉のメニューにもある。

 独特の弾力があって楽しい。


 この際だからと満腹まで腹に入れる。

 これで三日ほどは持つはずだ。


 元来た道を遡り、開いた口から出る。

 すると、白井と邪神竜がいた。


「下僕が竜を殺したのか?」


 信じられないという表情の邪神竜がいた。

 俺としては隣に立つ白井の存在の方が信じられないけどな。

 心臓を刺されたのに平然と生きているのは生物としてどうなのだろうか。

 竜でさえ心臓を刺せば死んだぞ。

 もう一個心臓があるなんてズルもなく、生物として当たり前の死を迎えた。

 対して、白井は何食わぬ顔で立っている。

 理由は分かっている。

 封印具の盾だ。

 あれには致命傷を一度肩代わりするという力があると説明された。俺は半信半疑だったけど、本当だったようだ。


「糸瀬くんって本当に一般人? 竜を殺せるなんて……あ、そういえば怪異を食べているって言ってたけどそれが理由だったりする?」


 白井の方が邪神竜よりも衝撃が少なそうだ。

 以前、鬼との戦いで生き残ったという実績があるからか。もしくは、邪神竜が竜の実力を正しく把握しているからか。


 俺も封印師からの竜の評価は知らない。

 だけど、高いであろうことは推測できる。

 竜は空を飛ぶのに加えて、あの強固な鱗を持っている。並大抵の攻撃は効かない。

 強いと言われていた鎖も通用しなかった。

 鎖が活躍したのは口の中への移動手段くらいだ。

 竜の牙の方が全然役に立った。


「怪異を食べる? 頭おかしいんじゃないのか」


 厨二病に頭おかしいと言われた。

 かなりショックだ。


「いや、それはな……」


「それに、怪異を食べることは禁忌と言われていたはずだ。禁忌、禁忌か……かっこいいかもしれない」


 邪神竜は包帯を巻いた右手を目に添える。

 ポーズをとっているようだ。


 禁忌というフレーズに邪神竜の厨二病心がくすぐられたらしい。


「え、怪異を食べるのって禁忌なの?」


 白井が驚き、俺の方を見る。

 ポーズをとった邪神竜が説明を始めた。


「怪異を食べると体が怪異に近づくと言われている。しかし、禁忌……かっこいい。そうだな、この邪神竜も禁忌を犯そうではないか。下僕、禁忌の独り占めは良くないぞ! 邪神竜にも食べ方を教えろ!」


 俺を指差して叫ぶ。

 これは面倒なことになった。

 ちゃんと白井に口止めしておけば良かったな。


「早くしろ、下僕!」


 邪神竜は竜の死体へと走る。


「はいはい」


 邪神竜は少し妹に似ている。

 守ってあげたくなるような、わがままを聞いてあげたくなるような感じだ。


 全然、葵の方が可愛いけど。


「おい、げぼ——下僕?」


 後ろの白井からヒッという声が聞こえた。

 理由はすぐ分かった。


 胸から刀の先が出ている。

 心臓あたりに異物を感じ、それが刀だと察した。


「よお、さっきぶりだな。代わりに竜を殺してくれて助かったよ。だけど、お前の役割はここまでだ」


 後ろを睨む。

 そこにいたのは次期当主と呼ばれた男だ。

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