第二十四章 無権限の守護者
暗殺者を撃退してから、一週間が経った。
王都は平穏を取り戻していた。
守護局の活動は続き、王国の治安は安定していた。
誠一は執務室で、報告書に目を通していた。
「局長、各支部からの定例報告です」
エルナが書類を持ってきた。
「ありがとう」
誠一は書類を受け取り、目を通した。
すべての支部から、「異常なし」の報告が届いていた。
「順調だな」
「はい。誠一さんのおかげです」
「俺だけの力じゃない。皆のおかげだ」
誠一は窓の外を見た。
王都の街並みが見えた。人々が行き交い、市場が賑わい、子供たちが遊んでいる。
平和な日常。
それを守るために、誠一は働いてきた。
「誠一さん」
「何だ」
「私、誠一さんに会えてよかったです」
誠一は振り返った。
エルナが、真剣な顔で立っていた。
「どうした、急に」
「ずっと言いたかったんです。誠一さんがいなかったら、私は——」
「エルナ」
誠一はエルナの頭を撫でた。
「お前は、自分の力で生き延びた。俺は、きっかけを与えただけだ」
「でも——」
「これからも、一緒に頑張ろう。俺たちはチームだ」
エルナは目に涙を浮かべながら、頷いた。
「はい!」
そのとき、扉がノックされた。
「入れ」
扉が開き、リーゼロッテが入ってきた。
「誠一、客だ」
「客?」
「国王陛下が、直接お見えになった」
「国王陛下が?」
誠一は驚いて立ち上がった。
* * *
国王オスヴァルト四世は、守護局の建物に足を踏み入れた。
「陛下、このような場所までお越しいただき——」
「堅苦しい挨拶はいい」
国王は手を振った。
「見て回りたかったのだ。お前たちの働く場所を」
「光栄です」
誠一は国王を案内し、建物の中を見せて回った。
執務室、会議室、訓練場、情報分析室——守護局の各部署を、国王は興味深そうに見ていた。
「なかなかやるではないか」
「恐れ入ります」
「お前が組織を立ち上げてから、一年が経つ。その間、魔王軍の浸透工作は大幅に減少した」
「まだ十分ではありません」
「謙虚だな。しかし、事実は事実だ」
国王は窓際に立ち、外を見た。
「桐生誠一、一つ聞いてよいか」
「何でしょうか」
「お前は、なぜそこまで人を守ろうとする」
誠一は少し考えてから、答えた。
「それが、俺の仕事だからです」
「仕事?」
「俺は元々、警備員でした。人を守ることが、俺の存在意義でした。この世界に来ても、それは変わりません」
「しかし、お前には戦う力がない。それでも守ろうとするのは、なぜだ」
「力がなくても、守ることはできます」
誠一は言った。
「観察し、分析し、危険を察知する。人を導き、避難させ、命を救う。剣を振るうだけが、守ることではありません」
国王は黙って誠一を見つめた。
「面白い考え方だ」
「そうでしょうか」
「ああ。私は今まで、力こそが正義だと思っていた。強い者が弱い者を守る。それが当然の秩序だと」
国王は振り返った。
「しかし、お前を見ていると、別の形の強さがあるのだとわかる。力がなくても、人を守れる。それは——新しい発見だ」
「光栄です」
「桐生誠一、これからも王国を守ってくれ。お前のような者が必要だ」
「御意」
誠一は深々と頭を下げた。
国王は満足そうに頷き、去っていった。
* * *
その夜、誠一は城門の上に立っていた。
一年前と同じ場所。
城門警備隊に入った日に、初めて立った場所だ。
「懐かしいな」
誠一は呟いた。
あの頃は、何も持っていなかった。
異世界に転生したばかりで、仕事もなく、仲間もいなかった。
しかし今は違う。
守護局という組織がある。
仲間がいる。
守るべきものがある。
「誠一」
声が聞こえた。
振り返ると、リーゼロッテが立っていた。
「何をしている」
「ただ、景色を見ていた」
「そうか」
リーゼロッテは誠一の隣に立った。
「一年だな」
「ああ」
「お前が来てから、いろいろなことがあった」
「そうだな」
「私も、変わった」
リーゼロッテは空を見上げた。
「お前に出会う前の私は、剣を振るうことしか知らなかった。しかし今は——」
「今は?」
「守ることの大切さを、知った」
リーゼロッテは誠一を見た。
「お前のおかげだ」
「俺は何もしていない」
「またそれか」
リーゼロッテは苦笑した。
「お前は本当に、自分を過小評価するな」
「事実を言っているだけだ」
「そうか。では、これも事実だ」
リーゼロッテは誠一の手を取った。
「私は、お前と出会えてよかった」
誠一は少し驚いた。そして、微笑んだ。
「俺もだ」
二人は手を繋いだまま、夜空を見上げた。
星が輝いていた。
平和な夜だった。
しかし、誠一は知っていた。
魔王軍との戦いは、まだ終わっていない。
これからも、戦いは続く。
しかし——
「大丈夫だ」
誠一は呟いた。
「俺には、仲間がいる」
一人では守れない。
しかし、仲間と一緒なら——
何でも、守れる。
それが、誠一の答えだった。
* * *
翌朝、誠一は城門の前に立っていた。
いつもの場所。いつもの時間。
巡回の開始だ。
「局長、準備できました」
エルナが駆け寄ってきた。
「よし、行くぞ」
誠一は歩き出した。
エルナがついてくる。
城門をくぐり、街へ出る。
人々が行き交う朝の風景。
平和な日常。
これを守るために、誠一は今日も歩く。
「異常なし」
誠一は呟いた。
「本日も、ご安全に」
その言葉は、誠一の祈りであり、誓いであり、存在意義だった。
剣も魔法も使えない。
しかし——
異常を見抜く眼と、人を守る覚悟だけは、誰にも負けない。
それが、桐生誠一という男だった。
無権限の守護者。
異世界でも、警備員。
彼の戦いは、これからも続く——
(完)
警備員×異世界転生_無権限の守護者 ~異世界でも私は警備員です~ もしもノベリスト @moshimo_novelist
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