第3話


「私が漕ぎますね!!」

「……わかった」

 

 私とロバートの勝負なのだ。私が漕ぐのが筋というものだろう。

 

「じゃ、行くわよ!」

「いつでも、いいよ」

「「3・2・1……スタート!!」」

 

 私とロバートの掛け声とともにスタートしたボート対決。

 順調な滑り出しを見せたロバートたちに比べ、私のボートはまったく進まない……どころか、陸地にぶつかってしまう。

 

「な、何でぇ!?」

「貸してみろ」

 

 頼もしい言葉に、半泣きでアルフレッド様にオールを渡せば、すいすいとボートは進みだす。

 この時、やっと私は自身のミスに気が付いた。

 手漕ぎボートは、後ろ向きに進むのだ。

 

「何で教えてくれなかったんですか?」

 

 思わず恨みがましい視線を送れば、アルフレッド様は苦笑する。

 そんなお姿もかっこいい……。眼福すぎる。ゲーム内なら、絶対にスチルだっただろう。

 

「俺が漕ぎたかったから」

「えっ!? あ、そうだったんですね。気が付かずに、すみません」

 

 慌てて、頭を下げた。

 危ない、危ない。うっかりアルフレッド様に見惚れて、話を聞き逃すところだった。

 

「それと、気づいた時のカタリナの反応が見たかったからだな」

 

 何ですと!? 私の慌てる姿が見たかったと!?

 見ても、何も良いことないと思うんだけど……。

 

「可愛かった」

「……え?」

「慌てるカタリナも可愛かった。だが、悪趣味だったな。すまない。もう自分の欲を優先するのはやめる」

「いや、何もそこまでしてくれなくても! 馬鹿だなーって、笑っていいんですよ!?」

「そんなことするわけないだろ」

 

 真剣な金の瞳に、美人だけど、気の強そうな私が映る。

 もし、私がヒロインだったら、アルフレッド様を幸せにできたのかな……。

 幾度となく過った思考。

 久々に痛んだ胸は、気が付かなかったことにする。

 

「私の幸せは、アルフレッド様が誰よりも幸せになることです。アルフレッド様になら、笑われるのも嬉しいですよ」

 

 他の人に笑われるのは嫌だけど、アルフレッド様になら嬉しい。

 アルフレッド様の笑顔を見るためなら、何でもする。

 

「それならいい加減、俺とリリアンナ嬢をくっつけようとするのはやめてくれないか?」

「え?」

「俺が一緒にいたいと思うのは、カタリナだけだ」

「そんなの、まるで──」

 

 私のことが好きみたいじゃん。

 いや、そんなわけ……。

 

「言ってなかったか? 俺は、カタリナが好きだ」

「き、聞いてません!」

「言ってなかったとしても、態度であらわしてただろ?」

 

 たしかにアルフレッド様は婚約してた時も、結婚してからも、優しくしてくれた。

 それを私は、アルフレッド様が婚約者や妻という立場の私を無碍むげに扱うことができないからなのだと思っていた。

 運命の相手は私じゃないからと、決めつけすぎた?

 私でもアルフレッド様を幸せにできるの?

 リリアンナの方が確実じゃない?

 

 思考はぐちゃぐちゃで、嬉しいと心が叫び、私じゃ駄目だと頭が言っている。

 

「結婚すればなくなると思っていたのに、自分の妻に他の女を薦められるんだもんな……」

 

 あ……。私のやってたことって最低だ。

 婚約者や妻に、別の人とくっつけようとされたら、嫌に決まってる。そんなことにも、気が付かないなんて……。

 

「そのくせ、俺のことが好きだと言う。本当に俺のことが好きなのか?」

「前世から、誰よりも大好きです!!」

 

 信じてほしい。

 ずっと、ひどいことをしてしまった。

 それでも、この気持ちは本当なの。

 大好きだから、誰よりもアルフレッド様の幸せを願った。

 間違えちゃったけど、気持ちに嘘はなかったの。

 

「──うぎゃっっ!?」 

 

 ボートが大きく揺れた。

 自分の状況を忘れた馬鹿な私が、勢いよく体を前に出し過ぎたのだ。

 急に動けばボートが揺れるなんて当たり前で、そこに運悪く風が吹いたものだから、さらにボートは揺れて、私の体は傾いていく。

 

「カタリナっっ!!」

 

 焦ったアルフレッド様の顔も声もかっこいいだなんて、こんな時も思ってしまう私は馬鹿だ。 

 きっと、今までアルフレッド様のお気持ちも考えず、自分の思い描くアルフレッド様の幸せ像を押し付けたから、罰が当たったんだ。

 

 覚悟を決め、目を閉じた。

 

 

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