血濡れのかぐや姫
ビト
第1話
「私、月に帰るんだよね」
扇情的な満月を背景に、神楽耶はなんでもないようにそう言った。今あたし達がいるのが人気のない学校の屋上ということもあって、どこか芝居のワンシーンのようだな、と現実逃避気味に思考する。しかし、その気持ちを悟られるのがどこか恥ずかしい思いもあり、あたしは動揺を隠すように努力した。
「ふーん」
「あ、なにその反応」
「いや、そうなんだ、って」
「もっとあるでしょ? ほら、行かないで神楽耶! とか、寂しくて死んじゃうよぉ、とかさ」
「あたしのキャラじゃないじゃん」
「そんなの誰が決めたのさ。人生はお芝居じゃないんだから、一瞬一瞬をアドリブで生きていこうよ」
「いや、アドリブって言われてもなぁ」
「この大根役者」
「そもそも役者じゃないっての。ってか人生は芝居じゃないって言ったの、神楽耶じゃん」
「ほら、私もアドリブで喋ってるから」
神楽耶はそう言って、ケラケラと笑う。心底愉快そうに、でも、どこか寂しそうに。神楽耶とも長い付き合いだ、そういう機微にもあたしは気が付く。それが誇らしくもあり、わずらわしくもあり。
こうやって深夜の学校の屋上に忍び込むのも、別に今日が初めてじゃない。学校の警備員も用務員もほとんど神楽耶の召使いみたいなものだから、ほとんどフリーパスでこんな時間でも私達は自由に学校に出入りできる。あ、そういう意味では、忍び込む、ってのは正確じゃないな。ま、いいか。
「そんで、なんだっけ。月に帰る? だっけ」
「そうそう、もうそろそろそんな時期かなって」
「時期、って。なんかそういう生き物なの、神楽耶って」
「私はホモサピエンスだよ、たぶん」
「たぶん、なんだ」
「逆に聞くんだけどさ、美香は胸を張って、自分はホモサピエンスだ! って言えるの?」
「言えるよ」
「へー、人間じゃなくて?」
「え?」
「自分を血の通った人間だなぁ、って思うことはあっても、血の通ったホモサピエンスだなぁ、って思うことってなくない?」
「いや、人間=ホモサピエンスでしょ」
「甘いですなぁ美香君。そんなんじゃ赤点ですぞ」
「はは、ムカつくなぁ」
相変わらず、あたし達は馬鹿みたいな話をしてる。非生産的だなぁ、と自分でも思う。でも、この非生産的な時間が、なにものにも代えがたい大切な時間だという自覚も強くある。それを人は青春を呼ぶんだよ、って、神楽耶なら言うんだろうなぁ。現にあたしの脳内のイマジナリー神楽耶はそう言っている。はは、神楽耶大好きかよ、あたしは。いや、まぁそうなんだけど。その一点では、他の有象無象とあたしは同じだ。一緒にして欲しくないけど。
神楽耶はほろ酔いを片手に、クルクルッと回り出す。白いフリルのブラウスと紺のスカートに月光があたってはじけ、とてもこの世のものとは思えない、さながら妖精の踊りのようだ。まぁ、実際はただの酔っ払いの踊りなんだけど。それでも神楽耶がやると絵になるな、と思いながらあたしもビールをクピッと飲む。最初は格好つけて飲み始めたビールだけど、今ではこの苦みが癖になってるのが面白い。
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