発見
新しい価値の発見
ある日の夕暮れ、エースは校庭の片隅で子どもたちと野球教室を終え、車椅子に座りながら空を見上げていた。練習中、子どもたちの小さな成長や笑顔を見届けた後の胸の高鳴りは、以前のピッチングの達成感とはまた違う温かさを持っていた。
事故前、自分はマウンドでの力や勝利だけが価値だと思っていた。しかし今は、体の自由を制限されても、人の心を動かす力、励ます力、信頼を築く力――それが自分にあることを知った。
「俺にしかできないこと……」
そうつぶやくと、隣で彼女が微笑んでいるのに気づく。手を握り、彼女は言った。
「あなたがいるだけで、みんな元気になるんだよ」
その言葉が、胸の奥で静かに確かな光になった。勝利や記録ではなく、他者に与えられる影響――それこそが、自分の新しい価値だと実感する瞬間だった。
部活でも、チームメイトの一人ひとりの表情を見て指示を出す。子どもたちにも、失敗しても諦めずに挑戦する姿勢を伝える。自分の体は以前のようには動かないが、言葉と経験で誰かの道を開くことができる――それが新しい「勝利」だった。
そして夜、二人きりで帰宅する途中、彼女がそっと言った。
「ねえ……事故前と同じじゃなくても、あなたはすごく素敵だよ」
その言葉に、エースは笑みを浮かべる。身体的な制約はあるけれど、心の強さや人とのつながり、支え合う関係が、自分の価値を作っているのだ。事故は多くを奪ったが、それ以上に新しい可能性と役割をもたらしたことに気づく。
「俺……やっとわかった。勝利や記録だけが人生じゃないんだな」
夕日が二人を照らす。車椅子に座ったままでも、胸の奥は自由に広がる。部活、社会活動、恋愛――すべてが、自分の新しい価値を形作る一部だ。
事故前の自分には見えなかった世界、事故後に手に入れたもの――それは、自分自身の心と、他者とのつながりによって生まれる「新しい価値」だった。
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