幼馴染と宿屋 何も起きないはずはなく
「キトンへ向けて、出発するぞー!」
フレアは今日も絶好調だ。
行きは行商人の荷台に乗せてもらい、帰りは冒険者と一緒がこの村の慣例らしい。
魔獣や人さらいが出る可能性があるから、できるだけ安全に旅をするってことだ。
本来なら村から誰か大人が付き添うはずだったけど、今年はバタバタしてるらしく、結局俺たち3人だけになった。
行商人のおじさんに挨拶して、荷台に乗せてもらう。
普段クールなノアですら、今日は明らかに浮かれてる。
正直、俺も村の外に出るのは初めてだから新鮮だった。
……まあ、新鮮だったのは最初だけだけど。
おじさんが教えてくれたけど、キトンはこの地方の領主様が住む地方都市で、王都や大都市に比べると小さいらしい。
実際、途中で寄った村々はパラクプテイン村と大差なかった。
本当に田舎の都市なんだろう。
一番先に飽きたのはフレアで、荷台の中は退屈で仕方ないらしい。
ノアは飽きてはいたけど、すれ違う行商人の顔を予想して楽しんでた。
俺は……悪路と変わり映えしない景色に、ただただ眠気と戦っていた。
でも、遠くにキトンの街並みが見えた瞬間、みんなのテンションが一気に上がった。
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キトンに着いたのは、日が沈むのと同時だった。
小さい街と聞いていたけど、実際に見ると全然違う。
石畳の道、煉瓦造りの建物、教会に領主の城まである。
街路灯が大通りを照らしていて、人通りも多い。
中には猫耳の獣人っぽい人もいて……改めて、異世界に来たんだなって実感した。
「宿屋まで着いたんで、アッシはこれで失礼しやす。
タイミングが合えば、ルシカによろしく伝えてください」
この3日間で随分仲良くなったおじさん。
良い行商人の見分け方、星から方角を判断する方法、太陽から大体の時間を測るコツ……
なんでもルシカお姉ちゃんのお父さんと兄弟弟子だったらしく、いろいろ教えてくれた。
異世界生活13年とはいえ、現代人の俺にはこういう知識はありがたい。
晴れやかな気持ちでおじさんを見送った。
……が、宿屋に問題があった。
めちゃくちゃ狭い。
シングルベッドを3人で分け合うしかない。
「俺は床で寝るから、フレアとノアでベッド使えよ」
「フレアは寝相悪いから一緒は嫌。フレアが床」
「えー、嫌だよぉ! 詰めれば3人で寝れるよ、多分!」
「フレアの食費で宿代カツカツなんだから、責任取る」
ノアがいつになく強く主張する。
結局、フレアを真ん中にしてベッドに寝ることになった。
……無理がある。
すでに体がベッドから落ちそう。
「ほーらー、二人とももっと寄って!」
フレアが俺とノアの肩を抱いて、ぐいっと引き寄せる。
ちょっと、フレアさん、胸が当たってますよ!
少し汗ばんだ肌から、森の香りと女の子の匂いが……さすが木こり! 人体の不思議!
「ちょっとリューセー、鼻息くすぐったいよ!」
フレアが無邪気に笑う。
おっと、失礼。レディーの匂いを嗅ぐのは紳士的じゃないな。
クールになれ、俺。
「フレアが真ん中だと二人とも落ちる。せめてリューセーが真ん中」
ということで、俺が真ん中になった。
まさに両手に花。
でも腕枕はさすがに痺れる。
「なぁ、腕枕はやめないか? そろそろ痺れてきたんだが」
「私たちは問題ない」
「俺は問題ありなんだが」
「でも、これじゃスペース足りないよー」
「もしかしたら、解決できるかも」
さすが頭脳担当のノア。
どんな解決策か期待した。
「まず、リューセーが私を抱き枕にする。2人で1人分になる。
そしたら、無駄にでかいフレアでも落ちずに使える」
……なるほど。
俺の理性を考慮しなければ、完璧な解決策だ。
「さすがにそれは……」
やんわり断ろうとしたら、ノアが半ば強引に手を引っ張ってきた。
「やってみなきゃわからない」
ノアを後ろから抱きしめる形になる。
確かにスペースはバッチリ。
けど……ノアさん、これ拷問ですぜ。
お風呂に入ってないのに、ノアの髪からフローラルな香りがするし、こんなの生殺しだよ。
俺は上半身を起こして、本能が暴発しないよう必死に抑える。
「やっぱり俺は床で寝るよ。ノアも抱きつかれて寝にくいだろ?」
「リューセーになら大丈夫」
ノアが少し上目遣いで答える。
今まで見たことない表情だ。
こいつ……色を知る年頃かッ!
全て分かった上で、誘ってやがる。
挑発に乗るな。気づかないふりをしろ。
冷静になれ。俺。
ノアは旅先で情緒がおかしくなっているだけだ。
「抱き枕あっていいなぁ。私もリューセーを抱き枕にする!」
確信犯の罪は重いが、無自覚なのも、罪がある。
その夜、俺がほとんど寝られなかったことは言うまでもない。
厄災を救うはずの聖者ですが、EXスキル『奇跡』はすでに使用済みでした アイリッシュ・アシュモノフ @ddd2000
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