第8話 喰らえ!分身奥義、自爆ミサイル(暴挙)
一方その頃、
Dランク冒険者パーティであるマルクスたち4人は、ゴブリン討伐の帰りだった。
「あー、だりぃ。こんな辺境まで来て、報酬がこれかよ。やってらんねぇぜ」
「仕方ないでしょ~?私たちDランク程度じゃこのくらいの依頼しかできないんだから」
「そうですよ。ゴブリン相手でも下手したらやられちゃうんですから…」
「それにしても本当になにもないですね、この辺りは」
戦士系のマルクスをリーダーに、魔法使い系のユリア、神官系のマリー、タンク系のゴードンとバランスの取れた良いパーティだ。
マルクスはポケットの中からクシャクシャに丸まった依頼書を広げた。銀貨15枚。4人で割れば酒代にもならない。
「だー…疲れた!さっさと街に帰って、風呂でも入ろうぜ!腹も減ってき——」
ふと空を見上げると、"何か"が飛んでいる。
でかい。めちゃくちゃでかい。
「……は?」
「どうしたの?マルクス」
一同は足を止めた。
「おおお、おい、なんだアレは…?」
マルクスが震えながら空を指差す。
目を擦った。見間違いじゃない。
「「「ド…ドラゴン!?!?!」」」
腰が抜けて上手く立ち上がれない。
Dランクの自分たちじゃ、逆立ちしても勝てない相手だ。Aランクパーティーでも討伐は困難。Sランクが複数いないと話にならない。まさに厄災である。
「や、やべえ……!」
「お、おい!どうする?」
「終わりましたわ…」
「リーダー!しっかりしてよね!」
「わかってる!!」
全員震えている。マルクスも同じだ。
逃げるか? いや、逃げ切れるわけがない。
木の陰に隠れて、じっと息を殺す。
——その時。
「ドガァァアアアン!!!!!」
轟音と共に爆炎が広がり、ドラゴンが真っ逆さに落ちていった。
「——おい、なんか降りていくぞ……?」
爆発が何度も起きた。炎が空を舞った。人が——ドラゴンにくっついていた。何人も。同じ顔の。
あの廃れた地に、何があるっていうんだ?
恐る恐る、マルクスたちDランクパーティはドラゴンの後を追った。
—————————————————————
ズドォォォォン!!!!
ドラゴンが、地面に墜落した。
地響きが全身を揺らす。土煙が舞い上がる。
翼をほとんど失ったドラゴンが、地面でもがいている。
「住民総出だ!! 全員でコイツを縛り上げろォ!!」
俺が叫ぶ。
「「「「うおおおおお!!!」」」」
ダリオたちが一斉に飛び出した。
信徒たちも、オルファも、リーシャも——全員が縄を手に走る。
「首だ!! 首に巻け!!」
「足も押さえろ!!」
「翼の付け根!! 動かせないようにしろ!!」
縄が次々とドラゴンに巻きついていく。
ドラゴンが暴れる。首を振る。尻尾を振り回す。
「うわっ!!」
ダリオが尻尾で吹っ飛ばされた。
「ダリオ!!」
「だ、大丈夫だ……! 続けろ!!」
這いつくばりながらも、縄を離さない。
口元の縄が見える。空で縛ったやつだ。
だが——粉塵爆発の影響で、あちこち焦げてボロボロになってる。やばい。
「口だ!! 口に追加の縄を巻きなおせ!!」
分身が駆け寄る。焦げた縄の上から、新しい縄を巻きつけようとした——その時。
バチンッ!!
口元の縄が——千切れた。
「っ!?」
焦げついた縄が、ついに限界を迎えたのだ。
口が——開いた。
喉が、赤く光る。
最後の抵抗。あのブレスを吐くつもりだ。
「やべえェ!!!」
俺は咄嗟に分身を出した。ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ!!
12人の分身が、ダリオたちと住民たちの前に壁を作る。
「散れぇ!!」
炎が、吐き出された。
分身の壁を——飲み込んだ。
ボンッ。ボンッ。ボンッ。ボンッ。ボンッ。
12人が、一瞬で消えた。
「アルト様ァァァ!!!」
リーシャの悲鳴が聞こえた。
俺は——分身の壁の真後ろにいたせいかブレスの衝撃で吹き飛ばされていた。
……痛い。
けど——死んでない。
なんで?
俺は自分の体を見下ろした。
服は焦げてる。肌も少し赤い。
でも——火傷は全くしていないように見える。
そもそも吹き飛ばされた衝撃以外はなにも感じなかったような…
ドラゴンのブレスで、この程度?
なんとなく、自分のステータスを確認した。
——火耐性:S
「……はぁ?」
間の抜けた声が出た。
いつの間に。なんでSになってる。俺、全属性Fだったよな?
粉塵爆発。空中戦でも、墜落後も——何度も何度も、分身が爆発に巻き込まれてた。
炎に焼かれた分身もなんだかんだで、100は下らないだろう。
そして、その度、熱さと痛みの記憶が頭に流れ込んできた。
あれが——経験として蓄積されてた?
てか「耐性」ってなんだ?魔法は「適正」だったはずだが…
ステータスをよく確認すると、確かに魔法適正は全属性Fのままだった。
なーんだ。
——いや待てよ?
もしかしてこれ、とんでもない能力なんじゃないか?
分身が痛みやダメージを経験する。その記憶が戻ってくる。
繰り返すほど——本体が強くなる。
…そしてドラゴンのブレスすら通さない分身を大量に作ることができたら
…でもさっきの分身は一瞬で消えて…
「アルト様ッ!!!」
堂々巡りしそうな俺の元に、リーシャが血相を変えて駆け寄ってきた。
「あぁ、大丈夫……」
「でも、ドラゴンのブレスが……!」
「なんか平気だった」
自分で言っておいて、自分でもまだ信じられないが…
いや、考えるのは後だ。今は——
「ドラゴン撃墜作戦を終わらせよう!!」
俺はピッケルを再び握りしめた。
「引っ張れェ!!!」
「「「「うおおおおおお!!!!」」」」
全員で縄を引く。住民も、信徒も、分身も——総勢20人以上。
ドラゴンの体が、じわじわと地面に押さえつけられていく。
「もっとだァ!! 完全に動けなくしろォ!!」
ギリギリ……ギリギリ……
ドラゴンは暴れようとするも、翼は動かない。身体中を厳重に縛られてる。
「よし……押さえた……!」
「ピッケル班!! 鱗を剥げェ!!」
「「「「了解!!」」」」
分身がドラゴンに群がる。
カンカンカンカンカンカン!!!
鱗が次々と剥がれていく。
キラキラ光る鱗が、地面に散らばっていく。
ドラゴンは鉱山だ。俺たちはただ、採掘するだけ——剥き身にしてやるぜ。
——しばらくして。
森の端から、1人の男が飛び出してきた。
Dランク冒険者のマルクスだ。
「おい!! 大丈夫か!? ドラゴンが落ちて——」
言葉が止まった。
目の前の光景が、まるで理解できない。
縄で拘束さえ地面に這いつくばるドラゴン。
ピッケルで鱗を剥がしている同じ顔の男たち。
その周りを不安そうにうろつく神官のような女。
それに付き従う黒フードのいかにも怪しい連中。
どうみてもゴロつきにしかみえないボロボロの男たち。
「ちょっとマルクス、待ってってばー!」
少し遅れて3人が現場に登場した。
「……なんだ、これは」
マルクスたちは、呆然と呟いた。
俺は声に気がついて振り返った。
「誰だ、お前は?敵か?」
「そいつはマルクス、私のいるギルドのDランク冒険者だ」
オルファが代わりに答えた。
そういえばオルファも冒険者ギルド所属なんだっけ。
ここのところ毎日、俺たちと一緒にいたから完全に失念していた。
「オルファ?!どうしてここに……それより、俺たちはゴブリン討伐の帰りにドラゴンを見て……」
「あぁ…見ての通り、もう終わるところだよ」
「え?」
俺はドラゴンの頭に歩み寄った。
鱗が剥がれて、赤い肌が露出している。
ピッケルを構える。
「——悪いがここは俺の領地なんだ」
ドラゴンが、弱々しく唸った。
瞳に、怒りはない。疲労と、諦めが見える。
ピッケルを、ドラゴンの首筋に当てた。
「出ていくか——従うか。ここで討たれるか。好きな方を選んだもらう」
ドラゴンの目が、俺を見た。
しばらく、睨み合った。
……長い。
そして——
ドラゴンが、ゆっくりと目を閉じた。
首を、地面につけた。
——降伏、ということで良いのだろう。
「……は?」
マルクスたちが、口をパクパクさせている。
「お前ら、何者だ……? ドラゴンを……こんな辺境で……どうやって……」
俺は振り返った。
「俺はアルト。この領地の領主だ」
「領主? もしかして先日話題になった全ステFランクの…?」
はぁ。一体どこまで広がってるんだ、その噂。
「さすがアルト様!有名人ですね~!」
「リーシャ…それはさすがに煽ってるだろ?」
そういうと彼女は笑いながら視線を逸らした。
「アンタたち、依頼はもう終わったの?一応ここでのことをギルドに報告しておきたいんだけど…頼まれてくれない?」
「あ、ああ……街に戻ったら、必ず報告する……」
マルクスは呆然としたまま頷いた。
まだ、目の前の光景が信じられないらしい。
まあ、無理もない。俺だって今だに現実味がないからなぁ。
なにはともあれ…
俺は空を見上げた。
勝った。
ドラゴンに——勝った。
分身と、仲間と、ピッケルと、思い出したくもない「粉塵爆発」で。
「……やったな」
「やりましたねぇ~!!」
リーシャが抱きついてきた。
「ちょ、離れろって」
「アルト様、かっこよかったです~!! 惚れ直しました~!!」
オルファがため息をついた。
「……とりあえず、ドラゴンの件を終わらせましょう。この鱗、相当高く売れるわよ」
「だな。あと、こいつどうする?」
地面で大人しくなってるドラゴンに目をやる。
「従う気みたいだし、アンタが飼うしかないんじゃない?」
「俺が?」
「当然でしょ。アンタはここの領主で、実際アンタが倒したドラゴンなんだから」
「いや、皆んなで協力し…」
「はいはい、そういうのはわかってるから!しっかり責任持って育てなさいね?領・主・様」
意味ありげにニヤリと笑うオルファを見て、なんだか急に不安になってきた。幸先が悪いなぁ…
「そういえばアルト様~、エサ代とかは大丈夫なんですか~?」
珍しくリーシャが真顔だ。
……餌代。確かに。こいつ、何食うんだ?
……ていうか、こいつデカくてめちゃくちゃ邪魔だな。
「おい、お前って小さくなったりできないの?」
そういうとドラゴンの体が光輝いて、みるみるうちに子犬くらいのサイズになった。
「おぉ!」
「これは可愛いですね~!名前をつけてあげないと」
「じゃあ、コイツは火を吐くから…
「ダサ。
いかにも「うわぁ…」って目でこっちを見ないでください、オルファさん。
かっこいいと思ったのに…
「じゃあ、ヴォルちゃんにしましょう~!」
「そうだな。まずはさっきの傷の手当てをしてやろう!」
「随分派手にやってしまいましたもんね~!アルト様~?」
リーシャがえへへと笑って俺の顔を覗き込む。
平和だ。
なんとかなった。
分身と、仲間と、根性で。
根拠のない自信だったけど——
今考えれば正気の沙汰とは思えない賭けだったけど——
本当に、なんとかなった。
もうすぐ日が沈む。
今夜はようやく安眠できそうだ。
住民10人。信徒5人。邪教教祖1人。レンジャー1人。
——そして、ドラゴン1匹。
俺の領地は、今日からまた少し賑やかになる。
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