第7話 ドラゴン撃墜作戦開始(不安)

ドラゴンが、こっちに向かってくる。


 翼を広げると、村全体が影に入るくらいデカい。

 風圧だけで柵がガタガタ揺れてる。


「全員、持ち場につけェ!!」


 俺は巨大パチンコの横に立った。

 分身を出す。ボンッ、ボンッ、ボンッ——12人。


 頭がふわっとする。12人はギリギリだ。昨日試した限界ライン。でも、今は気にしてられない。


「ピッケル班!」


「「「「準備よし!」」」」


 分身5人がピッケルを握りしめる。一晩中、岩を削り続けた手だ。


「小麦粉班!」


「「準備できてる!」」


 分身2人が小麦粉の袋を抱える。


「火種班!」


「いつでもいけるぞ!」


 分身1人が油布を抱えている。火はリーシャたちが魔法でつけてくれる手筈だ。


「縄班!」


「「「「任せろ!」」」」


 残り4人が、長い縄を構える。100メートル分。ドラゴンの口を縛るためには十分な長さだ。




 ドラゴンが咆哮した。


 空気が震える。腹の底まで響く。

 ダリオたちの顔が青ざめてる。当然だ。俺だって怖い。


 でも——やるしかない。


「ダリオ! 引けェ!!」


「「「うおおおおお!!」」」


 ダリオたち元盗賊の10人が、巨大パチンコを全力で引っ張る。

 太い木の枝を曲げて作ったY字型の発射台。そこに縛り付けた魔物の腱で作った弾力のある紐が、ギリギリと音を上げる。


「もっとだ!! 限界まで引けェ!!」


 俺は発射台の後ろに立ち、空を睨む。

 ドラゴンの飛行ルート。風向き。角度——全部、計算して…


「よし! 第1射、乗れ!!」


 ピッケル班の分身たちが発射台に乗った。


 ——と思ったら、足がガクガク震えてる。


「いやいやいやいや待って待って待って!!」


「何ビビってんだ!! 行け!!」


「普通に怖すぎるだろ!!? 死ぬって!!」


「大丈夫!消えるだけだ!!」


「高い所は嫌なんですけどォ!!」

「俺はパチンコ恐怖症だよォ!!」

「俺も!!」


 情けない。自分の分身が情けなさすぎる。


 その横から、別の分身がズカズカと割り込んできた。


「どけどけ! 俺が先に行く!!」


「お、お前……」


「なーに怖がってんだ! 空飛べるんだぞ!? 楽しそうじゃん!!」


 嬉しそうにパチンコに飛び込む。こいつ完全に目がキマッているぞ。


「……ええい!さっさと行ってこい!!」


「任せろォ!!」


「発射ァ!!」


 俺の号令でダリオたちが一斉に手を離す。


 ビュンッ!!!!


 5人の分身が有無を言わさず空に射出される。


「ギィャアアアアアアア!!!!」

「死ぬうううううううう!!!!」

「いやっほおおおおおう!!!!」


 絶叫しながらドラゴンに向かっていく。


 風を切る音。どんどん小さくなっていく背中。

 そして——


 見事に全員ドラゴンの横を、盛大に通り過ぎた。


「あれ? あれれれれ——ぎゃあああああ!!!」


 そのまま森の向こうに消えていった。


 ボンッ。ボンッ。ボンッ。ボンッ。ボンッ。


 ——頭に衝撃が走る。

 落下。木の枝が顔に当たる。地面が迫る。ドンッ。


「っ……ぐ……」


 膝が折れそうになる。外した。思ったより難しいぞこれ。


「次ィ!! 角度修正!! もっと上だ!!」


 さっきまでビビってた分身たちも、渋々発射台に乗る。


「やっぱ俺ドラゴンは怖いッスよ——」


「うるせえ行け!! 発射ァ!!」


 ビュンッ!!


「ぎゃーーーーーーーー!!!!」


 絶叫が空に響く。


 今度は——ドラゴンの尻尾に激突。


「痛っ!! くそ、滑る——うわああああ!!」


 ズルズルと滑り落ちて——ボンッ。消えた。


 また落下の衝撃が頭に来る。今度は尻尾に叩きつけられた衝撃も。


「ぐっ……! 次ァ!!どんどん行くぞォ!!」


「「「「行くぞォ!!」」」」


 今度は7人まとめて発射。もはや班などどうでもよい。とにかくコントロールが最優先だ。全員にピッケルを持たせてとにかく吹っ飛ばす。


 ビュンビュンビュンビュン!!


 射出早々大きく外れた3人を除き、今回ドラゴンに近づけたのは4人。

 1人目——翼に激突して弾かれた。ボンッ。

 2人目——首に引っかかったけど、振り回されて吹っ飛んだ。ボンッ。

 3人目——背中に着地!

 4人目——そのまま反対側に落ちていった。ボンッ。


 いいぞ!!確実に近づいて来てる!

 とにかく1人は成功だ!


 この作戦は——いける。


 「「「取り付いたァ!!」」」


 これには地上も大盛り上がり。



「よっしゃ!! 次も行くぞ!! 引けェ!!」


 ダリオたちが必死にゴムを引っ張る。汗だくだ。腕がプルプル震えてる。


「発射ァ!!」


 次々と分身を飛ばす。


 何人かは着地に成功する。何人かは軌道を外れて森に消える。何人かはドラゴンに弾かれて落ちる。


 その度に、分身が受けた衝撃が頭に返ってくる。痛い。怖い。でも——


「次! 次行くぞ!!じゃんじゃん飛ばせぇぇえい!!」


 飛ぶ→落ちる→消える→出す→飛ぶ…を幾度も繰り返したためか、ついに分身たちがパチンコの前に列を作り始めた。


「おい、俺が先だって!」


「いやいや順番だろ順番!」


「うっひょー! 次俺の番!!」


 ……アトラクション感覚なのか?さっきまであんなに嫌がってたのに…




そうこうしているうちに、ドラゴンの背中にようやく5人の分身が取り付いた。


「よし! ピッケル、いけェ!!」


 ギャインギャインギャインギャイン!!


 金属とも岩石ともいえない不思議な感触だ。

 分身がドラゴンの背中で、何度も鱗を叩く。

 一晩かけて培った採掘技術。岩を砕くコツ。角度。力の入れ方。

 全部体が覚えてる。


「お前らァ!!コイツは鉱山だ!俺たちはただ採掘するだけ、1枚残らず剥ぎ取ってやるぞォ!!」


「オオオオオオオオオオ!」


気合い十分である。


「硬ェ! でも、いける!」


「端っこから捲り上げろ! 岩と同じだ!」


 ガキンッ!


 鱗が1枚、剥がれ落ちた。

 キラキラ光りながら、地面に落ちていく。


「剥がれたァ!!」


「よっしゃァ!! 続けろ!!」


 ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!


 鱗が3枚、4枚、5枚——次々と剥がれていく。


 ドラゴンが怒り狂って暴れる。

 体を捻り、急上昇し、急旋回。分身を振り落とそうとしてる。


「うわっ!」


「掴まれ!! 落ちる——ぎゃあああ!!」


 ボンッ。ボンッ。


 2人が振り落とされた。


「っ……ぐぅ……!」


 ——頭に衝撃が走る。2人分の落下衝撃。きつい。


 だが…


「次飛ばせー!!!」


 もはや恐怖心など無くなった分身たちがピッケル片手に次々と射出されていく。


 落ちたら飛ばす、消えたら出す。それだけだ。




「報告!!」


 そう叫んだ背中の分身を解除した。ボンッ。


 ——記憶が流れ込んでくる。


「……よし、分かった。皆んな!背中の鱗はもう80枚くらいは剥がしたらしい。次のフェーズだ!!」


 竜の背に残った分身も全て解除する。ボンッ。ボンッ。ボンッ。


 採掘の感覚が更に体に馴染む。今の俺なら岩山まるごと1個でも掘れそうだ。



「小麦粉班! 火種班! 準備だ!!」


「「「了解!!」」」


 分身3人が発射台に乗った。2人が小麦粉袋を抱え、1人が油布を持ってる。


「リーシャ! 着火頼む!!」


「任せてください~!!」


 リーシャが手をかざす。小さな火球が生まれた。

 油布に火が移る。


「発射ァ!!」


 ビュンビュンビュン!!


 3人が空に飛ぶ。


「いくぜェ!!」


「ヒャッハー!!」


「楽しくなってきたァ!!」


 ……完全にハイになってるが、まあいい。


 3人ともドラゴンの翼付近に着地成功。さっきより命中率が格段に上がってる。


「小麦粉、バラ撒けェ!!」


 袋を破る。白い粉が宙を舞う。

 ドラゴンの右翼が、積雪のごとく白く染まる。


「火種、突っ込めェ!!」


「フォォォォォォア!!」


 火のついた油布を抱えた分身が、小麦粉の中に飛び込んだ。



 ドッガァァァァン!!!!



 爆炎がドラゴンの右翼を呑み込んだ。


 粉塵爆発。小麦粉が空中で炎に触れて、一気に爆発した。


 衝撃波が空気を揺らす。耳がキーンと鳴る。熱風が顔を叩く。


 分身が爆発の中心でボンッ、ボンッ、ボンッ。消える。


「っ——ぐぅッ!!!」


 熱い!! 燃えるッ!! 皮膚が焼ける——視界が真っ白に——!!



 一瞬にして頭に流れ込む3人分の爆炎ダメージ。膝が折れる。地面に手をついた。


 視界がチカチカする。頭がガンガンして吐きそうだ。正直これは相当キツい。


 

「効いてるわ!!! 翼の膜に穴が開いた!!!」


 オルファの声が響いた。


 見上げると——ドラゴンの右翼が、少し焼け焦げてる。

 膜に大きな穴。飛行が僅かに不安定になった。


 落ちる気配はまだない。



 ——その時。


 ドラゴンが、こっちを向いた。


 喉が、赤く光ってる。


「——来るッ!! ブレスだァ!!」


 炎が、吐き出された。


 幸い狙いは地上ではなかった。


 ドラゴンは首を振りながら、周りに向かってブレスを撒き散らしている。


 発射台から飛んでくる分身含め、とにかく俺の分身たちが鬱陶しいらしい。

 そりゃそうだ。蚊やハエなんかが自分の周りを数十匹群がってるようなもんだからな。



「「「ぎゃあああああ!!!!」」」


 飛行中の分身が、炎に呑み込まれた。ボンッ、ボンッ、ボンッ。


 ——熱い!! 燃える!! 全身が炎に包まれて——!!


「ぐっ……あああッ!!」


 膝を抱えてうずくまる。炎ダメージが一気に来る。


 きつい。でも——


「地上に炎は来てない!! 今のうちに——縄だ!! 縄はどうした!?」


「ドラゴンの背だ!ピッケルに結んで突き刺してある!」


 ……俺の分身こんなに優秀だったか?


 縄を持ったまま飛び出しても燃やされて終わりかと思ったが、これならヤツの背まで"到達"さえできればいい。


 すでに何人もの分身たちが、射台に並んでる。


「口を縛れ!! ブレスを封じるんだ!!」


「「「「了解!!」」」」


 発射ァ!!


 ビュンビュン!!


 縄班が次々と飛んでいく。


 ドラゴンはまだブレスを吐いてる。空中を薙ぎ払うように。


「避けろ避けろ避けろォ!!」


「無理無理無理無理ィ!!」


 ボンッ。ボンッ。


 2人が炎に焼かれて消えた。


 ——熱いッ!! また来た!!がさっきより全然マシだ。


「っ……くそ……! 次!! もっと飛ばせ!!」


 次々と分身を射出する。


 何人かは焼かれる。何人かは弾かれる。何人かは外れる。

 でも——何人かは、着実にドラゴンに取り付く。


「取り付いたァ!! 縄を回せェ!!」


 口元に取り付いた分身が、必死に縄を巻きつけていく。


「おい押さえろ押さえろ!!」


「暴れんなこのトカゲ野郎ォ!!」


「口がくせェんだよ!!」


 ドラゴンが首を振る。分身が振り回される。


「うわわわわ!!」


「落ちる落ちる落ちるゥ!!」


 ボンッ。ボンッ。


 また2人落ちた。

 

 とはいえ、アホみたいなペースで次から次へと飛んでくる分身。


 縄がじわじわと口に巻きついていく。


「もうちょい!! あとちょっとで——」


 ギュッ!!


 縄が、ドラゴンの口を縛り上げた。


「よっしゃァァァァ!!」

「口を塞いでやったぞ!」

「ザマァみやがれ!このウスノロがッ!!」


 ドラゴンがもがく。首を振る。しかし硬く結ばれた縄は外れない。

 口を開けようとして——開かない。


「ぐぅおおおおお!!」


 さらに怒り狂るう空の王者。


 翼を大きく羽ばたかせた。

 ブオォォォン!!


 風圧が、地上を襲った。


「うわっ!!」


「飛ばされる!!」


 柵がバキバキと壊れる。木の枝が折れて飛んでくる。

 ダリオたちが吹っ飛ばされそうになる。


「くそ! ブレスは封じたというのにィ!!」


「アルト様ァ!! 早く翼を潰さないとですッ!!」


 リーシャが叫ぶ。


「分かってる!! 爆撃班、追加投入!! 翼を打ち砕けー!!」


 小麦粉を持った分身を、次々と射出する。


 ビュンビュンビュンビュン!!


「特攻だァ!!」


「死んでも道連れだァ!!」


「いや死にたくねェ!!」


 5人、6人、7人——翼に取り付く。小麦粉をバラ撒く。


「リーシャ!! 火!!」


「はいですぅ!!」


 リーシャの火球と着火班の分身がほぼ同時に飛ぶ。


 空で油布に引火し、真っ直ぐ標的にの方へ飛んでいく。



 ドッガァァァン!!


 右翼で爆発し


 ドッガァァァン!!


 左翼でも爆発。


 ドッガァァァン!! ドッガァァァァァァン!!!!!


 連鎖的に大爆発が起きる。



 ——熱い熱い熱い熱い!!


 分身が消える度に、爆発の衝撃と熱さが頭に流れ込んでくる。

 視界が霞む。もうええて。本当に気絶しそう…


 でも——


「効いてるわ!! 両翼ボロボロよ!!」


 オルファの声。


 見上げると——ドラゴンの両翼が、ズタズタに焼け焦げてる。

 穴だらけだ。もう、まともに飛べないだろう。


 フラフラと高度が下がり始めた。


「もう少しで落ちるぞ!!」


「ダメ押しだァ!! 全弾発射ァ!!」


 残りの小麦粉を全部持って、分身を射出する。


「「「「うおおおおおお!!!!」」」」


 ドッガァァァン!! ドッガァァァン!! ドッガァァァン!!


 まるで炎の大魔法みたいだ。


 ドラゴンが悲鳴を上げる。


 翼が——完全に動かなくなった。


 そして。


 ヒューーーーーーーー……



 撃墜だ。


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