第12話 そのDランクパーティが見たもの(衝撃)

 一方、その頃。


 灰枝グラウエル領から早馬で3日ほどの距離にある街——城塞都市アルセリア。


 かつて、魔物が洪水のように都市へ押し寄せる大厄災【狂乱暴走スタンピード】を防いだといわれている堅牢な都市だ。


 そこの冒険者ギルドは、今夜も賑わっていた。



「だから本当なんだって!ドラゴンがいたんだ!」


 受付カウンターで、一人の男が声を張り上げていた。


 マルクス。Dランク冒険者だ。


 パーティ仲間と共に辺境の魔物狩りを請け負っていた男だ。



「マルクスさん、落ち着いてください。ドラゴンって……本気で言ってます?」


 受付嬢が困惑した表情で応対する。


「本気だ!この目で見たんだ!でっけえ赤黒いのがドラゴンが空を飛んでて——」


「おいマルクスー!また酒の飲みすぎじゃないのかー?」

「そうだそうだ!受付のねーちゃんに絡むんじゃねー!」


 後ろから野次が飛ぶ。


 ギルド内の冒険者たちが、ニヤニヤしながらこちらを見ている。

 今夜の見せ物でも観覧している、という表情だ。


「違う!飲んでねえ!……いや、飲んだけど、見たのはその前だ!」


「説得力ねえな~!」


「ドラゴンって、Sランク案件だぞ?そんなのがこの辺にいてみろよ。街中大騒ぎだ!」


「きっと大きい鳥を見間違えたんだな!相変わらずお茶目なやつだぜ!」


 笑い声が広がる。


 マルクスは歯噛みした。


「……見たんだ。本当に」


「なにか…証拠とかはお持ちでしょうか?」


 受付嬢のその言葉に、はっと思い出したマルクスは懐から何かを取り出した。


 赤黒い欠片。

 両の掌ほどの大きさで、鈍く光っている。


「ドラゴンの鱗だ」


 ギルド内が一瞬、静まり返った。


 ——が、すぐに誰かが吹き出した。


「なんだ、そんなの偽物だろ?一瞬ヒヤリとしたぜ~」


「ドラゴンの鱗なんて、王都でも滅多にお目にかかれねえぞ」


「どっかで買ったんじゃねえの?でかよくお前が買えたなァ!」


「ぎゃははははは!」


 下品な笑い声が飛び交う。



「買ってねえよ!落ちてたんだ!灰枝領あそこの村の近くに!」


「村?あの辺に村なんてあったか?」


「……あった。いや、”できてた”が正しいんだと思う。崩れた砦の跡があって、そこに同じ顔の人間がたくさん住んでて——」


「ますます意味わかんねえな」


 誰も信じてはいないみたいだ。


 マルクスは拳を握りしめた。悔しい。が、証拠はこれしかない。


 あの時、もっと近くで見ていれば。

 でも、あんな化け物を前に近づけるわけがない。



 ——その時。


「マルクス。ちょっと来い」


 低い声が響いた。


 振り返ると、ギルドの奥から初老の男が出てきていた。

 筋骨隆々の体に白髪交じりの髪。鋭い目つき。

 アルセリアこの街の冒険者ギルドのマスター——ガルドだ。


「ギルマス……」


「話がある。ついて来い」


 有無を言わさぬ口調。


 マルクスは頷いて、ギルドマスターの後について行った。







——————————————————————





 応接室。


 重厚な机を挟んで、サブマスターのノエルとマルクスのパーティメンバー3人が向かい合っていた。


 同じ件で呼ばれていたのだろう。


 どかっと長椅子に腰掛けると、ガルドは口を開いた。


「……で、本当に見たのか?ドラゴンを」


「はい。間違いありません」


 マルクスは真剣な顔で頷いた。


 ガルドは黙って、マルクスが持ってきた鱗を手に取った。


 しばらく眺めて、鼻を鳴らす。


「……本物、だな」


「え?」


 マルクスとメンバー3人が顔を見合わせる。


「この鱗、本物のドラゴンのものだ。間違いない」


 マルクスの目が見開かれる。


「わ、わかるんですか?」


「ああ。実は——」


 ガルドは椅子に深く腰掛けなおした。


「先月、王都に出張した時のことだ。貴族向けの競売会オークションがあってな、たまたま覗いたんだが……」


「競売…」


「そこに、ドラゴンの鱗が出品されていた。10枚はあったな。……この鱗と、まったく同じものだ」


 マルクスは息を呑んだ。


「じゃあ、やっぱり……」


「ああ。どこかにドラゴンがいるのは確かだろうな。それも、11枚上は鱗を剥がされてる」


 ガルドは目を細める。


「いや、もっと…おそらく50は剥がれていたような…」


「なにィ?!」


 声を荒げたガルドに気圧されるDランクパーティー一同。


 一瞬静まり返る中、マルクスはあの日のことを思い出していた。


 遥か上空を旋回していたドラゴン。

 それが爆炎に包まれて墜落していく姿。

 そして、駆けつけた時に見たあの異様な光景——


 ボロボロの砦に巨大パチンコ。

 集まったカルト団体と盗賊もどき。

 鱗を剥がされ、縛られたドラゴン。

 そして——大勢の「同じ顔をした人間」たち。


「……信じてもらえるかわかりませんが」


 マルクスは口を開いた。


「ドラゴンを落としたのは、あの村の連中でした。どういう仕組みか、同じ男が大量に出てきて…空中で爆発をしました……」


「…まるで意味がわからんな」


「…そうですよね。俺、今になっても頭が追いついてないですし…」


 マルクスは下を向いた。


 「私も同じものを見ました!マルクスの言った通り、同じ顔の人間が、何十人も。いや、百人近くいたかもしれません!」

 

 魔法使い系のメンバー、ユリアだ。


 「爆発の件は断定できませんが、私もほぼ同じ光景を見ています。でしょう?ゴードン」

 

 「ああ」


 神官系のマリーとタンク系のゴードンもマルクスに続く。



 ガルドは眉をひそめた。


「幻覚の線は薄そうか……となると禁忌スキル」


「禁忌?」


 聞いたことがある。世界の理を外れた、異常な能力。教会が『禁忌』として封じているものだ。


 マルクスの背筋に悪寒が走る。



「……どうしますか、ギルマス」


 ガルドは腕を組んで、しばらく考え込んだ。


「……正直、判断に迷う」


「と言いますと?」


「もし本当にドラゴンを倒せる戦力があるなら、それは脅威だ。だが、同時に……『英雄』でもある」


 ガルドの目が光った。


「王国軍に報告すれば、間違いなく調査隊が派遣される。だが、それには時間がかかる。そして、教会が絡めば……」


「面倒なことになるのは必然ですね」


 サブマスのノエルも口を挟む


 禁忌スキル持ちは、教会にとって排除対象。

 最悪、その村ごと焼き払われる可能性もある。

 冒険者ギルドとしてもこれ以上、協会の暴挙を看過できない。


「だから、まずは事実確認だな」


 ガルドはマルクスたち4人を見据えた。


「もう一度、あの場所に行ってくれ。今度は近くで、しっかり情報を集めてこい」


「……わかりました」


「もちろん報酬は弾む。金貨30枚でどうだ」


 Dランクの依頼としては破格だ。


「そ、そんなに?!」


「危険度を考慮してだ。ドラゴンがいる可能性のある場所に出向くんだ。さらに、もっと脅威になる”何か”がいるかもしれない。…だろ?」


 ガルドは立ち上がった。


「期限は3ヶ月。それまでに、その村とやらの情報を集めてこい。住人の数、戦力、指導者、そして——その『同じ顔の男』については念入りにだ」


「「「「了解しました」」」」


 マルクスたちパーティ4人も立ち上がり、頭を下げた。


「お前ら」


「はい?」


「くれぐれも、無茶はするなよ。身の危険を感じたら構わず逃げてくれ」


「……肝に銘じます」



 応接室を出る。


 廊下を歩きながら、マルクスは考えていた。


 灰枝グラウエル領。ドラゴン。そして、あの光景。


 一体、何が起きているのか。


 行けばわかるだろうか。



 マルクスは仲間と宿へと足を向けた。


 今夜はもう休もう。


 明日から、また長い旅が始まる。

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全ステFの最弱領主、禁忌スキル【分身】で無限に増殖!?〜数の暴力で世界を詰ませます!〜 @oddman

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