第二十章 新たな組織

王国守護局の設立は、王都に大きな波紋を広げた。


「警備員が局長だと?」


「騎士団と別系統の組織?」


「国王陛下は何を考えているのか」


貴族や騎士たちの間では、批判と困惑の声が上がった。


しかし、国王の勅命は覆らない。


誠一は王城の一角に与えられた部屋で、組織の立ち上げ作業を進めていた。


「まずは人員の確保からだ」


誠一は机の上に書類を広げた。


「城門警備隊の隊員は、全員こちらに移籍してもらう。ガルバス隊長には、警備部門の統括を任せたい」


「ガルバスは了承したのか」


リーゼロッテが尋ねた。


「ああ。最初は渋っていたが、最終的には引き受けてくれた」


「あの堅物が」


「彼も、変わったんだ。俺と一緒に働くうちに」


誠一は書類に目を通しながら続けた。


「ゴルドには、現場指揮官を任せる。エルナは情報収集担当。ジョルノは教育訓練担当——」


「全員に役割があるな」


「適材適所だ。それぞれの能力を活かせる配置にする」


リーゼロッテは感心した顔で頷いた。


「それで、私の役割は?」


「副局長として、騎士団との連携を担当してくれ。お前は騎士団の出身だから、橋渡し役として最適だ」


「わかった。任せろ」


「それから——」


誠一は立ち上がり、窓際に歩いた。


「王国全土に支部を設置したい」


「支部?」


「各都市に守護局の拠点を置き、情報共有ネットワークを構築する。王都で何が起きているか、地方でも把握できるようにする。逆もまた然りだ」


「壮大な計画だな」


「時間はかかる。しかし、必要なことだ」


誠一は窓の外を見た。


「魔王軍は、まだ健在だ。次の攻撃がいつ来るかわからない。それまでに、守りを固めなければならない」


「そのための組織か」


「ああ。騎士団は攻撃に特化している。しかし、防衛と治安維持には、別の能力が必要だ。それを担うのが、守護局だ」


リーゼロッテは黙って誠一の横に立った。


「……お前は、本当に遠くを見ているな」


「そうか?」


「ああ。私たちは、目の前の敵を倒すことしか考えていなかった。しかし、お前は——敵が来る前に防ぐことを考えている」


「それが、警備員の仕事だからな」


誠一は微笑んだ。


* * *


数日後、守護局の主要メンバーが集まった。


ガルバス、ゴルド、エルナ、ジョルノ、カルロ、ドルフ——城門警備隊の面々だ。そして、リーゼロッテ。


「皆に集まってもらったのは、これからの方針を説明するためだ」


誠一が口を開いた。


「王国守護局は、王都および王国全土の治安維持を担う組織だ。騎士団が外敵と戦うのに対し、我々は内なる脅威から王国を守る」


「内なる脅威?」


ゴルドが尋ねた。


「魔王軍の浸透工作、テロ計画、暗殺——正面からの戦争以外のあらゆる脅威だ。先日の王都防衛戦でも、城門が内側から突破された。あのような事態を、二度と起こさせない」


「どうやって防ぐんだ」


「三つの柱がある」


誠一は指を立てた。


「一つ目は、巡回と監視だ。これまでの城門警備隊と同じく、定期的な巡回と不審者の監視を行う。ただし、規模を拡大し、王都全域をカバーする」


「二つ目は?」


「情報収集と分析だ。各地からの報告を集め、パターンを分析し、脅威を事前に予測する。エルナの能力が、ここで活きる」


エルナが少し誇らしげに胸を張った。


「三つ目は、連携だ。騎士団、商会、市民——あらゆる組織と連携し、情報を共有する。一人では見えないものも、大勢の目があれば見える」


誠一は全員を見回した。


「これらを実現するために、皆の力が必要だ。それぞれの役割を果たし、王国を守る。それが、我々の使命だ」


沈黙が流れた。


やがて、ガルバスが口を開いた。


「誠一、俺は最初、お前のことを軽く見ていた」


「知っている」


「だが、今は違う。お前は——本物の守護者だ」


ガルバスは立ち上がり、誠一の前に進んだ。


「俺は、お前についていく。お前が言うなら、何でもやる」


「ガルバス……」


「俺もだ」


ゴルドが立ち上がった。


「私も」


エルナが続いた。


一人、また一人と、全員が立ち上がった。


「皆……」


誠一は胸が熱くなった。


「ありがとう。皆の期待に応えられるよう、全力を尽くす」


「堅苦しいな」


ゴルドが笑った。


「いつも通りでいいんだ、誠一。俺たちは仲間だろう」


「ああ……そうだな」


誠一も笑った。


こうして、王国守護局は正式に発足した。


新たな組織。新たな仲間。そして、新たな使命。


誠一の戦いは、次のステージへと進んだ。


* * *


守護局が発足してから、誠一は多忙を極めた。


組織体制の整備、人員の確保、予算の確保——やるべきことは山ほどあった。


しかし、誠一は一つ一つ着実に進めていった。


「局長、東門の警備報告です」


「局長、西地区の巡回日誌です」


「局長、商会から情報提供がありました」


次々と届く報告書に目を通し、指示を出す。それが誠一の日常となった。


「誠一さん、休んでください」


エルナが心配そうに声をかけた。


「大丈夫だ。まだやることがある」


「でも、もう夜中ですよ」


「もう少しだけ」


誠一は書類に向かい続けた。


しばらくして、扉がノックされた。


「入れ」


扉が開き、リーゼロッテが入ってきた。


「まだ起きていたのか」


「お前もな」


「私は見回りの帰りだ。お前は何をしている」


「明日の会議の準備だ」


「それは明日でもできるだろう」


「早めに終わらせておきたい」


リーゼロッテは溜息をついた。


「お前は働きすぎだ。体を壊すぞ」


「大丈夫だ」


「大丈夫じゃない。顔色が悪い」


リーゼロッテは誠一の前に立った。


「休め。命令だ」


「お前に命令される筋合いはない」


「副局長として、局長の健康管理も私の仕事だ」


誠一は苦笑した。


「……わかった。今日は休む」


「よし」


リーゼロッテは満足そうに頷いた。


「明日の会議は私が進行する。お前は少し遅れて来い」


「しかし——」


「言うことを聞け」


誠一は観念した。


「……ありがとう」


「礼はいい。お前が倒れたら、組織が回らなくなる」


「そうか」


「ああ。だから、自分を大事にしろ」


リーゼロッテは部屋を出ていった。


誠一は一人残され、窓の外を見た。


月が出ていた。


穏やかな夜だった。


「守らなければならない……」


誠一は呟いた。


この平和を。この日常を。


そのために、自分は何をすべきか。


答えは、まだ見えなかった。


しかし、諦めるつもりはなかった。


誠一は灯りを消し、休むことにした。


明日も、戦いは続く。

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