クラスメイトに食欲を話す
「奈緒、聞いてよー」
「どうしたの?」
「彼氏がさ、浮気していてね。しかも、お前が悪いって言ってくるんだよ。酷くない!?」
「何それ、最悪じゃん」
白井奈緒。
女子の中ではかなり目立つ存在。
友達が多く、優れた容姿で男子からの人気も高い。
そんな彼女がなぜアルバイトに応募したのか、俺と同じように報酬に釣られたのか、それとも何か事情があるのか。
気になってしまう。
せっかくだから、アルバイト仲間として話しておきたい。
前回、調査メンバーと協力できずに終わった苦い経験がある。今回はあんな目に遭いたくない。
どうやって接触を図ろうか。
そう考えていたら、一つ閃いた。
とても自然な流れで、周りが勝手に納得してくれる最高のシチュエーションだ。
白井たち女子の集団が集まってる場所に歩く。
近くまで行くと、白井の視線がこっちに向いた。
「白井さん、昼休み屋上に来てくれない?」
「え?」
白井に告白する一人の無謀な男子。
これなら周りに違和感を持たれないだろう。
返事を待たずに席に戻る。
チャイムが鳴り、四限の授業が始まった。
#
四限が終わると、すぐに屋上へ向かった。
この学校では屋上への扉の鍵が壊れており、絶好の告白場所として愛用されている。
わざわざバレたら面倒くさい場所で昼飯を食べるような生徒もいないので、内緒話をするにはちょうどいいのだ。
「糸瀬蓮、調査メンバーの一人よね?」
そう待たないうちに白井が屋上に来た。
風で長髪をなびかせる。
「話が早くて助かる。よろしく」
「こっちこそ、よろしく。協力して無事に終わらせましょ。そのためにも、コミュニケーションが大事だと思うの。早速だけど、一つだけ文句言っていい?」
「え、文句?」
何か俺はやらかしたのだろうか。
まだ数えるくらいしか会話してないけど。
「あなたが私を屋上に誘う場面、周りからは告白みたいに見えてた。次からはやめて」
「そんなに嫌だった?」
「嫌よ。教室に帰ったらグループの子たちにどうやって振ったのか聞かれるのよ? これで何回目って話なの」
確かに白井の周りにはそういう話が好きそうな人が多い。
「振る前提かよ」
「そりゃそうよ。私、恋人作らないって宣言してるのだから」
あまり友達がいる方ではないので、そんな宣言初めて聞いた。
有名なのだろうか。
「それはまた高校生とは思えない宣言だな」
「私は花より団子。恋人よりお金を取るの。だから、このバイトをやってる。あなたは?」
「まあ色々と理由はあるけど、バイトを始めたのは金が欲しいからだよ。それ以外のやつなんているのか?」
報酬以外いいところがないバイトだ。
金が欲しい無謀なやつしか、こんなバイトしないだろう。
食欲のためという俺を除いて。
「このバイトはね、続けていたらバイトから社員に昇格できるのよ。だから、それを狙っている人もいるみたい」
「そりゃあ、随分と給料の良さそうな社員だな」
バイトから社員に昇格って言い方的に、社員の方が給料はいいのだろう。
バイトでさえ、一日で十万とか稼いでいるのだから社員ともなれば計り知れない。
「十回調査を達成すると、話が来るみたいね。私は次が十回目よ。社員になるかは考え中」
「俺は二回目だな。今回は大先輩の指示に従うよ。だけど、少しだけ勝手に動かせて欲しい。やりたいことがあるんだ」
「やりたいこと?」
言うべきか悩む。
怪異を食べたいなんて言ったら、どんな反応が返ってくるのかは想像がつく。
実際、屋敷の調査後にそれを言ったら最初は嘘だとして取り合ってくれなかった。
だけど、考えてみて欲しい。
バイト中に相方が怪異を食べ始めたら気が狂ったと思うだろう?
一緒に行動したいか?
俺は絶対嫌だ。
命が掛かった場面で何を考えているのか分からない奴と一緒にいたくない。
背中を預けるなんて不可能だ。
だから、今のうちに打ち明けておく。
しっかり話せば分かってくれるはずだ。
一般人だから封印師のように禁忌とか知らないはずだ。知っていても、それで敵対することもないはずだ。後で菊川さんに聞いたら、禁忌にうるさいのは年寄りだけだと言っていた。
「俺は怪異を食べたいんだ」
「……ん?」
目を見開いて、首を傾ける。
理解ができないと言う表情だ。
「俺は一回目の調査で怪異を食べて、それ以来普通のご飯では腹が満たされなくなったんだ。だから、怪異を食べたら腹が満たされるか試したい」
しばらく沈黙が続く。
十秒ほど経った後、白井がゆっくりと口を開いた。
「……このバイトを続けていたらね、色々な人に出会うの。頭のネジが飛んだ人とか、気が狂った人とか。総じて原因は精神汚染よ。怪異に触れたら精神に異常が生じるの。あなたは別格ね。今回のバイト、私はあなたに辞退を勧めるわ」
なんともまあ、ひどい言い草だ。
まるで狂人扱いである。
丁寧な分、余計傷つく。
言ってることが十分狂人なので、反論の余地はないのだが。
「俺もおかしいことを言ってる自覚はあるよ。だけど、本当なんだ。お腹が空いて苦しんでいるのも、怪異を食べたのも」
その言葉に白井は表情を歪めた。
「可哀想に……今回のバイトでは、あなたが怪異に触れることなく終わるように頑張るわ」
「このこと、誰にも言うなよ」
「言っても信じないし、言う相手もいない」
白井はあまり信じてない様子だった。
だが、最低限俺の気持ちは伝えることができた。これで俺が突然怪異を食べ始めても、そういえば言ってたなで済ませてくれるはずだ……
多分。
#
「奈緒ー、告白どうだったー?」
遠くで白井たちのグループが話しているのが聞こえた。
「糸瀬くんも大胆だねー。教室で屋上に呼び出すとか」
「それな! ちょっと、キュンってした」
白井の言う通り、みんなの前で屋上に誘うのは少しまずかったらしい。
グループの女子たちが好き勝手に言い合う。
「それでそれでー、告白どうしたのー?」
昼前に彼氏に浮気されていたと言っていた女子が白井に聞く。
何かを期待する目で白井を見る。
「……った」
「え?」
「頭がおかしい、可哀想な子だった」
白井は机に伏して、それ以上答えなかった。
なんか、ごめんなさい。
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