第6話 固有スキル【分身】の新しい活用法(発明)

 翌朝。


 砦の広間に、全員が集まっていた。


 「広間」といっても、崩れた壁を板で塞いだだけの空間だ。隙間風が吹き込むし、天井には穴が開いてる。それでも、野ざらしよりはマシだろう。


 周囲には小屋の骨組みが3つ。完成したのはまだ2棟だけ。ダリオたちは交代で寝泊まりしている状態だ。


 ダリオが俺のところに来て、頭を下げた。


「アルト様。俺たちの家より先に、領主様のお住まいを建てさせてください」


「いや、いいよ。お前らの寝床が先だ」


「ですが……」


「俺は砦で寝てる。屋根があるだけマシだしダリオたちは野ざらしだったんだから、まずそっちを優先しよう」


 ダリオが何か言いかけたが、俺は手を振って遮った。


「いいから。——で、本題だ」


 俺、オルファ、リーシャ、信徒5人、ダリオたち元盗賊が10人。

 これが今の全戦力だ。


「さて、作戦会議を始める」


 俺は床に枝で絵を描いた。丸い胴体に翼。ドラゴンのつもりだ。


「まず、昨日の案。巨大パチンコで分身を飛ばして、ドラゴンに取り付く」


「無茶苦茶ですね~」


 リーシャがにこにこしながら言う。


「で、取り付いてどうするんですかい?」


 ダリオが手を挙げた。


「いい質問だ。ドラゴンの鱗って硬いんだろ?」


「そうね。私の矢じゃ貫けない」


 オルファが頷く。


「だから——鱗を剥がそうと思う」


「剥がす?」


「ピッケルで。岩を砕くのと同じ要領だ」


 全員がきょとんとした。


「ちょっと待て。空中で採掘するのか?」


「そうだ。分身にピッケルを持たせて、しがみついた状態でガンガン叩く」


「落ちたらどうするんですか」


「分身は落ちても消えるだけだ。何度でもやり直せるさ」


 ダリオが唸った。


「……なるほど」



「ただし」


 俺は続けた。


「ピッケルで鱗を剥がすのは簡単じゃない。ぶっつけ本番じゃあ危険な賭けすぎる。てことで練習してくるよ!」


「練習?」


「今から分身を出して岩山を削りまくる。採掘の経験を積んでおくんだ」


 分身の経験は解除時に戻ってくる。

 一晩中、分身を10人くらい出して岩を砕き続ければ——相当な量の経験が蓄積されるはずだ。


「分身を解除して俺(本体)に取り込む、その後また出せば全員が熟練の採掘師になってるってわけだ」


「便利すぎません?」


「まぁ出した分身が何人までまともに動けるかにもよるけどね。5人は問題ないとして10人だとアホすぎて経験積めないかもな...」


 リーシャが手を挙げた。


「はい!はい! 私もアイデアあります!」


「どうぞ」


「粉塵爆発です~!」


「……なんだそれ」


 リーシャが嬉しそうに説明を始めた。


「小麦粉とか、細かい粉を空中にバラまいて火をつけると、爆発するんですよ~」


 なんでそんなこと知ってんだ。


「つまり、分身に小麦粉を持たせて——」


「ドラゴンの周りでバラまいて、別の分身が火種を投げ込む! ドカーンです!」


「それ分身は巻き添え確定じゃん!」


「いいじゃないですか~。どうせ消えるんですし~」


 ……まぁそうなんだけど、なんていうかこう、手心ってもんが…


 オルファが腕を組んだ。


「確かに威力はありそうだけど、制御が難しいわね」


「それも大丈夫。何人か失敗してもトライアンドエラーでなんとかなりそうだ」


「……ほんと、分身って便利ね」


「問題は、ドラゴンのブレスのことかな」


 俺は地面の絵に炎を描き足した。


「ドラゴンって火を吐くのが相場だろ?地上に吐かれたらそれこそ終わりだぞ」


「対策はあるの?」


 ……

 皆んな黙り込む。


「ロープで口を縛ればいいと思いまーす!」

 リーシャが声高らかに言った。


 …無理じゃないか?


 「まぁそれくらいしかないわね」

 

 オルファ?!お前まで賛成するのか!



 「アルト様、お願いします!」

 ダリオたちからも期待が伝わる。


 「…わかった、やるよ。さっそく準備に移ろう!」


 俺は立ち上がった。


「まず、必要なものをリストアップする」


 地面に書き出していく。


「ピッケル——10本以上。できるだけ頑丈なやつがいいな」


「うちにあるのは3本です~。あとは鍬が数本……」


 リーシャが申し訳なさそうに言う。


 ピッケルなんて3本あるだけでも驚きなのだが。


「なら、鉄の部分だけ流用して作り直そう。鍛冶の心得がある奴は?」


「俺が少しできます!」


 ダリオの後ろから、1人の男が手を挙げた。


「よし。お前は鍛冶担当だ。ピッケルの刃先を尖らせてくれ。鱗に食い込むように」


「分かりました!」

 男はさっそく取り掛かり始めた。


「次、小麦粉」


「備蓄が少しあります。15袋くらい」


「足りるか?」


「粉塵爆発なら、1袋で十分な範囲をカバーできますよ~」


 リーシャが言う。本当に詳しいな。


「じゃあ問題なさそうだな。余ったら食料用に取ってこう」


「了解です~」



「火種は?」


「松明と、火打ち石があります」


「松明は風で消える可能性がある。もっと確実なやつがいい」


 俺は考えた。


「油だ。油を染み込ませた布に火をつける。分身が抱き抱えれば風除にもなるしな。で、そのまま飛び込む」


「油なら、先日の猪の脂が少しありますね」


「よし。それを使おう」




「縄は?」


「柵用に編んだのが50メートルくらいでしょうか」


「足りない。もっと編もう!ドラゴンを縛り上げるには、相当な量がいりそうだ」


「はい!」



 俺はダリオたちを見回した。


「お前らの仕事は3つだ」


「はい」


「1つ目、巨大パチンコの建造を手伝うこと」


「はい」


「2つ目、縄をとにかく大量に編むこと」


「どのくらいでしょうか?」


「あればあるほどいいからな…大体300メートルくらい?」


 ダリオたちの顔が少し引きつった。


「……わかりやした!」


「3つ目、よく休むこと。明日は決戦だからな万全の体制で挑みたい」


「了解です!交代でしっかり休ませます」



 リーシャが手を挙げた。


「私たちは何をすれば?」


「君たちは小麦粉と油の準備を頼む。あと、火種の管理。作戦実行時に火が消えてましたじゃ困るからな」


 俺も初日の火おこしには苦労したものだ。


 「私、火の魔法使えますよ~?」

 「俺も少しなら出せますぜ!」

 「私も火の属性矢が使えるな。とてもドラゴンまでは届きそうにないが…」


 え、そうなの?俺が火適性Fだから微塵も使えないだけ?

 さっきまで意気揚々と火種確保の重要さについて講釈垂れてたことが恥ずかしいです。

 

 「そ、そうか。なら火種は問題ないな!」


「はい~」


「それとリーシャ——」


「はい!」


「君には後方で皆んなの指揮を取ってほしい。俺は自分の分身の制御で手一杯になりそうだ」


「え~、私も戦いたいです~」


「お前が死んだら信徒たちが困るだろ?」


「……はい」


 リーシャがしょんぼりする。でも、すぐに顔を上げた。


「じゃあ、アルト様のために全力で頑張りますね!」


「頼む」



 オルファが弓を構える仕草をした。


「私は地上から援護するわ。ドラゴンが低空に来たら、弱点を狙う」


「弱点は?」


「翼の付け根、関節の内側、目。あと剥がしてくれれば鱗の隙間を狙えるかも。そこなら矢は通るはずよ」


「わかった。頼りにしてる」


「任せて」




 その日は、準備に追われた。


 巨大パチンコの建造、ピッケルの鍛造、油の抽出、縄の編み上げ、小麦粉は結局小分けにして数を稼ぐことにした——


 全員が汗だくで働いた。


 分身も5人フル稼働。俺の指示で各所を駆け回る。


「そっちの柱、もうちょい左!」


「了解!」


「小麦粉、湿気ないように気をつけろよ!」


「分かってる!」


 夕方には、大体の準備が整った。


 「よし、皆んな。できることは全部やったつもりだ。あとはゆっくり休んでくれ!」


 そういうと各自の寝床に散っていった。ダリオの部下たちはそこでも黙々と縄を編み続けていて助かる。


 この人たち本当によく働くなぁ…





 日が完全に落ちた頃、俺は分身を増やした。


 ボンッ、ボンッ、ボンッ——10人。


 久々に頭がふわっとする。このくらいなら、まだなんとか大丈夫だ。


 そこから微調整を繰り返す。


 結局、12人までが極端なアホにならない今の【分身力】の限界ラインだった。



「お前ら、山に行って岩を削るぞ。朝まで、ひたすら削り続けろ」


「了解」

「分かった」

「任せろ」

「採掘ね」

「眠い」

「やるぞ」

「岩か」

「どこの山?」

「あっちだ」

「了解」

「眠い」


 12人の分身がギャーギャー喚きながらも、ピッケルを担いで山に向かっていく。


 一晩中、採掘の経験を積む。

 朝には、全員が岩を効率よく砕けるようになっているはずだ。多分。


 俺は砦の広間に戻り、焚き火の前に座った。


 本体は休む。分身が働いてる間に、体力を回復させないと。



「アルト様~」


 リーシャが隣に座った。


「緊張してますか~?」


「そうだな。ちょっとだけ」


「大丈夫ですよ~。アルト様なら絶対勝てます~」


「根拠は?」


「愛ですよ~。愛」


「……なんだそれ、根拠になってないじゃん」


「えへへ~」


 まあ、こいつがいてくれるだけで今は気が楽になるのは事実だ。




 深夜。


 山の方から、カンカンカンと音が聞こえる。

 分身たちが岩を削ってる音だ。


 俺は目を閉じた。


 明日、決戦だ。


 ——勝てる。きっと勝てる。


 







 翌朝。


 分身を解除した。


 ボンッ、ボンッ、ボンッ——


 12人分の経験が、一気に頭に流れ込んでくる。


「ッ……!」


 岩の感触。ピッケルの角度。どこを狙えば効率よく砕けるか。

 一晩分の経験が、全部俺のものになった。


 毎度のことだが情報酔いで頭がガンガンするけど——


「……これなら、いける」


 鱗だろうが、剥がしてみせる。

 もはや今の俺にとってドラゴンは魔物なんかではない。ただの鉱山なのである。

 




 遠くで、ドラゴンの咆哮が聞こえた。


 全員が空を見上げる。


 山の稜線に、巨大な影。


「来たな」


 俺は立ち上がった。


「全員、配置につけ!」

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